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やっと登場

ランドール家には二つの【招待状】が存在していた


一つはエマ宛に届いた≪本物≫の招待状、もう一つはヴィッセルの妻が預かった招待状を細工した≪偽≫の招待状


彼は招待状の他にも、エマを舞踏会へ行かせる為の≪秘策≫もいろいろ用意していた…のだが


いとも簡単に舞踏会行きが決まってしまったので戸惑っていた


舞踏会へ行くことを説得するだけで2~3日はかかると思っていたし、ましてや【花嫁探しの舞踏会】とわかれば説得さえ出来ないと心配していたからだ


「想定外だ…」

思わず声が出てしまう


「何が?何が想定外なのですか?」

エマの言葉にヴィッセルはハッと我に返る


「いや…素晴らしい事です!一度は【舞踏会】に行かれてみるのも良い事だと思います、エマ様ほど美しく、教養もある方なら大丈夫!」


軽蔑されたのでは無いとわかったエマは胸をなで下ろした、実際彼の言葉は人を納得させる何かがある


「しかし、あまり御日にちがございません、早めにご準備されては…」


ヴィッセルはローランドの手紙の下に不自然に入った左手と隠した偽の招待状を『どうしたらよいか…』と悩んでいた


「一緒にお供する世話係はどうされますか!?誰かご指名下さいませ」

こう言っておけば、きっとキキのところへ急いで行くだろうと予想しての言葉だった…

そんなヴィッセルの思惑通り


「!!そうだわ!キキとアルに頼まなきゃ…ヴィッセル様申し訳ありませんが…急いで…」

と、エマが言い終わらないうちに


「大丈夫です!どうぞお気を使わないで下さい!さぁ旅の支度を!さぁ!」

ヴィッセルの勢いに驚きながらも

「…それ…じゃぁ…お言葉に甘えて失礼します…」

せかされるようエマは居間を後にする


エマが渡り廊下を歩いてキキのところに行く姿を居間の窓から確認すると

「…第一難関突破っと言うところですかな…さて…忙しくなってきますな…」

エマの後ろ姿と手にした二つの手紙を見つめ


「…ハミルトン家の…子供達ですかぁ…」


ヴィッセルはこれから起こる出来事に不安を隠せなかった


「賽は投げられたのだ……」

自分にそう言い聞かすと、2つの手紙を内ポケットへと押し込んだ


しかし、やっぱり気に入らないのか

「よりによって…ハミルトンかぁ…」

ぼやきながら居間の扉を押し開けた


なぜヴィッセルが悩むのか?そしてぼやくのか?


それは今回の花嫁探しの当事者達が彼にとってあまり好ましくないからだ

彼らについての【噂】が…


今回の【婚活舞踏会】の招待状の差出人リチャード・ハミルトンの息子アランを筆頭に彼等の【噂】は悪いものばかりが聞こえてくるのだ


整った顔立ちと恵まれた体格、その上貴族、そのやっかみからのデタラメな【噂】もあるが、故エドワード・ハミルトンの息子ラルフに関しては【噂】の質が違っていた


彼は幼き頃に心と身体に深い傷を負ったのを原因に、その後人に対して心を閉ざしてしまい


深い


深い


森の中


霧の濃い森の中


その森の小高い場所にある屋敷に数名の使用人だけを連れ、何にも関心無く、夢も希望もなくただ毎日を過ごしていた



顔の左半分に受けた火傷の痕を覆う黒い眼帯と黒い髪、手入れなどする気もない無精ひげ、それに加えて人並み以上の恵まれた体格。

それは時には威圧感さえ感じるほど…


それでも不潔さが感じられないのは生まれ持った貴族の血なのか?


その風貌からついた呼び名が【ウルフ】

実際【ラルフ】と言うより【ウルフ】の方がぴったりだった



世間は彼の事をこう呼んだ


「霧の城の狼」と

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