悪夢
「何という事だ……」
ヴィッセルは手で顔を覆い何度も何度もつぶやいた
目の前の光景が夢ではないかと、いや、いっそのこと全て夢であって欲しい
「医者はまだか!!」
やり場の無い怒りがこみ上げヴィッセルは声を荒げ叫んだ
何も出来ない無力な自分に怒り苦しみ、足が床に吸い付いてしまったようにその場から一歩も動けずにいた
「シーツが足りないわ!清潔なシーツをもっと持って来なくては!」
メイドのマーサが叫ぶ
「お湯をもっと持って来い!」
「ろうそくを!明かりが足りないわ!」
まるで戦場のような光景の中
「 お嬢様!いけません!!」
マーサの悲痛の叫び声が皆の動きを止めた
ヴィッセルの目に居間の扉にもたれ座り込んでいるエマとキキが写る
その瞬間、何かに弾かれたように走り出し2人を抱きかかえ居間の外へ出ると扉を閉めようと手を伸ばした
その瞬間、エマは見た
ヴィッセルの肩越しに
居間のテーブルに何枚ものシーツが敷かれ
その上に横たわる
父親の姿を
血に染まった父親の姿
そしてその横で横たわる母親の姿を
「!!」
「扉を閉めるんだ!」
ヴィッセルは側にいた若いメイドに叫んだ
「……いゃぁー!!」
エマはヴィッセルの腕の中、必死に居間の扉へ手を伸ばした
「お嬢様!エマお嬢様!!」
ヴィッセルはエマを抱き込み何度も何度も名前を呼んだ
「お父様!…お母様!お母様!起きてー!お母様!お父様がケガをしているの!!お母様!起きて!お父様のケガを!お父様のケガを!お母様!」
泣き叫ぶエマの声が屋敷に響く
2人はただ愛する娘の為帰宅を急いだだけだった
子を思う親の愛情、ただそれだけ
ただそれだけだった
雨が
稲妻が
みんなの人生の歯車を狂わせた




