条件
イアンが(不本意にも)ハロルドと結んだ【条件】
『ラルフが母親の敵討ちをするまで彼の身を守ると約束したハロルドとラルフの【取引】をハロルドからイアンが引き継ぐのが【条件】』
なんともややこしい【条件】だが…
まさか今更そのラルフの命を狙ってこんな怪我をしましたとは言えず…
ましてや【根無しのハロルド】ならそんな事すでにお見通しのはずだ…知っててわざと条件にしたのか?…どちらにしろ読めないこの男の事だ何か企んでいるのだろう…
「あたしもね~頑張ってはいるんだけどぉ~何て言うのぉ~ほらぁ~あたし自身一応命を狙われているじゃなぁい?自分の身も危ないのに坊ちゃんの身を守るのは結構キツいのよね~……何よ………その目は!言っておきますけど!年のせいじゃ無いわよ!!」
イアンの冷たい視線から目をそらしハロルドは何も無い天井を見上げる
「…年のことは置いといて…なぜ…そこまでしてラルフとの取引を守る?裏切るのは【根無しのハロルド】の得意技ではないのか?あんな子供との約束義理立てする事も無いだろう?」
ハロルドはそばにあった薪をイアンへ投げつけ
「まぁー!あんな噂信じてるの!?こんな人達がいるから【噂】がどんどん真実味を帯びて行っちゃうのよ!?あんなデタラメな話信じちゃダメ!ダメダメ!!」
「イタッ!!無抵抗な人間に物を投げるな!!」
イアンは懸命に首を起こしてハロルドを睨む
「あたしは約束は守る主義なの!!嘘は嫌い!!今までだってあたしは頼まれた事を実行しただけ!相手が嘘をついたり、欲を出してあたしをおとしいれたり、命を狙ったりするからおかしくなっちゃったのよ!!みんな自業自得なの!それなのにひどい!嘘つき呼ばわりするなんて!情けなくて泣けてくるわ!」
一番裏切りそうで、嘘つきっぽい彼の意外な言葉だった
「わかった!わかったから!物を投げるな!!」
半分以上わざと薪を投げているであろう嘘泣きのハロルドにイアンは叫ぶ
「一応信じてやる!…それで!俺は何を!?一日中坊ちゃんを付きっきりで守るのか?それに…あんたの事だ母親殺しの犯人の目星くらいついているんだろう?」
イアンはふとラルフ殺害の件を依頼してきた女の事を思い出していた
「まぁさぁかぁ~!そんなの分かるわけ無いじゃない~!《殺された》ってのも坊ちゃんが思っているだけで勘違いかもしれないしぃ、でも今坊ちゃんが命を狙われているのは本当なのよね~…それが母親殺しの件と関係があるのか…無いのか…」
「で?それで…何をすればよい?」
「部屋を見張るの」
「部屋を?」
「そう。坊ちゃんの部屋を見張るの」
「見張るって…どこから見張るのだ?」
「外からに決まってるじゃなーい!坊ちゃんの部屋の窓が見える場所から見張るの!」
「ただそれだけ…?」
「そう、ただそれだけ…見張るだけ」
「それでラルフの身が守れるのか!?もしその時に何かあったら!?」
「その時は、その時!大丈夫!坊ちゃんにはその時の為のノウハウを教え込んであるから!この『どんな闘いも勝利へ導くハロルド』が直々教えた闘いのノウハウを!ね」
イアンは不意をつかれたとは言え、ラルフに刺された事がやっと納得ができた
この男が絡んでいたからだ。
そしてラルフはきっとハロルドから知らされていたんだろう
『今夜お前の命を狙った奴が忍び込んでくるぞ』と
イアンは意を決し聞いてみる
「あんた、この傷がラルフに刺された傷だって知っていたんだろ?」
ハロルドはニッコリ笑って
「残念~坊ちゃんの部屋の窓から落ちてくる所しか見てないわよ~刺されたところは全然見てないわ~」
イアンは平然と言ってのけるハロルドに苛立った
「子供にあんな残虐な事教えて平気なのか!?あいつ人を刺した事何とも思っていないぞ!?」
ハロルドは相変わらずニヤニヤ笑いながら
「…あんたに言われたくないわよ。あんたも同じ…人の命を奪う事なんて何とも思ってないんでしょ?あなた達2人同じ目をしているわよ。この森の霧と同じ…深くて冷たくて悲しげな目…いったい誰がこんな子供にしたのか!腹が立ってしょうがないわ!」
ハロルドはまたイアンに薪を投げつけた
「だから!!動けない者に物を投げるな!!」
イアンはハロルドと言う男が分からなくなってきた
噂とは違い過ぎる。
噂が大袈裟すぎたのか…
これが本当の彼の姿なのか…
「そう!そう!言い忘れていたわっ!」
「今度は何だ…」
「身を守る条件にパンとワインを差し入れしてくれる事になっているの!水曜日と土曜日は差し入れの日!忘れず持ってくるのよ!?」
「持ってくる?ってどこから!?」
「坊ちゃんが部屋の下の茂みに用意してくれるのよ」
そう言ってハロルドは棚からワインを取り出しチビチビ飲み始めた
「…そう言えば…こんな噂を聞いたことがある…『エドワード・ハミルトンの息子は母を亡くしてから子供なのにお酒を飲むようになった』と…あれはお前のせいか!?」
「…あら…そんな噂初めて聞いたわ…世の中暇な人が多いわね~」
ハロルドはさほど気にもならなかったようで空になったワインボトルをのぞき込んでいた
「…なんて奴だ、自分が絡むと知らぬ振りか…やはりあんたは卑怯者のようだな」
イアンは目を閉じ壁へ顔を向けた
しばらくそんなイアンの背中を見つめていたハロルドだったが小さく咳払いをして
「今日はもう寝な…起きる頃には体も自由に動いているわよ…」
そう言って寂しそうにワインボトルを抱きしめ横になる
時間がたてば体が元に戻るなら【条件】など約束するのでは無かったとイアンは後悔したが、どこか行くあてもない今、ましてやラルフ殺害を失敗し今度は自分が口封じに狙われる可能性もある…
ひとまず傷が癒えるまではこの【根無しのハロルド】らしき男に付き合うしか無いようだ
森の霧は一段と濃く深くなっていった




