落馬の美青年
「はっ」
と我にかえり空を見上げると、たった今飛び立った鳥の群れが大きく弧を描き小さな川のある向こう側へと消えていった
かすか遠くに聞こえていた馬の蹄の音
その地面を蹴り上げる音は確実に荒々しくこっちへ近づいていた
一瞬身を屈め、腰の高さほどの茂みへ隠れようとしたその時、馬上の男が叫んだ
「お嬢様ー!お嬢様ー!エマお嬢様ー!」
どんな遠くに居ても聞こえる張りのある低音で聞き覚えのある声
(護衛隊長のアルフレッドだ!)
急いで茂みをかき分け精一杯手を伸ばし叫んだ
「アルー!ここよー!」
馬はすでに数メートル先まで行っていたが呼び声に気づいたらしく、手綱を引いた。
ただ少し強く引きすぎた為、馬は前脚を高く蹴り上げ一声甲高く鳴いた後クルッと向きを変えて止まった
その瞬間バランスを崩したアルフレッドが「ドサッ」と落ちた
「アル!大丈夫?!」
そんなあたしの言葉など耳に入らないのか?それとも照れ隠しなのか?何事も無かったようにアルがこちらに駆け寄って来る
金の絹糸のような少し長めのアルの髪が木漏れ日にキラキラ輝き美青年さを一段と引き立たせている。
あたしもあれほどの金髪だったら今頃、少しは名のある男性の妻になっていただろうに
澄んだ青い切れ長の目に金髪、その上、美青年。天は彼に二物を与えすぎている。
しかもその容姿からは想像出来ないほどの力強い厚みのある男らしい声のギャップに村中の女性が彼の虜になのだ。
だけど、どこか抜けている気がするのはあたしだけだろうか?
幼い頃からの遊び仲間だからそう思えるのか?
「どうしたの?何か大変な事があったのですか?」
と問いかける間もなく
「お嬢様!お急ぎ屋敷へお戻り下さい」っと言い放つとアルフレッドはぐいっとあたしの右腕をつかみ歩きだし、あたしはただただ引かれるまま、もう片方の手でアルの背中に付いた枯れ葉を取り除いていた
「ヴィッセル様がお待ちです」
そう言うとアルは少し手荒にあたしを馬上へ押し上げた。