第9章 森に行こう
俺は今、馬車に乗って依頼された場所、『デリュオン』にほど近い『リエオース大森林』に向かっている。依頼の内容は『リエオース大森林』の調査である。
最近この森の魔物が妙に活発化しており、森の近くの町や村が襲われているらしい。そこで冒険者たちにその原因を探ってほしい、そしてできるならその原因を取り除いてほしいとのこと。
こういう依頼は冒険者にとって一番オーソドックスな物だそうだ。
依頼を受けれるのは白から赤までの『下位四色』と呼ばれるパーティーしか受けられない。
補足しておくとパーティーというのは冒険者達が徒党を組んで一緒に依頼をこなす一種のコミュニティのようなものだ。パーティーを組むだけで生存率は大きく上がるし、例え白でも3人以上なら橙や黄の依頼も受けれるようになるので、やれる幅も増える。パーティーが有名になれば、個人的な依頼が入ってくることもあるし、パーティーに優秀な人材が来てくれることもある。実際50人以上の大所帯なものもある。
今回調査の依頼を引き受けたのは俺とルシル、レイの3人。そして赤ランクのパーティー2つに黄ランクのモノが1つの計4パーティーで引き受けた。
赤ランクの1つ『天剣』のリーダー、ファムスはかなりの好青年だ。他のメンバーも気のよさそうな奴らばかりで早くに打ち解けたのだが、もう1つの赤ランク『紅水晶の華』は厄介だ。
リーダーの女の性格が最悪であるし、他のメンバーも自分より低いランクの奴を見下したような発言しかしない。
はっきり言うとかなり面倒くさい。俺とレイは耐えれるのだが、ルシルは無理であった。
まあ執拗にイライラするような言葉を投げかけてくるので仕方ないっちゃあ、仕方ないが、ルシルの腕力で殴ったら確実に致命傷になる。抑えるのにはかなり苦労した。
『デリュオン』から出発して3時間。ようやく目的地に着いた。
確かに森の様子が騒がしく感じるし、俺の『直感』も何か怪しいと感じている。
何はともあれ、森に入ってみないと分からない。
『天剣』、『紅水晶の華』、俺達、黄ランクの『クイソラン』の順に森の中に入っていく。
「な~……んも起きねえな」
俺としては入ったらすぐに敵と即エンカウント即戦闘だと思っていたのだが、今のところ『魔獣』が出てきても『天剣』や『紅水晶の華』のメンバーがさっさと狩ってしまうのでこっちに敵が回ってこない。
「僕としてはこのままでいてほしいですけどね」
安堵感を滲ませながらレイが言ったが、俺としては少々欲求不満である。
ルシルは俺に肩車されていて、のんきに寝ている。緊張感が少々かけてはいるが、こいつなら危機を察知したらすぐに、起きるから大丈夫だろう。
歩くことしばし。
唐突にルシルが俺の頭を叩いた。
「いってえ!なにすんだよ!」
「エーイチ、やばい。私たち囲まれてる」
「へ?」
森の暗がりからぞろぞろと何かが出てくる。頭部は犬に酷似しており、寸胴な体つきをしている。大きさは成人男性はどの大きさ。毛はなく、肌は毒々しい赤色である。手には石を尖らせて作ったと思われる石槍を持っている。
ちょっと気持ち悪いソレが30体ほどいて、みな一様に歯をむき出して唸っている。
「ラフェルガだ!」
「こんなにいるなんて……!」
「1体1体はそこまで強くない!冷静に対処しよう!」
「「「「おう!」」」」
「ギャオオオオオオオオオ!!!」
他の冒険者たちが構えると同時に襲い掛かってきた。
言われたとおりそんなに強い奴ではない。しかしこの数はかなり脅威だ。
更になんか斬っても斬っても減る気配がないんだけど?
こりゃ本気でナイトを振るわないといけないか?
