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それぞれの夜
「ケイティ…ケイティ…素敵な名前だ、ケイティ…」男の人の口から自分の名前が連呼されるのはさすがに恥ずかしいものである。
彼に名前を聞かれるまで自分が名乗っていなかった事にはじめて気が付いた彼女は落ち込んでいた。
「礼儀知らずな娘だと思われただろうか…」そればかりが頭を駆け巡っていた。
「貴方のように身なりの良い女性がどうしてこんな山奥に?」ハーブをより分ける手を止めピーターは尋ねた。
「へっ?」まさか≪結婚が嫌で家出をしました≫なんて言えない!どうしよう!
「や…薬草を探しているうちに道に迷ってしまって…」
とっさに口から出てきてしまった。薬草と雑草の区別さえつかないのに。
「…家の方はさぞやご心配されている事でしょう…」哀れむ眼差しを向ける彼には申し訳ないがケイティには想像がついていた、慌てふためいて娘を探すよう衛兵に命令する父親と「必要ありません!あんな親不孝な娘!放っておきなさい!」とハンカチを握り締め怒り心頭な母親の姿が。
そしてまさしく彼女の屋敷周辺では探しに森に入るべきか屋敷に戻るべきか、行き場を無くした衛兵達が馬上でぐったりとうなだれていた。
「今夜は長くなるな…」ひとりの衛兵がつぶやいた。




