炎の中の出来事
「ラルフ!!」
肩にかけていた爪をラルフの部屋の窓向かって投げつける
イアンが手直ししただけあって爪はしっかりと窓枠に噛みついた
「あのタヌキオヤジめ!こうなる事を知ってて持たせたな!!」
紐をよじ登り窓を蹴破るが勢い余って部屋の中に転げ落ちるイアン、その視線の先に目を見開き横たわる男の姿が…瞳は驚きと悲しみに開いたまま、もう二度と動く事は無いであろう深い闇の色に染まっていた
整った身なり優しげな顔立ちに深い色の髪…もしかして!?
【エドワード・ハミルトン】?ラルフの父親か!?
「ラルフは!」
すでに部屋の半分は炎に包まれている。その炎と煙の中、剣を握りしめたヴィクトリアの腕に横たわるラルフが。炎のせいか?顔が赤く見える…いや…顔だけではない…ラルフの小さな体が赤く包まれている
「ラルフを離せ!お前ラルフに何をした!!」
イアンは跳ね起きヴィクトリアへ飛びかかる
「いや!!あなた誰なの!!こないで!」
剣を構え刃を向けるヴィクトリア。その剣先は重さと恐怖で小刻みに震えていた
「ラルフを離せ!」
「イヤっ!手をはなして!」
イアンがヴィクトリアから剣を奪おうとしたその時
「誰だっ!?お前は!」
背中からヒステリックに叫ぶ女の声が…イアンが振り返るとラルフの父親の側で寄り添うように女が泣き叫んでいる
「なぜ!何故?邪魔をする!!なぜみんな私達の邪魔をする!!」
年はラルフの父親と同じくらいであろう、その女は火かき棒を手にヴィクトリアとイアンを睨みつけた
「…もしかして…あいつが…あの女がラルフを…あの棒で!?」
イアンはラルフの顔を覗き込む、顔の左半分が焼けただれ息づかいも荒く意識が朦朧としている
そんなラルフは小さい声で何度も呟く
「なぜ…リタおばさん…俺が嫌いなの…リタ…お父様を…なぜヴィッキーを…お母様を…」
「リタ…?あいつがお前の叔母!?いったいどう言う事だ!?なぜお前を!」
すでに正気を失ったリタはヒステリックに泣き叫んだかと思うと今度は笑い出した
「あはははっ!お前のようなチンケな小娘が!彼の…エドワードの妻!?笑わせるな!!……私達は愛し合っているの…それを…それを!お前が現れたせいでっ!」
リタは近くにあった椅子をヴィクトリアめがけ投げつける
「危ない!!」
とっさにヴィクトリアをかばうイアン
幸い椅子は彼の肩をかすめただけで壁にぶつかり大破した
「大丈夫か!?」
イアンの腕の中で気丈に振る舞うヴィクトリアは何度も小さくうなずき、そして震える声でリタへ叫ぶ
「だ…!旦那様は誰も愛してなどいない!あなたの事もあたしの事も!…彼が心から愛したのは…亡くなった奥様のアンと息子のラルフだけ!彼があたし達にしたことは『愛』ではなく『優しさという愛情』!あなたはそれを勘違いしているの!」
その言葉に逆上したリタは近くにある壺や花瓶を次々と投げつける
「いい加減なこと言うなっ!!あの子が悪いのよ…アンが、あの子さえいなければ!彼は私のものだった!それなのに…アンにそっくりなその子が…ラルフが彼を苦しめるのよっ!その子さえいなくなれば…彼と私は…」
すでに息をしていないエドワードの体を抱き寄せるリタ
イアンはその隙にヴィクトリアとラルフを一つの窓へと促した
その窓は唯一落ちても大丈夫な窓
すでに落ち経験済みのイアンが知っている下が茂みになっている窓
そこへ2人を少しずつ移動させる
「どこに行く!ラルフを渡しなさい!」
その動きに気づいたリタは火かき棒を振り回し襲いかかってきた
「これを!!」
ヴィクトリアはイアンへ剣を渡し、それを受け取ったイアンは素早く振り向くと同時にリタの振り下ろした火かき棒を受け止め振り払う
「っく!!生意気な!」
跳ね返されよろめくリタ
「早く窓から飛び降りろ!ラルフを抱えて降りろ!」
急いで窓を開けヴィクトリアとラルフを抱え窓枠へ押し上げる
「危ない!!」
ヴィクトリアが叫ぶと同時に
「!グゥっ!!」
イアンの背中に激痛が走る
周りに飛び散る硝子の破片
「大丈夫っ!しっかりして!!」
助けようと窓枠から降りようとするヴィクトリアをイアンは必死で止める
「さっ…さと行け!ラルフを!ラルフを…」
「後ろっ!!」
充満した煙から突然リタが襲いかかってきた
「くっ!!しつこい奴だ!」
剣を構え反撃するイアン、だが肩から背中にかけ燃えるように熱く力が入らない
「よこせ!ラルフを!邪魔をするなっ!!」
何度も執拗に襲いかかるリタ。
なんとかこらえていたイアンだったが動きが少しずつ鈍くなっていく。
次の瞬間!大きく火かき棒を振り下ろすリタに剣を構える事が出来ないイアン
「やめてーー!!」
壁や天井が燃える恐ろしい音の中……ヴィクトリアの叫び声が優しくイアンの耳に響いた、そしてイアン自身以外な事を思っていた
【俺が死んだらハロルドのおっさん悲しむかな?】




