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刺繍

「私は…ここで…ここで眠ます!」ケイティは即席のベットから目をそらし足元の雑草が生い茂った地面を指差し、そしてこう付け加えた「私何処でも眠れるんです!だからここで大丈夫です!」と。


ピーターは少し困った表情をし「安心してください。私は向こう側で見張りをしておりますので、『ごゆっくりと』とは言えませんが少しでも休んでください」そう言うと厚手のブランケットを彼女へ手渡し焚き火より少し離れた場所へ剣を置き腰を下ろした。


「でも…」と言ったものの、だからと言って「一緒に寝ましょう」とも言えない。

勝手に早とちりした上に、何から何まで彼に迷惑をかけている自分に腹が立った。

ブランケットには綺麗な刺繍がほどこされておりとても暖かかそうだった。遠慮気味にそれを肩に掛け即席のベットで少し横になる。〈奥様からのプレゼントだろうか?〉ケイティはまだ見ぬランドール夫人とブランケットに嫉妬した。


ぼんやり揺れる焚き火の向こう側、近くて遠い彼との距離を打ち消すように目を閉じた、瞼越しに炎の暖かい揺らめきが見え、ふとその灯りを遮る影を感じた彼女はうっすらと目を開けた。


一瞬その光景が夢なのか現実なのかケイティにはわからなかった。


そこにはゆっくりと立ち上がりこちらに向かって来てくるピーターの姿が…手に剣を握りしめ近づいていた。


目を開ける事も声を出す事も出来ない。


ピーターはケイティの側へ来ると膝をつき剣を持ち替えた、その時「何をするの!」ケイティは飛び起き勇敢にも剣を奪いにかかった…が、剣は抵抗無く簡単に手に入った。勢いをつけすぎたケイティはそのまま彼の胸に倒れ込んでしまった。


剣を取られたピーターは彼女の突然の行動にただただ目を丸くしていたが「驚かせてしまって申し訳ない!もしもの時にと!護身用に剣を置いておこうと、ホントに…本当に申し訳ない…」と謝り彼女を抱き起こした。


何が何だかわからずぼう然としていたが「嘘!嘘つき!」ケイティは震えた声で彼の手を払いのけ「護身用ですって!?嘘よ!ここに剣を置いて何で戦うの?もしもの時剣も持たずに何で戦うの!?素手で見張りが出来るの!?」

今にも涙がこぼれそうな大きな瞳をあわててなだめ「弓矢を取ろうと思って…」そう言ってピーターは即席ベットの一部となっているカバンを指差した、そのカバンからは獣から救ってくれた時の弓矢が顔をのぞかせていた。


恥ずかしかった。ケイティはあまりの恥ずかしさに時間が戻せるなら昨日まで戻して欲しいと思ったが、昨日まで戻すとピーターに会えなくなるのでそれはやめた。


「ごめんなさい!あたし…勘違いして!ごめんなさい!」ケイティは涙を拭い何度も謝り剣をピーターへ返した。

ピーターは剣を受け取るとブランケットの側に置き「念のためです。」とにっこり笑って立ち上がった。


護身用と言われてもこんな立派な剣あたしに扱えるだろうか?不安になり「だけど…剣など使った事もないし…たとえ使えたとしても獣が襲ってきてたら…」

ピーターは振り向き笑顔で「獣じゃなく、私が襲ってきた時の為です」軽い冗談のつもりだったのだろう。


ケイティの顔がみるみる赤くなっていく。「冗談ですよ、冗談」ピーターはあわてて誤ったが「冗談にも程があります!」怒ったケイティはブランケットを頭まで被ってピーターに背を向けた。本当は赤くなった頬や耳を見られるのが恥ずかしかった。


「申し訳なかった…」ピーターは再度誤ったがケイティは顔を見せてはくれなかった。

「…………」


ピーターは「おやすみなさい」と優しく暖かい声で言うと見張りの場所へと歩きだした。

「…おやすみなさい」ブランケット越しに小さく呟いた。

たぶん聞こえていたのだろう彼はもう一度「おやすみなさい」と言ってくれた。


ケイティは『もし本当に彼が襲ってきたら』自分は剣を抜くのか抜かないのかを本気で悩んだ。

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