桜花少将
平安時代の少し変わった検非違使を書きたかったのです。決してスーパーヒーローではなく、喧嘩します。女の子泣かせます。オカマさんとも付き合います。その妹、薫子姫や、友、藤原基之、お吟さん等癖のある連中がいます。どうなってゆくのか、ラストは決まっていますが、それ以上は少しづつ、書いていきます。
時は平安、所は王城の地、京。
この頃、都で噂を呼ぶものが三つある。
その一つ目
美しい娘たちが舞い踊るという、通称「おとめ組」
都中の老若男女がこぞって沸き立つといわれる、存在である。
その二つ目
夜盗「闇王」を名乗る盗賊たち。都の治安を守る検非違使たちと渡り合う連中。
その三つ目
その夜盗を取り締まる検非違使の若き長官、「如月 兼」(きさらぎ かねる)
「桜花少将」の異名をもつひと。
春にはまだ遠い日、兼は友である東宮付き武官の藤原基之、道案内人のお吟と共に四条河原へ向かった。
表向きは視察であるが、そこに小屋掛けをしている「おとめ組」なる娘たちを、半分好奇心で見に来たのだ
近づくにつれて、人が増えてくる。それも、圧倒的に若い男たちが多い気がする。
「都にはこれほど若い男たちがいたのか?」
自分たちもその一人だということを忘れたようなことを、兼は言う。
「こんなもんや、おへんえ。もっとふえます」
追い越して行く者たちを見やりながら、異様な雰囲気のあるお吟は、へらっと笑った。
はっきり言ってこの三人は異質である。この歳で水干姿はない。基之の場合は宮中勤めであるから髪は一応結ってはいるが、兼は伸ばしたまま無造作に束ねただけである。どうみても女を騙して貢がせながら遊び歩いている、今時の若者風なのだ。しかも、他を圧倒する美貌である。この二人と並んで歩くお吟もまた異様である。女ものの衣装をまとってはいるが、どこかに異形の雰囲気を醸し出している。
四条河原
堀川からここまで来る間も異様な高揚感を感じていたが、来てみてそれが実感できた。
それは決して目立つ小屋がけではない。むしろ、小さい。その前に陣取った若者たちからは熱気が伝わってくる。それを面白そうに見まわしていた兼の視線が止まった。小屋の端からこちらを見ている若い男と視線があったのだ。端正といってよいだろう。口元にわずかな笑みを浮かべ恐れ気もなく兼を見返して
来た。
「知っている奴か?」
さすが武官である。前を見ていると思っていた基之が耳元で問いかける。
「さてな、俺が知らずとも向こうが知ることもある・・」
恨みを買うことなぞ、両手の指では足らないだろう。それが検非違使である。
三人に見返されて、不意に若者は袖に消えた。
「天寿丸は可愛げのあれへん検非違使やから、恨みいっぱいこうてますやろ。男はんばっかりやのうて、その顔で泣かしてきた女子からかて、恨まれてんのえ」
低めの声で、言いたいことを言う。
「おまえ、いい根性だよな。違法操業すれすれの仕事を多めに見てやってるのは、誰だと?」
「あら、昔馴染みを脅す気?ええよ。その代わり、薫子ちゃんに昔のことばらしてやるから」
「おまえは!薫子にばらしたりしたら、明日の朝日はねえぞ!」
時折、こうして、昔の言葉遣いに戻ることがある。
薫子兼のただ一人の妹である。兼の溺愛のせいで今年十八になるのに、未だに嫁にいけないでいる。「天寿丸」とは、兼の幼名で今その名で呼ぶのは、このお吟くらいである。
そして、「天寿丸」」時代のことは隠しておきたい過去であったが、それを知るお吟はおもしろがってこうして話を振ってくる。