「みんな下がって!」
後ろから聞こえたのは『天剣』に所属している魔術師のお姉さんの声だ。
従ったほうがいいな。後ろに一歩ほど下がっておく。
「望むは雷撃。滅する断罪!」
と同時に広範囲に落雷が発生する。あっという間にラフェルガが蹴散らされていく。
するとレイが青い顔をして、お姉さんに支えられていた。
「どうだ!!」
「ちょっと待てお前!死ぬかと思ったぞ俺!」
レイがにやっと笑いながら言うので、ちょっとキレ気味に言う。
実際めっちゃ怖かった。目の前の敵が雷にあたって、丸焦げになるのだ。もしあたっていたと思うとぞっとする。しかしまあ、これで数は減った。
「このまま押すぞ!!」「「「おう!!」」」
ファムスの掛け声に他の冒険者たちも応える。
このままいけば、こちらの勝ちか。
と思っていた矢先、暗がりから巨大なラフェルガがでてきた。大きさは優に3倍はあり、手に持っている巨大な棍棒を器用に片手で扱っている。まとったオーラはラフェルガの上位であることを物語っている。他の冒険者たちが唖然としてみている中、それは大きく口を開けた。
「グウオオオオオオオオオオオオ!!!」
その場にいた全員が戦慄した。取り敢えず一番近くにいるファムスに声をかける。
「ファムス、あいつは一体?」
「……ラフェルガ・ロード、グリーンランクでかなり強い。でもこんな浅いところにはめったにいないはずなのに何で!?」
「本格的にこの森で何か大きい変化があるってことかな」
のしりのしりと近づいてくるソレ、俺は一瞥した後ファムスにこう言い放った。
「あれ、俺が潰すから援護よろしく」
「はああ!?話聞いてなかったのかい!?あれは君より4つもランクが上のそ」
もっと言ってきそうなファムスを置いて俺は真っ直ぐ駆け出す。
試しに投擲用短剣を1本投げてみる。刺さるどころかはじき返された。面倒だ。
「ナイト、一気に行くぞ」
「わかった」
手をかざして『闇の支配者』を発動させる。
「『拘束』
」そういうと相手の真下から鎖が出現し拘束していく。
ラフェルガ・ロードが引きちぎろうと体を動かす。が、俺はさらに追い打ちをかける。
「『拘束』、『拘束』」
と同時に暗がりからも鎖が出現し、更に雁字搦めにする。
程よい距離になったので、俺は足を止める。距離は1メートル半。普通の剣では届かない。普通の剣ならば。
俺はその場で一回転し、『闇の支配者』を発動させる。『闇の閃光』の下位互換。
「『闇の斬撃』」
斬撃が飛んでいき、他のラフェルガごとロードの体を正中線に沿って真っ二つに叩き切った
他の個体も『闇の投槍』や『影球』を使って潰していく。一通り終わると視線を感じた。
なんか唖然とした、わけのわからないものを見ているような目で見てきた。
全力で逃げ出したいが、ぐっとこらえてファムスのもとに行く。
「いろいろ聞きたいのはわかるけども、まず先に依頼をこなそう」
「へっ……ま、あ、そうだ、ね」
隊列を組みなおし、また進んでいく。
レイが近づいてきた。
「エーイチさん、なんですか今の技は?前々から思ってましたが、わけわかんないですよあなた」
「お前こそなんだよ、あの魔法は。前は使えなかったじゃん、あんなの」
「レミィさんに教えてもらったので、使えるかなあと思ってやったら」
「使えちゃったのかよ」
「ええ。なんかレミィさん驚いてましたけど、なんでですかね?」
「いや、俺も知らないけど、あとで聞いてみたら?」
「そうですね、そうします」
その後3日ほどこの森で過ごしたが、特に何も起こらず、平穏に過ごせた。
森に入って4日目。この日何もなければ、一旦町に戻ることになった。
空はどんよりと曇っており、辺りは一層薄暗い。
進んでいくと急に視界が開ける。
ちょっとした広場ほどの大きさで、何かの巣のようなものがあった。
「よし、何があるか、一通り探そう」
ファムスの号令により、全員が動き出す。俺も地面を見回すと何かを見つけた。
拾ってみるとそれは鱗であった。青や赤が混ざった奇妙な色の鱗。これが何なのか、聞こうとした時。
急にあたりが暗くなる。何だと思って上を見上げる。
思わず、息をのんだ。空中に羽ばたきながら滞空していたのは。
「ド、……ドラゴン」
そしてその声にこたえるかのように大きくドラゴンは啼いた。
次回、2回目のドラゴンとのバトルです。