読めない手紙
話はさかのぼる事、2週間前
ヴィッセルの元に一通の手紙が届いた
差出人は《ライフ・ローランド》
心当たりのない名前である。
しかしとても品のある紙、質の良いインクで書かれているところ見ると重要性の高い手紙であることには間違いない。
ヴィッセルはすぐさま手紙を開封した。
それから一週間、彼はほとんど食事も取らず部屋に閉じこもってしまった。
メイド達によると時には頭を抱えこみ、時にはぶ厚い辞書を何冊も読みあさり、何かに苦悩している様子だったと言う。
その一週間後、今度はひとりの男性がヴィッセルを訪ねてきた。
シルクハットから赤い巻き毛が覗く、そうローランド伯爵の使い、ヘンリーである。
その時ヘンリーの訪問をわかっていたかのようにヴィッセルが部屋から飛び出し、すぐさま出掛ける用意をはじめた。
ランドール家へ向かう準備を。
屋敷の外にはローランド伯爵の立派な馬車が用意されており、ランドール家へはこの馬車を使った。
重い心持ちとは対照的に道中はとても快適であった。
そして今
その手紙はヴィッセルからあたしへ手渡された。
「ヴィッセル様!お手紙には何と書かれていたのでしょうか!?」
不安で手紙を開ける事が出来ずこわばっているあたしの肩に、優しくヴィッセルは触れ
「どうぞ手紙の内容を確認されて下さい」
と、言って目を伏せた。
(…決定だ、悪い知らせに決まっている)
そう心でそうつぶやきながら、ゆっくりと手紙を開く…
何という事だ!
《悪い知らせ》
そんな事問題ではない!
その以前に…
読めない!
いや、書いてある文字が解らない!
異国の言葉で書かれたその手紙は読み手の国籍や語学力など一切無視されまま、永遠と書き綴られていた。
その上お世辞にも達筆とは言い難い、何ともいえない(味がある)字をしていた。
ヴィッセルが部屋に閉じこもっていた理由はこれだったのか!?
辞書とにらみ合いこの何ともいえない文字を解読していたのだ。
その内容にはきっと使いの者を向かわせる事も書かれていのだろう、だからヘンリーが訪ねて来ることもわかっていたのだ。
さぞや大変な作業であっただったろう
エマはヴィッセルの顔を見上げ
哀れみの表情で呟いた
「ご苦労さま」