変人タヌキオヤジ
「お前『新しいお母様』ってやつにはもう会ったのか?」
「ヴィクトリアの事?」
「ヴィクトリアかどうだかはしらないが、父親の再婚相手だよ」
「会ったよ。ヴィクトリアはお母様より若くて…お母様とは全然違うんだ」
「そりゃ他人だからな」
「も~イアンそれくらい分かってるよ!そうじゃなくて!」
ラルフは上手く表現出来なかったのが悔しくイアンの脇腹を肘で小突いた
「!!!いってぇーーー!」
脇腹を押さえ突然イアンが倒れ込む
驚いたラルフは
「!!イアン!!どうしたの!!イアン!大丈夫!!」
青ざめうずくまるイアンの肩を懸命にさすり必死に声をかける
「…………おまえ…が………刺した……んだろ……クッ!」
イアンは痛みに耐えながら声を絞り出す
「イアンを!刺した!?俺が!?……!!」
ラルフは目を大きく見開き驚いていた
「…?…覚えていない…のか?…あの夜の事!?俺を刺して窓から突き落とした事を!?」
「あれは!…あれは…夢だと…」
「夢…?」
「…自分の体じゃなく他の人の体になったような…だから夢なんだって…夢だから何でも出来るんだって…」
ラルフはその時の事を必死に思い出しながらイアンに話す
「ただ自分がとても怒っていた事と…光…何かの光を見た事は…何となく覚えてる」
「光は…雷だ、あの日の夜は雷がすごかったからな」
「気がついたらイアンの肩を押して…そこからははっきりと覚えてる…顔も表情も…落ちていくイアンの体も…だから!だから!慌ててハロルドを呼んだんだ!」
脇腹の痛みが徐々に和らいでくると、イアンは何となく読めてきた
「お前、あの日ハロルドから何か食べ物をもらったり飲まされたりしなかったか?」
「ハロルドから?たしかあの日は…嫌な予感がするってハロルドが言ってて、でも『心配ご無用!このハロルド様が坊ちゃんをお守りしますからね!』と…そうだ!小瓶…小瓶をもらった!眠る前に開けて匂いを嗅ぐとグッスリ眠れるからそう言って…でも匂いを嗅いだ後…その後から…」
イアンはゆっくり体を起こし服をまくる、傷口は綺麗な布でガッチリ固定されておりそのおかげでうっすら血が滲む程度ですんだ
「……ごめんなさい…」
痛々しい包帯を見てラルフの瞳から涙が溢れ出す
「これはお前がつけた傷ではない…お前の体を使ってあの変人タヌキがやったんだ!」
どうやらラルフはハロルドに【催眠術】をかけられたのかもしれない
普通の人なら考えられない事だが
「あのおっさんならあり得る!」
イアンはそう確信した
「ハロルドは!ハロルド魔法使いなの!?」
「あぁ…魔法使いみたいなもんだ、出来ることなら本当に魔法使いであってほしいくらいだ…」
「…魔法使いであってほしい?」
「アイツが、あの変人タヌキオヤジが俺と同じ人間だとは思いたくない…いや、出来る事ならもっと別の生き物であって欲しい…昆虫や植物でいいから…」
「??」
ラルフはイアンの言っている事がまるっきり理解できなかった
「ほら…そろそろ部屋に戻れ。風邪でもひかれたら困る」
「……」
「どうした?」
「また来てくれる…」
「俺か?…まぁおっさん次第だな、どうしてだ?」
「…怪我をさせた俺のこと…嫌いなのかなって…思って」
「心配するな…忘れたのか?俺はお前を殺そうとしたんだぞ?それに比べたらこんな傷たいしたこと無いぞ」
確かにそーだ。
「…ありがとう」
「何がだ?」
「話しを聞いてくれて」
「あぁ…」
「じゃぁ、戻るね」
「あぁ…」
ラルフは小走りで戻っていく…
と思ったら戻ってきて
「それすごく暖かいね!!」
そういって毛皮のマントを指差した
「あぁ…これか?これはおっさんからもらった…事になるのか?…とりあえず今は俺の物だ」
イアンは直接手渡されたわけではないので曖昧な返事をした
「いいなぁ…ハロルドからもらったんだぁ…」
ラルフはなごり惜しそうに何度も何度も毛皮をなでる
「…欲しいのか?」
イアンの問に
ラルフは首を強く縦に振る
そんなラルフを見つめながら
「やらねーよ」
イアンはわざと子供っぽくイタズラに言った
「ケチ!イアンのケチ!意地悪!」
「意地悪ではあるがケチではない。お前こそ毛皮なんぞ腐るほど持っているだろう。金持ちのお坊ちゃんなんだから」
「お坊ちゃんなんかじゃないよ!それに俺はハロルドの物が欲しいんだ」
イアンはこのままでは部屋に帰りそうにないラルフに苦笑いし
「わかった、くれてやる。だけど今じゃない」
「いつ!?」
「俺が飽きたらだ」
「……」
ラルフは眉間にしわを寄せた
「早く部屋へもどれ」
イアンは軽くラルフの肩を押す
「約束だよ、飽きたらくれるって」
「わかった…だから早く行け!」
もう一度肩を押し無理やりラルフの向き変えた
「絶対だからね!約束だからね!」
ラルフは何度も振り返りながら小さな声で叫んだ
「わかったって言ってるだろ!」
ラルフは部屋の下に着いたかと思うと器用にロープを使って壁をよじ登りあっという間に窓から部屋の中へ入っていった
ぼんやり見える影、ラルフの影が精一杯腕を伸ばしイアンに向かって手を振る
こっちは暗闇、どうせ見えやしないだろうと思いながらもイアンは立ち上がり手を振った
なんて長い1日だ
色んな事がいっぺんにありすぎた
これから俺はどうするのか!?
イアンは自分自身に問いかけた
ただ小屋に帰ってからの事は決まっていた
「あの変人タヌキオヤジ…どうやって白状させるか…」
イアンの長い長い1日は…まだまだ終わりそうになかった




