指輪
「少し到着が遅れてしまったが叔母上はご在宅だろうか」玄関の戸をノックしようと思った瞬間、勢いよく扉が開き年配の女性が現れた。
「ピーター?ピーター!あなたなの!よく無事で…も~心配したのよ!あぁ~お顔をよく見せてちょうだい…」 小柄な体を近づけ賢明に手を伸ばし「一段とお父様に似てきたわ…道中は?怪我は無い?お腹は空いてない!?」何度も優しくピーターの頬をさすった。
女性の手を取り「叔母上お元気そうでなによりてす、私の事は心配ありませんすり傷ひとつありませんから」と微笑むピーターを見て「あぁ…優しい緑色の瞳はお母様からの贈り物ね…微笑んだ目元がそっくり!…」
まるで二人を目の前にしているかのように彼女はピーターを見つめた。
「お父様の葬儀には行けず本当にごめんなさい。あたしがもう少し健康だったら…」
「貴方のことは父が一番理解しています、だからこそ私をあたの元へ行かせたのでしょう」 そう言うとピーターは叔母を優しく抱きしめた。
その腕の中で叔母のダーマは思い出したかのように「ピーター!あなたの手紙が届いてからというもの心配で心配で夜も眠れなかったのよ!護衛もつけず1人で来るなんて!」と彼の右腕をピシャリと叩いた。
「ご心配をかけてしまって申し訳ありません、しかしそれが父からの条件でしたので」ピーターは苦笑いをするしかなかった。
「まったく!ホントに兄さんたら!子供の頃から意地悪は変わらないわね。おしゃべりはこれくらいにして、さぁ、さぁ中に入って温かい飲み物でも!」そう言うとメイドを呼びしピーターを屋敷の中へと案内させた。
部屋の中で過ごすのは久しぶりだ、旅の間は野宿ばかりしていたので何もかもが有り難い存在に思える。
「さぁ、私を訪問してきた遺言の内容を聞かせてちょうだい」そう言うとダーマは温かい紅茶を差し出した。
紅茶を一口飲んで「実は叔母上へコレを渡すようにと…」ピーターは首に巻いた革紐を外し指輪を手渡した。
「これは…」とうやら彼女には見覚えがある物らしい。
「父にとって大事な物だったようで常に肌身はなさず持っていたのですが…叔母上はこの指輪をご存知なのですか?」
しばし無言で指輪を見つめていたダーマだったが、兄リチャードの望みが何であるかを理解したように「これは、この指輪はランドール家に代々受け継がれている指輪なの」
「受け継がれている?と言うと、父が亡くなったので次の継承者が叔母上だと言う事で?」
ダーマはクスクスと笑い「違うの、この指輪は母親から子供へ手渡され受け継がれているの」
「と…言いますと?」
「ランドール家に伝わるこの指輪は母親から男の子へ、結婚適齢期を迎えた息子へ≪あなたが心から愛せる人が現れたら、守りたい人が出来たらこの指輪を渡しなさい≫と手渡すの」ダーマはピーターの手を取り「きっと兄さんは、あなたのお父様は幼くして母親を亡くしたあなたの為、母親の代わりにあたしから手渡して欲しかったに違いないわ」
そう言うとピーターの手に指輪を握らせた。
「ただ残念ながら指輪がまだここにあるって事は…運命の女性に巡り会えていないみたいね」
ピーターは照れ笑いをしながら「お恥ずかしい話、長い間父に代わり村の事ばかりで…気が付けばこんな年に…」
「恥ずかしい事ではないわ!」ダーマはまたピシャリとピーターの腕を叩いた。
「人の事ばかり心配して、あなたはぜんぜん自分の事をわかっていないのね!あなたは魅力的よ。どんな女性だってあなたの妻になることを望んでいるわ、妻になれることを幸せだと思っているわ」
身内だから気を使って言っているのだろう。ピーターは握った手のひらを開き指輪を眺めた。
指輪の小さな輝きと湧き上がる感情が同調し始めていた。




