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殺し屋さん

イアンとウルフが出会ったのは、ウルフがまだ『ラルフ』という名で呼ばれていた頃、月も星も無い夜の闇の中。

まだあどけなさが残るラルフの寝顔を見下ろしイアンは息を潜めていた。


美しい黒髪に透けるような白い肌、ラルフの寝顔を見つめる灰色の瞳は果てしなく続く闇を見つめているようだった


『母親を亡くしたばかりで自分の命を狙われるとは…哀れな奴だ…』

長いまつげを下ろし静かに寝息を立てているラルフの首筋に(やいば)を当てイアンは呟いた

「死んだほうがましな時もある…」



年若きイアンにとって人の命を奪うのは呼吸をするのと同じ、日常的なものだった


頼まれれば誰でも殺す、それが女性でも子供でも、そんな冷酷で残虐な事でしか自分の存在価値をイアンは見いだせないでいた


そんなある日、イアンのもとに女が1人訪ねてきた、大金と依頼を持って。

もちろん殺しの依頼…


『エドワード・ハミルトンの息子、ラルフを亡き者に』



エドワード家は誰もが知っている貴族、その家系のハミルトンの息子を殺害するのはかなり無謀な話し。


「いくら腕の立つお前でも無理な話しかね?」

薄暗い部屋の中、イアンと向き合いお茶をすすり女が少し笑みを浮かべながら尋ねた


「…無理かもしれないな…だが、無理かどうかではなく、やるかやらないか…それだけだ…しかし、わざわざ私が手を下さなくともあなたには彼を殺すチャンスはいくらでもあるのでは?」

灰色の瞳を細め微笑む


女は静かにカップを置き

「…子供だからって…甘く見ない方がいいわよ」

カップのふちを指でなぞり、イアンを睨んだ


目の前の揺らめくろうそくに手をかざし

「…引き受けましょう。どうせなら楽しめる方が良い…」

イアンはそう言って灯りに照らされ浮き出た己の手の動脈を眺めた


『この血をすべて抜き取り善人の血を注いだら…私も善人になれるだろうか…』

善人になりたい訳ではない、ただ自分では無い誰か他の存在にイアンはなりたがっていた



「熱くないのかい?」

イアンの手を見つめ女が聞く



「………熱いかも……」

ろうそくの炎で焼けて少し赤くなった手のひらを見つめイアンはボソッと呟いた


空は雲行きか怪しくなっていた

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