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三時代の家族会議

またまた三題噺。

一味違った?教師、幼なじみ、禁断の愛です。

平安、江戸、平成。いくらお盆とは言えど、三時代の代表が集まり、家族会議を開くことになるとは思いもよらなかった。しかも、禁断の愛について、だなんて。

平成時代の代表として集められたのは、この私、藤原裕子だった。二九歳で、高校英語教師、ここまでは普通。しかし、禁断の恋、そう、生徒を好きになってしまったのだ。

家族会議と言えど、集まったのは三時代の代表だけらしい。平安時代の女の子と江戸時代のおじさんだ。

はるばる三つの時代から集合したのにも関わらず、藤原家の一族は皆、ろくでもない恋しかしていなかった。秘密、もしくは、禁じられた、の言葉に弱いのは遺伝なのだろうか。皆が皆『禁断の愛』に胸を焦がしているなんて、ご先祖様には口が裂けても言えない。

「あら?わらわはご先祖様じゃないというのかしら?」

そういう彼女は平安時代の代表だ。この時代の十五歳ならば嫁いでもいいもので、名の知れた役人から見初められたものの、結婚しない。彼女が好きなのは、自分の女房、すなわち教育係であり、その役職名のごとく女性だ。そう、同性を愛しているのだ。

「他のご先祖様にということではないでござらぬか?」

こちらの彼は江戸時代代表。四十を過ぎ、妻子を持った今でも、幼なじみであり、既に人妻となったお菊を忘れられずに愛し続けているという。

「そうですよ。けど、知る限りのご先祖様も、禁断の恋がお好きみたいですね」

「そうですわね。わらわの周りにも、不倫、兄妹、男同士…なんでもありましたわ」

「それなら、何故拙者たちが呼ばれたんでござるか?」

最もである。どうせならば、全員集めてしまえばいい。

「多く呼ぶと愛の価値観が混乱するゆえにございましょう」

この三人でも十分バラバラなのですが。と言いかけてやめる。ご先祖様に偉そうな口は聞けない。

「まぁ、集められたからには家族会議でも始めましょうか」

議題、将来の藤原一族が幸せな恋愛をするためには。

迎え火の明かりがゆらりと揺れた。


「そもそも幸せな恋愛って何をさすのでございましょう」

「拙者は、“正しい”恋ではないかと思うのでござる」

けれども、正しい恋とは一体なんなのだろうか。年の近い、恋を禁じられてない関係の異性と親しくなりたいと思うこと?社会の常識から外れないまっとうな恋?そもそも恋って何?愛って何?どうしてこんなにも心を惑わせるのだろうか。

「時代によって正しきことは変わりますのが人の世ではございませぬか?」

おっしゃる通り、さすが無常観が流行った世の中…ではなかったか。それは、鎌倉時代の話だろう。時代感をつかむのは難しい。平成から見たら、過ぎた時代の百年や二百年など大差なく感じるのだ。

「確かに、平成では同性愛は広く認められてますよ」

ほら、と写真を差し出した。カリフォルニアで結婚した花嫁と花嫁。私の姪だ。

「逆に、平安では近親相姦はよくあることですわ」

そうか、生きている時代で常識なんか変わる。

「うらやましい。江戸じゃあ、不倫をしたら男女共々さらし首でござるよ」

それがなければ、お菊と結ばれるのでござるよ。刀に手を伸ばし、握り締める。

気持ちを隠さずに、思いを伝えていたら。嫁にいくと知った日に止めていれば。後悔は訪れ、訪れ、消えることを知らないで住み着く。

しかし、“たら”、“れば”、なんて所詮は机上の空論でしかない。いくら願っても訪れることはないのだ。

「まぁ、不倫は…非難はされるものの、平成にはよくある話ですよ。結ばれることは少ないような気もしますが」

「けど、好きな人と結ばれることなくとも、想いあっているのなら幸せにございましょう」

だって、わらわの想い人は右大臣さまと結婚しておられるのです。これじゃ、和歌も詠めませんわ。そう言って、うつむいた。

十二単の重ねた色は心なしか寂しげで、彼女の気持ちが見えるようだ。

わらわが男だったら?あの右大臣だったら?そしたらそれは、祝福される恋にございましょうか?

