もう一つの夜
真夜中、雨が小降りになった頃、ピーターとケイティは帰り支度をしていた
「これくらいの雨なら大丈夫かもしれないね」
ピーターは馬車に荷物を積み込みながら言った
「ごめんなさい、あたしのわがままで…」
ケイティは最後の荷物をピーターへ手渡す
「謝らないでほしい、私も同じ気持ちだから…エマに、おてんばなお姫様に早く会いたいよ」
荷物を受け取りケイティへ微笑む
「ありがとう」
荷物で両手がふさがったピーターへキスをした
予想していた通りパーティーと雨は夜遅くまで続いていた
ピーターとケイティは翌朝帰る予定をしていたが雨が少し弱まってくると、《娘への思い》が強くなっていった
「エマ…寂しがっていないかしら…」
そう言って窓の外を何度も眺めるケイティに
「寂しいのは君の方では?」
ピーターは窓に映ったケイティへ話しかける
「もう!……でも…そうかもしれない……子離れが出来ないダメな母親ね」
ケイティは苦笑いをした
「それじゃ、私もダメな父親だ」
そう言ってケイティを抱き寄せ
「もう少し雨が小降りになるようなら…今夜は泊まらずに帰ろう」
ケイティはピーターの腕の中で彼の優しさに感謝した
小雨の中、馬車はゆっくりと山道を進んで行く
行き先を照らすランプを頼りに
時折、山の向こう側を稲妻が駆け巡る
「エマ…」
不安な気持ちを打ち消すようにケイティはピーターの手を強く握った
馬車は山道をゆっくり進んで行く、ゆっくりと…
早く娘に会いたい気持ちも手伝ってか思ったより早く山道を抜けることが出来た、もうすぐ見慣れた村が見えてくるはず
そう思えた瞬間
耳を胸を打ち抜くような衝撃と眩しい光が2人を乗せた馬車を襲った
【落雷】
すぐ近くの大木に雷が落ちたのだ
ピーターはとっさにケイティに覆いかぶさる
雷に驚いた馬は必死になだめる御者を投げ出し暴走した
「キャー!」
「ケイティ!しっかりつかまって!」
ピーターはケイティを強く抱きしめケイティもピーターにしがみついた
馬車は道を外れ木々の中を駆け巡る
大きな木の根に車輪を乗り上げると馬車は大きく傾き馬を巻き込みながら茂みの中へと倒れた
「ケイティ!!」
ピーターは自分はどうなってもいい、でもせめて!ケイティだけは!
そんな思いで必死に彼女を守った
「きゃー!あなたー!」
「!!ケイっ!」
運が悪かった
ただそれしかなかった
雷はその一度だけ
それが最後
次第に空が明るくなり、厚い雲の間から少し欠けた月が顔を出し始める
辺りは静まり返り、月明かりは茂みの中で動かなくなった2人を照らし出した




