解決策
なぜこんな事になってしまったのか
アルとキキを追い出した後の居間は静まり返っていた。
あまりにも静かすぎて暖炉の中で焼ける薪の音が響く。
お父様はなぜこのような多額の借金を作ってしまったのだろうか?
一体何に?何のために?
貴族の出ではないが、それなりの地位のある領主であり、慎ましく暮らしていたはず…
はずだ…けど…
もしや、あの時欲しがったお人形のせい!?それともわがまま言って買ってもらったあの帽子!?
そんな些細な贅沢ではあのような多額の借金にはならないとわかってはいるが、考えずにはいられなかった。
いや!いや!
今はそんなこと考える場合では無い!
エマ!現実から逃げてはいけない!
今を《何とかしなければ!!!》
考えた。今まで考えた事など無いほど考えた。
考えて、考え抜いて、エマは思いついた。
「!!この紙さえ無ければ!証拠はこの紙だけ!この紙を消してしまえば!?」
エマはそっと居間の奥で燃えている暖炉の火に目をやった。
「その紙はあくまでも《覚え書き》です。正式な借用書はローランド伯爵様が大事に保管されております。燃やしたければどうぞ」
ヘンリーは出された紅茶の香りを楽しみながら、チラッとエマを見て微笑んだ
まったく!
お客人でなければ蹴飛ばしてやりたいほどだ!
浅はかな考えを読まれ恥ずかしくなったエマはうつむきながら《覚え書き》を小さく小さく折り畳んだ。
そして隙があればホントに暖炉に投げ込んでやろうとも思った。
「ヘンリー様、いくら何でも急すぎます!どうかローランド伯爵に後一年待って頂くようにお願いできませんでしょうか!?」
やっと出た言葉であったが、一年待ったとしてもとうてい返せる金額ではない。
「一年待てば返せるアテがあるのですか?」
ホントに痛いところばかり突いてくる嫌な奴!
そんなのある訳がないでしょ!
そう言いたい気持ちを抑え、少しでも返却日を伸ばせるなら!そうエマは願った。
しかし、ヘンリーは首を縦には振らなかった。
そのかわり持っていた封筒から一枚の紙を取り出しテーブルへ置いて、こう言った
「ローランド伯爵様はとてもこのお屋敷が気にいっております。自然の多さ、ポーチの美しさ…どこをとってもとても素晴らしいと絶賛されておりました。つきましては、借金が返せないようでしたら、この屋敷とランドール家所有の土地を借金の代わりにと申しておりまして…」
何と言う条件だ!
「私達にこの屋敷から出ていけと言うのですか!?」
あまりの事に声がうわずってしまった。
「それはあまりにも酷な!」
ヴィッセルも声を荒げて反論した。
「いえ、そうではありません」
紅茶をすすりながらヘンリーはこう付け加えた。
「出て行くのは、あなた達だけではなく村人全員です」
日が暮れ暗くなった居間に灯りが入れられる。
外には糸のように細い月が登っていた。