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非情でなければならぬ人

どんどん落ち込んでいきそうですが、どこかで浮上させたいなと思います。


兼が今いるのは宮中である。

 

 そして、目の前にいるのは、いつものように叔父である「四条内府」

 一室に導かれたのは何やら嫌な予感がする。

 頭を下げたままの兼に不機嫌そうな声が届く。


「兼、夜盗騒ぎはどうなっておる?」

「はい、ただ今探索に検非違使達が動いておりますが・・」

「ならば、一つ教えてやろうか」

 何を言い出すのか今一つ理解できない。


「闇王一味の頭目は、野分という男よ。ひっ捕らえるなと、斬るなと、どうにでもいたせ」


「日野中納言」邸にいる、夜盗たちのことはそれなりに調べは付けてある。

 その名もすでに知るところではある。が、何故それをこの人が知るのか?

 それを問えば、顔を上げた兼をきつい視線でとらえる。

「先だって、当家に押し込みで入って来た。そのときにわかった」

「名乗りましたのか?」

「その前にな、因縁をつけてまいったものがおった故待っておったのよ」

 来るかもしれないと読んで夜盗を待つとは、何とも豪胆な人だと思う。

 まあ、この人ならばやるだろうが・・・

「あれが何ゆえ今頃戻って来たものか・・騒乱の種まで連れて来おった。」

「叔父上の知るべでございましたか?」

 その答えに、兼は自分の聞き違いかと一瞬とまどった。


「野分は、俺の子よ」


 低い声で笑った叔父は続けて言った。

「そなた、覚えて居らぬか?十年も前だが、先帝の遺児をかついでその母方の貴族が、謀反まがいのことを引き起こしたこと。その皇子が陸奥へ流されたこと・・」

 忘れていた、遠い日のこと。確かそんなことがあったような気がする。

 そして、なぜか、脳裏に浮かんだのは桜の花・・

「身分低い女の産んだ子だ厄介払いに、流される皇子に付けて共に流したのだが、夜盗になって戻るとは・・」

「闇王というものが、その、流された皇子でございますか?」

「おそらくは、な・・」

 二度会っている。あれが、謀反の元凶となった皇子だというのか?

 それに、野分がこの人の子であるなら、それは自分たちにとっては血の繋がる従兄弟ということではないか


「そなたが検非違使であることが幸いよ。うまくつぶせ。斬り捨ててもよい。」

 秘密裏に処分せよ、とこの人は言う。それは、わが子であっても躊躇はせぬということか・・この人の恐ろしさを改めて感じる。

 よく、母はこの人の手の中から離れて、父の許へ来たものだ。

 老家人から聞いた若き日の母は、中宮に立つはずであったのに貧乏学者の父の許へ走ったという。この人にかかれば簡単に抹殺されたはずが、こうして自分たちが生きているのはたまたまなのではないか?

 その思いが兼の顔に浮かんだのかもしれない。

「兼、俺が怖いか?」

 兼の細い頤に指をかけ上を向かせる。

「そなた、母に似ている。薫子は父に似たようだが・・」

 そして、再び笑った。

「もうひとつ教えてやろうか?その夜盗の中に、薫子がおったぞ・・」

 息がとまった。まさかの成り行きに茫然とした兼を部屋に残して叔父は出て行った。色々聞いたような気がするが、一番の衝撃はこれだ!

 

 しかし、事態は兼の予想もつかない方角へ向かって走り出していたのだ・・

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