かすかな月明かり
今日は夜も遅いと言う事でお二人にはお屋敷にお泊まり頂いて、少し遅めの夕食を取る事にした。
あのローランド伯爵の屋敷の者を泊める事には抵抗があったが今は我慢時。
機嫌を損ねてはどうしょうもない。
それに、どんなお客人でも丁重にもてなすのがランドール家のならわしであり誇りでもあった。
急な夕食への招待、豪勢な料理などお出しできる訳がなく、食材にもきっといろいろケチを付けるのだろうと思いきや…
「なんと質の良いジャガイモなんだ…炊き具合も丁度良い」
「スープも野菜本来の旨味がいかされいて素晴らしい味だ」
ヘンリーはコックのハリーを呼び出し
「このハーブは何と言うのでしょうか?」
「この野菜の茹で時間は?」
彼を質問責めにした。
伯爵のところではあまり良いものを食べさせてもらっていないのか?
少しヘンリーが気の毒に思えた。
こうしてランドール家の長い長い一日が更けていった。
エマはベットに入ったものの眠れなかった。
この状況で眠れる者がいたとしたら、そのお方はかなりの強者か脳天気のどちらかだろう。
何度か寝返りをうってはみるが頭は冴えるばかり。
エマが普通の娘なら花の刺繍が入ったハンカチを握りしめ枕に顔をうずめ泣き通していた事だろう。
しかし彼女は違っていた。
クローゼットの奥からコートと《あるもの》を取り出し森へと向かった。
かすかな月明かりに照らされたエマの手には剣が握りしめられていた。




