仮病
「まったく…冗談の通じない子ねぇ~」
小屋に戻り素っ裸のまま焚き火にあたるハロルド
「お前の冗談は冗談にならなん!早く服を着ろ!ケツを見せるな!」
「はい、はい」
促され渋々服を着る
「イアン、あんたもう少し愛想良くしたら~?その方がもっと楽に世の中渡って行けるわよ」
他の人ならまだしも、素っ裸のおっさんに指摘され事にムッとするイアン
「お前に心配されるほど困ってなどいない、それよりも…おっさんこそ、いい大人なんだ少しは落ち着いたらどうだ!?」
「まぁ~!それこそ大きなお世話!あたしは子供心を忘れていないだけなの!あたしはピュアなの!ピュア!」
「…ピュアに失礼だ」
「ピュアに失礼って…あんたなかなか言うわね…まったくあたしだって昔はいい男でモテモテだったのよ!恋愛だってしたのよ!大恋愛よ!」
「モテモテの大恋愛が…なぜ今一人なんだ?」
「…イテテテ…」
お腹を押さえうずくまるハロルド
「質問に答えろ」
「…あたし記憶喪失なの…ここは何処?あたしはだれ?あんただれ?」
「…本気でグーで殴っていいか?」
「いや!グーはいや!」
日が暮れ始めるとぽかぽか陽気の森もいつもの冷たい表情に変わっていく
「ふ…ぶぇっっくしょっ!!」
ハロルド7回目のくしゃみ
「遅すぎた?」
イアンはハロルドへ薄っぺらい毛皮を手渡しながら聞いた
「…ずびっ…そう、もう後戻り出来なかったの…家庭を持つには…遅すぎてたわ」
毛皮を羽織り焚き火の前でハロルドは小さく縮こまる
「よく意味がわからないのだが…結婚に遅いも早いもあるのか?」
「違うわよ!その遅い早いじゃなくてぇ、大切な人が出来た時には…その時にはあたしの手は汚れすぎていたの…そんな男と一緒になったら不幸になるだけよ…」
「…人を殺めた(あやめた)事を内緒にしたらどうだ?」
「…イアン、あんたは無かった事に出来る?今までの自分の行いを隠して生きていける?…あたしは無理」
冷え切った小屋の中2人は焚き火の炎を無言で見つめていた
なんとも寂しいえづらだ…
ハロルドはそっと毛皮の隙間から上目遣いでイアンを見つめる
「好みのタイプは?」
薪を束ねていたイアンは呆れて肩を落とす
「…まだ言っているのか?」
「好きな人がいなくても好みのタイプくらいはあるでしょ!?」
もう興味津々のハロルドは止まらない
完全無視で薪を部屋の隅に並べるイアン
「ねぇ!ねぇ!教えてよ~!」
「他人の好みのタイプなど聞いて何が楽しい?…女なんて面倒なだけだ…すぐ怒るし、すぐに泣く…」
「そこが可愛いんじゃない!…ねぇ!ねぇ!好みの髪の色は?目の色は?……!!そうだ!ブルネットは!?ブルネットの髪好きでしょ!!」
何を根拠に言ってるのかわからないが…結構当たってたりする。あなどれないちっちゃいおっさん
「ブルネットの髪、そうね~巻き毛で濃いブラウンの瞳…そばかすがあるけど品のある顔立ち!?どお?どお?」
何とも具体的なイメージだが
「…誰の事を言っている?」
「ヴィクトリアよ!ヴィキー!」
手を口に当てイアンは考える
「ヴィクトリア…聞いた名だな?」
「もう!坊ちゃんの新しいお母さんよ!」
ハロルドはじれったかったのか毛皮を思いっきり引っ張た
ラルフの継母をすすめるハロルドにさすがに呆れたイアンは淡々と夕食の支度をはじめた
「いいじゃない、まだ再婚した訳じゃないし。年もあんたの方が近いし…」
「そんなに若いのか?父親と年が離れているとは聞いていたが…」
「だからラルフのお父様はいまだに再婚しないの。彼女は若すぎるって…でも一番の理由は亡くなった奥様を愛していたからだと思うの!それって素敵な事じゃない!?」
「…はいはい」
恋だの愛だの興味の無いイアンにとってはどうでもよい話だったようで…
「ところでハロルドのおっさん、今日の当番はあんただろ?」
振り向くイアンの目にお腹を抱え瞳を潤ませながらうずくまるハロルドが…
「…お腹が…イタいの…イタいの…」
「はぁ……お前は子供か…」
ため息をつき呆れながらもイアンは出かける支度をはじめた
それを見たハロルドは急に元気になり
「近道教えてあげる!!」
嬉しそうにイアンへすり寄る
そんなお調子者を見下ろし
「必要ない!近道など必要ない!」
イアンはハロルドの薄っぺらい毛皮を蹴り上げる
「いゃぁ~~!」
毛皮をはぎ取られたハロルドはまるで裸を見られた女子のような声を出し逃げまどう
「まて!変人!」
薪を手に追い回すイアン
そんなイアンだけど、本当は薄々気がついていた
ラルフの所に行くのも、その道のりが険しい事も
そのすべてが苦に感じなくなっている事を
少し楽しみにしている自分を…




