霧の晴れた夜
ラルフの父親とヴィクトリアの結婚式が明日に迫った日の夜
早めの夕食を済ませたハロルドとイアンは焚き火の側でくつろいでいた
ハロルドは空いた器で薬草をすりつぶしその様子をイアンはぼんやり眺める。きっとあのハロルド秘伝のドロドロ薬になる素だろう…すりつぶされた薬草はどんどん不気味な色になっていく
「たくさん作るのか?俺の傷はすっかりよくなったし、最近は怪我もしないぞ?」
ひたすらすりつぶすハロルドを不思議に思いイアンが聞いた。そんな様子を見ても『手伝おうか?』と言わないのが彼らしい
実際ハロルドも秘伝の薬草作りにはこだわりがあるらしくこればかりは1人で黙々作業を進める
「…必要になるかもしれないからね…」
手短に返事をし、またすりつぶし作業に没頭するハロルド
その様子をジッと見ているのもなんなのでイアンはいつもより少し早いがラルフの所へ行く支度をはじめた
「待って~!待って!出掛けるならこれを持っていってちょうだい」
慌てて手を止めたハロルドが手渡したそれは…
以前作った自慢の道具
『フォークの先を曲げたような堅い鋭いツメ』byイアン手直し品
「こんなの持って行ってどうするんだ!?」
イアン受け取り拒否
「これが坊ちゃんの部屋まで届くか確かめて欲しいのよ!」
無理やりイアンに押し付けるハロルド
「何もわざわざ今日でなくともいいだろ!明日おっさんが自分で確かめたらいいじゃないか!?それに結婚式前日だ、見張りが厳しくてそんなこと出来る訳がない!」
「誰も実際投げろとは言わないわよ~ただパッと見でいいから、この紐の長さで届きそうかどうかでいいの」
そう言ってハロルドは嫌がるイアンの懐にそれを押し込んだ
「…まったく…また何か企んでいるんじゃないだろうな?…邪魔になったら捨てるからな!」
渋々承諾し扉を開けるイアン、ふと何かを思い出し立ち止まる
実は気になる事が…ウィリアムの話を聞いた時からずっと気になっていた事
聞いても聞かなくても何となく返事は想像出来る…イヤ間違いなくそうだろう…この変人おっさんが考えそうな事だ、そう思いながらも切り出せずにいた…その事を思い切って聞いてみる事に
「なぁ…ハロルドのおっさん…」
「なぁにぃ~?」
相変わらずすりつぶし作業に没頭中のハロルド
「…おっさんまさか自分もウィリアムみたいになろうと思ってないだろうな?」
高速で動いていたハロルドの手が止まる
「…どう言うことかしら……」
「自分もウィリアムのように【誰か】の人生の【キッカケ】になろうと………そしてその【誰か】……まさか俺とか思っていないだろうな?」
「………」
まるで蛇に睨まれた兎のように微動だにしないハロルド
「…どうなんだ」
観念したのか?イアンを見上げるハロルドの顔は高揚していた
「……バレちゃたぁ~…だってぇ~あたしも誰かの肩を押したいのよ~!誰かの人生のキッカケになりたいのよ~!」
企みがバレたハロルドは開き直り甘えまくる
「今すぐその考えを捨てろ!俺の人生にこれ以上関わるな!それとそんな気味悪い声だすな!吐く!」
イアンの顔は本当に青ざめていた
「いいじゃない!腐る訳じゃないし!吐くなら吐きなさいよ!吐いたってあたしの意志は変わらないわよ!!さぁ!吐け!吐きやがれ!」
大きく手を広げ構えるハロルド
「くっ…」
何か言い返したかったがイアンはグッとこらえ、言葉を飲み込み
「…出掛ける…」
あっさりかわす
これから徹夜の見張り、おっさんに付き合って言い合いすると毎回体力の半分は消耗してしまう。そう思ったイアンはここでもあの業を使う
【無視】
とっとと小屋を出て行くイアン
「いやぁ~!無視はいやぁ~!構って~!話を聞いて~!」
静かだった(過去形)森におなじみになった叫び声
もう森も動物達もこの騒々しさが日常になっていた
この賑やかさが当たり前、これからも当たり前…
今夜は久しぶりに霧が晴れた
ラルフの所へ向かうイアンにもう目印は必要ない。何度も通った、何度も死にかけた(?)道は目をつぶっても進めるほど、どこに何があるかわかっている
「おっと…」
肩にかけたハロルドの手作り爪が落ちそうになる
「何か縛るもの…」
イアンはポケットの中のリボンを思い出し手を入れると
「………!」
無い
ポケットに入れてあったはずのリボンが無い
反対側のポケットも探すが
ナイ…
「…?…落としたのか…」
戻って探そうかと思ったが…今すぐ探さないといけない物でも無い…っと言うよりもともと落ちてた物だ…探す必要も無いだろう…それに自分の物でもないし
自分で自分に問いかけながらイアンは納得したようなしないような…そんな感じて森を歩き進んだ
木々の間から屋敷が見えてきた
いつもと同じ景色…しかしいつもと少し違う
明るさ?ラルフの部屋の窓から射す光…いつもより明るい感じが…
暖炉やランプの光とは違う…大きく揺れる光……
「!!火事!?」
イアンは一気に崖を駆け下りる
その間にもラルフの部屋の明るさが強くなっていく
「ラルフ!ラルフ!!」
何度か激しく転びながらも走った、ラルフのもとへと
部屋が見下ろせる所でイアンが見たもの…それは
熱風でまくりあがるカーテンから覗く女の姿
手に剣を握りしめ、炎に照らし出される美しい横顔
『ヴィクトリア』
彼女の白い部屋着は赤く染まっていた




