お人形さん
ラルフの部屋が見える位置まで来るとイアンは手短な場所に座りぼんやりとする
恐ろしいほどの数の星を眺めたり
その星と同じくらい恐ろしい数の屋敷の窓を眺めたり
「…いったい何部屋あるんだ?」
そして想像するのだ
『これだけ広いと屋敷の中でも迷子になるのだろうか…』
…頑張れイアン!
それからしばらくするとラルフの部屋の窓がそっと開き小さな影が駆け寄ってくる
〖イーアーンー!〗
小さな叫び声と共に
こんな感じで見張りなのか何なのか良くわからない夜を繰り返してきた
「お前もよく飽きずに毎回ロープを上り下りするなぁ?キツくないのか?」
何も言われなくてもイアンの隣にチョッコリ座り毛皮のマントに一緒に収まるラルフ
「もう慣れた。階段より楽かも…」
『そんな事あるか!』
と思ったイアンだったが、ラルフくらいの歳の子供のパワーはあなどれない事を知っていた
「それで、何か変わった事は?」
いつものようにイアンが尋ねると
「今日はアンジェラが来た!」
ラルフは大きな瞳をイアンへ向ける
「…アンジェラって…誰だ」
ラルフの瞳があまりにも大きくこぼれ落ちそうだったので人差し指と中指を近づけ目を細ませる
「やめて~!イアン!アンジェラはお婆さまだよ~!お父様のお母様~!」
イアンの目潰し攻撃を体をくねらせ必死に避けるラルフ
「そのアンジェラ婆さん目的は?訪ねて来た理由は?」
今度はラルフの首根っこをホールド
「ぐるじぃよ~!ヴィクトリア!ヴィッキーの事だよ~!」
「ヴィクトリア…」
名前に反応してしまったイアン
腕の力が抜け、その隙にスポッと抜け出すラルフ
「…お前の新しい母親の件…何だったんだ?」
変な意識から名前が言えず《新しい母親》と遠まわしな言い方になってしまった
「まだお母様じゃないよ…それに…ヴィッキーも俺のお母様にはなりたくないって…」
急に元気が無くなったラルフは両足をこすりあわせる
「ヴィ…彼女が言ったのか?」
どうも名前を言うタイミングを取れないイアン
「そう」
ラルフは首を小さくコクッと縦に振る
「冷たい奴だ…子供相手に…」
いつの間にか勝手に想像のヴィクトリアを作り上げていたイアンはそんな彼女の態度に勝手に幻滅した
「でもそんな冷たい感じじゃなくて『お前の母親になるつもりはない』って…上手く言えないけど…たぶん死んじゃったお母様…その変わりにはなれない…みたいな…」
上手く表現出来なかったラルフは頭をグチャグチャにかきむしる
そんな乱れ爆発したラルフの髪を見てイアンが笑う
「…ヴィッキーもイアンみたく笑えばいいのに…」
ラルフの言葉にハッとしたイアンは咳払いをしいつもの無表情をしてみせた
じっとイアンの顔を見つめ
「イアン誰かに似てると思ってたんだ、わかったよ!ヴィクトリアに似てる!そんな顔した時のイアン、笑わないヴィクトリアにそっくり!」
急にそんな事言われたイアンは、なんだか気恥ずかしくなり反論した
「俺が似ているんじゃない、アイツが俺に似てるんだ」
まだ見ぬヴィクトリアに腹を立てるイアンだった
その後ラルフから聞いた話しだと
ラルフの祖母アンジェラはいつまでたってもヴィクトリアを妻に迎い入れようとしないラルフの父親にしびれを切らし、発破をかけに来たようで…
最初は頑なに拒んでいた父親も何度も何度も
「子供ため、ラルフのために」
と説得され最終的に承諾したとの事
当のヴィクトリア本人はと言うと
「ヴィッキーは…そんな事どうでもいいって感じ、お父様の事も…俺の事も…すべてが…どうでもいいって…」
寂しそうにラルフが呟く
「…冷めた奴だな、そいつ…好きでもない男と結婚出来るのか?女ってのは?」
なぜかラルフに詰め寄るイアン
「お…俺…わかんないよ…」
目をパチパチさせラルフは言った
「…お父様の事を好きか好きじゃないかはわからないけど…リタは『ヴィクトリアはお金が目当て』って言うんだ…」
「お金?財産目当てって事か?」
「…そう、でもそんな感じしないんだ、ヴィクトリアは…ヴィッキーは…たぶんお金や財産なんてどうでもいいって人…人なのに…人っぽくない…まるでお人形さんみたい…」
ラルフは悲しそうな声で呟くように言った
「…お人形さん…か、………ところでラルフ」
イアンはラルフを見つめて
「リタって誰だ?」
悲しそうな顔はたちまちふくれっ面になる
「もう!イアン!いい加減覚えてよ!リタは叔母さん!お母様のお姉様!もう!二度と教えないからね!」
ラルフは腕組みをしてイアンを睨む
「…すまん」
本気で謝るイアンでした
【方向音痴】
ナゼか人を覚えるのが苦手




