お守り
屋敷に着いても涙は止まらなかった。
止めたくても止まらず、彼女自身こんなに泣ける事に驚いていた。幸か不幸かその涙が後に『泣いてる理由は違えど』ケイティの父親と母親の心に響く事になる
「そんなに結婚がいやだったのかい…可哀想に…こんなに泣くなんて…父を許しておくれ」
「なに言っているのです!あなたがそうやって甘やかすからいつまでたってもこの子の結婚が決まらないのですよ!」
「しかし…だな…」
「あたしは許しませんから!こんな親の顔に泥を塗るようなこと!絶対にゆるしませんから!」ケイティの母親はハンカチを強く握りしめ声を荒げた。
それから数日ケイティは部屋に閉じこもり泣き続けた。
さすがの母親も「気の毒なことをした」と思いはじめたようで「私だってお前を憎くて言ってるのではないのだよ、お前の幸せを考えての事、でもどうしてもこの結婚が嫌なら…はぁ…明日お父様に先方へ謝りの手紙を書いてもらいましょう」
そう言うと泣きじゃくるケイティに優しくキスをし部屋を出た。
泣きながらケイティは何度も何度もあの森での出来事を思い出していた。たった一夜、だけど自分の感情をこんなにも自由に素直に感じられた事はなかった。忘れられない、忘れたくない。彼の笑顔も瞳の色も優しく差し出してくれた大きな手も。
もう二度と会えないのだろうか、いずれは忘れてしまうのだろうか。
また涙が溢れてきた。
森の小高い丘でピーターはケイティが無事街へたどり着いたのを確認すると
「……………行くぞ」
名残惜しそうに馬を促した。数名の兵が彼女に近づいた時は少し焦ったが身なりの良さからうすうす感じてはいた「やはり名のある屋敷のお嬢様だったのか…」
心の底に湧き上がる感情が強くなる前に、馬に鞭を入れ一気に森を駆け抜けた。
コロコロ変わる彼女の表情が好きだった。
「また会えるだろうか…」
そう思っては首を振った。
身分の違いはわきまえている、小さな村の私とは世界が違いすぎる。今は父親の遺言に全力をつくす事に集中した。
集中しようと努力した。
馬を走らせ数日で叔母上の住む街へはたどり着くことができた「のどかで住心地の良さそうな所だ」
人に訪ねながらなんとか叔母上の屋敷を探すことが出来たが、馬から降りて敷地内に足を踏み入れようとした時、ふと何かが手をすり抜落ちた。
「…?何だ?」
足元を見渡す、そこには枯れかけた草花が、互いに絡まり合い色を失い落ちていた。
一瞬それが何かわからなかったが慌てて左腕を見ると、無かった。ケイティが作ってくれたお守りが、まるで役目を果たしたよう足元に枯れ落ちていた。
ピーターは慌ててしゃがみこむと一つ一つ小さな花びらも大事に拾い集め、布で包み込み懐へしまいこんだ。
そして、そこから振り払ったはずの感情が再び溢れだした。