ねぇ、お姉さま、わらわ、あなたに向けた歌ならいくらでも詠めますのに。あの役人ったら、わざと下手に和歌を返しておりますのに、そんなところも素敵ですなんて詠んでくるのですわ。

彼女はひと思いに語った。想いは留まることを知らず、言葉になって溢れ出ていくのである。

「確かに想い合っているのなら幸せかもしれませんね」

当たり前だが、生徒である彼は私のことを愛することはなかった。もともと、密かに想い始めた恋、伝えるには及ばない。

学生時代の私に似た家庭環境だったのがきっかけだった。相談に乗っていたら、いつの間にか、その時間が私の全てになっていた。

未来ある彼のことを考えたら、想いを伝えるのが正しくないのは分かっている。分かっているけど、もし私が生徒だったら。きっと、一緒に文化祭を準備して、体育のときには横目で追いかけた。CDを借りることも、映画を見ようとデートに誘うことも容易くできるだろう、そう、あの子みたいに。そして、私が学生時代にしたように。

教師と生徒というだけで、制限される。どの愛にも違いはないのに。年の差婚が認められても、世間的に許されないのは肩書きのせいだろうか。

いっそ、立場など関係無しに、ただの男と女として出会っていたら?結ばれる可能性はあったのかもしれない。少なくとも今よりはあったのだろうか。

「けど、その人のこと考えると胸がときめきませぬか?」

確かに、思い出すだけでドキドキしてしょうがない。

「目が合うだけで一日中幸せでござるし」

「話せましたら、嬉しきことにございます」

「夢で会えたら目覚めたくないでござる」

「式部さんの句と同じにございますね」

「ほんとは、夢だけじゃなく、ずっと一緒にいれたらいいのと思わない?」

そう思うでしょ?もっと側にいたくて、できれば手をつなぎたくて。愛してると伝えたいけれど、ありきたりの言葉じゃ半分も伝わらない。胸が苦しい、なんて。なるほど、恋はどの時代でも同じだ。

きっと、愛は万国共通であり、全時代で普遍的だ。平安の女性歌人も、江戸の世の武将も、高校英語教師も、そして、フランスの老父もアフリカの少女も、気になるあの人も。きっと心に誰か一人、大切に愛している人がいる。

正しい恋なんて分からないけれど、ほら、それだけで世界は美しい。


「お前たちさ、さっきから聞いてればなんなの?」

そういうと同時に扉が開いた。ガラガラガラ。空中に浮かび上がるディスプレイに、見たこともない電子機器。持っているのは十代の少年だ。おそらく、二十二世紀の代表だろう。

「きちんと愛した人がいる。それのどこが正しくないんだよ?」

「あなたはまだ若いから、禁じられた恋の悲しさを知らないのでしょ?」

こんな、恋すらしたことないような少年に、私たちの気持ちが簡単に分かられたらたまったもんじゃない。

「俺、分かるよ?五歳年上の幼なじみで、飛び級して俺の教師やってる、バツイチの直也くんと結婚したからね」

残念ながら、血筋はやっぱり変わらないようだ。けれど、彼の笑顔はとても幸せそうで、あぁ、愛の形なんて人それぞれ。付け加えて言うのならば、藤原家の未来は安泰だ。

迎え火の明かりはもう揺れない。


本当はメガネをかけた教師のベタな恋愛ものにしようかと思ったけどやめました。ベタなので。メガネをかけたツンデレ教師…うん。

個人的に好みです。

そして、平安と江戸の言葉遣いと世界が分からず、ググりました。

好きなものを好きと言えることと、それを認められる周りの人

そして、誰かをきちんと愛する世の中は素敵だなと思います。

あと、個人的には、常識なんか変わるから

自分の道を行きましょう。そして、それを常識にしてしまってさ、ね?

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