薪戦争
「絶対!いつかは『ハロルド』って呼んでもらうから!」
未だ呼び名にこだわり続けるハロルドと呆れて返事さえしたくないイアン、2人の小屋にも暖かい日差しが差し込みはじめていた
役目を終えた焚き火が小屋の真ん中でプスプスぼやく
観念したのかハロルドがやっと重い口を開いた
「イアン…あんたメイドから依頼を受けたって言ってたけど…」
「…あぁ…そうだ。あの女はラルフの所のメイドだ、何度か街で見かけた事がある、間違いない」
「ふ~ん…」
ハロルドは少し考えるような素振りをしたが…やめた
「メイドが犯人ではないのか?」
「ラルフを殺したって彼女に何の得もないわ。それにいくら金持ちの屋敷のメイドと言ってもあんたを雇う程のお金を彼女が持っているとは思えないし…」
「メイドも雇われたって事か?他に犯人がいるのか?」
「…や~ね~、みんな美味しい思いはしたいけど自分の手を汚すのは嫌なの。最終的にはあたしやあんたみたいな地べたを這いつくばって生きているような奴がしょぼい金もらって死んで馬鹿見て『はいっ!おしまい』ってね」
「なんだ…それ」
イアンは鼻で笑ったが、実際自分もそうなりかけたのを思い出し軽く咳払いをしてごまかした
「で、ハロルドのおっさん…犯人を教えてくれない理由は?何か理由があるんだろ?」
ハロルドはジッと手のひらを見つめながら
「別に教えたくないって訳じゃない…ただ知らない方が安全って時もあるの。『本当に知らない』と『本当は知ってるけど知らないフリ』は違いが大きすぎるの」
「違い?」
「『知らないフリ』はどんなに『フリ』をしたって空気や雰囲気が違うの、それを読まれて悟られたら大変よ!あんたや坊ちゃんをそんな危険な目にあわせる訳にはいかない…それに感づかれて焦って事を急がれたら困るし…」
「事を急ぐ?…どう言う意味だ!?やはり何か企んでいるな!?」
イアンが睨むと同時にゴロンと体勢を変え背を向けるハロルド
「…まったく…まぁいい、そうやってもたもたしている間にも大事な坊ちゃんがまた狙われるぞ」
「それなら大丈夫!」
いきなりグリンっとこっちを向き親指をグッと立て
「イアン、あんたの失敗で相手も当分は派手な動きは出来ないはず、それになかなか坊ちゃんの命を奪えない事を不信に思いはじめているみたいだから…そろそろあたしの存在もバレる頃ね…あ~!ますます慎重にならなきゃね!」
ハロルドは嬉しそうに足をバタつかせた
どう見てもこの状況を楽しんでいるようにしか見えない…
「他に言いたい事のある方~」
おちゃらけるハロルドに
「今度『失敗』って言ったら本気で殴るからな…グーで…」
指を鳴らし睨むイアン
「ひっ…!!」
慌てて背中を向けハロルドは足元のブランケットに潜り込み
「なによ!失敗は失敗じゃない!」
小さな声で反論した
「オイ…ハロルドのおっさん…」
「今度はなによ!」
「…屋敷までの道順…わざと険しい道を教えたな?」
ガバッとブランケットをめくりハロルドが顔を出す
「まあ!何て事言うの!?人がせっかく親切で教えてあげたのに!ははぁ~ん…あんたには険しすぎたかしらねぇ~…まぁ~あたしは毎日通っているから余裕で行けちゃうけど~」
勝ち誇った顔でイアンを見る
一瞬『イラッ』としたイアンだったがここで怒ったらまたアイツのペース、何とか冷静を取り戻し
「…自分で探す…」
そう言って少し横になった
「探せるものなら探しなさいよ!こっちはタダで教えてやってるてのに…『べー』だ!!」
顔は見えないがきっと自分に向かって舌を出しているであろうハロルドに向かってイアンは側にある薪を投げる
「きぁーー!何するの!!乱暴者!!」
投げられた薪を投げ返すハロルド
と、同時にイアンは薪を数本投げつける
「もーーー!なんなのーー!」
地味な戦いの始まりだった




