第5章 宴会と旅立ち
あの後、きっちりあの小太り男をぶっ殺し、レイにすべてを報告する。
かなり驚いていたが、娘たちが戻ってきたことで本当だと分かってくれた。
ただ、この村の村長だという髭の立派なお爺さんが泣きながら土下座して感謝を述べてきたのには、かなりびっくりしたし、気まずかった。
そして今、俺は盛大に開かれている宴会に出席している。
いろんな人から感謝を告げられる。こんな風に褒められるなど16年生きていて一度もないので、めちゃくちゃ戸惑う。
一通り感謝コールが終わり、俺はほっと溜息をつく。
手に持った酒を(ここでは14から酒が飲めるらしい)飲みながらナイトに話しかける。
「ホント、今日は疲れたぜ」
「お疲れさまだ。我が主よ」
俺はそっと顔を前に向けた。
視線の先にはルシルが村で一番の大食いと言われる男と大食い勝負している。
戦況は明らかにルシルの方が有利だ。どういう圧縮率で腹に収まっているのか知らないが、小高く積まれた料理をあっという間に平らげている。
「なあ……、ルシルってさ『魔族』なのか?」
「ああそうだ、『獣人種』のな。しかも本当に珍しい『銀狼族』だ」
「『銀狼族』?」
「ああ。『獣人種』というのは身体能力がかなり高い。恐ろしく遠いところを見ることができ、通常聞こえないような音を聞けて、嗅覚も並はずれている」
「そりゃあ、すげえな」
「じゃが、それに反して魔力がかなり低く、初級ですら唱えられん」
「難儀だな~。って、んん?ルシルは魔法使ってたぞ?」
「そうだ。『銀狼族』は普通の『獣人種』と違って、魔力を先天的に豊富に持っていてな。さらに『獣化』という彼らしか持っていないスキルを持っている。こいつらは『獣人種』らには神のごとくあがめられている部族なのだ」
「へえ~」
「しかしながら、無用に誇りが高く、かなりとっつきにくい種族なのだが……」
俺は食べ比べに勝って、Vサインをしているルシルを見る。
「なんか、お前の言っているイメージには合わんな、あいつは」
「そうさな。まあ、一般的にということだからな、さっきの評価は」
「その評価が全員にあてはまるわけではないわな」
そう話しているうちに村長がやってきた。
「このたびは誠にありがとうございます、エーイチ殿」
また村長が頭を下げてきた。俺は苦笑するしかない。
「いやいや、俺も欲しいものがありますしね」
「おお、何なりと言ってください」
「じゃあ、盗賊たちがため込んでいた財宝の3割を俺に下さい。
あいつらが占拠していた教会の部屋に部屋いっぱいのお宝がある。3割でも結構な量だと思う。
「それだけでよろしいんですか?」
「あと、冒険者になりたいんですが……」
多分通じると思う。通じなかったら通じなかったでその時に考えよう。
「冒険者ですか?成程、しかしこの村ではそういうものになれる場所がないのですよ」
「そうですか……」
だが、これは収穫だ。冒険者という制度はあるらしい。
「ですが、ここから1週間ほど行くと冒険者の登録ができるギルドがありますぞ」
「ホントですか!?」
「ええ。良かったら馬車でその場所までお送りいたしましょう」
「いやあ、ありがとうございます」
「いいえ。この程度なんてことはございません」
村長に取り付けたこの約束はかなり良いものだ。気分がよくなったので、酒を飲んだり、食べたりして夜通し騒ぎまくった。
そういえばと思い、ステータスを開いてみる。かなりの変化があった。
【名前】 間宮英一
【レベル】 Lv.37
【称号】 魔剣使い 異界の剣士 夜の王 虐げる者 ドラゴンキラー
【装備】 学生服・(上)(下) 夜を行くもの 祝福の腕輪
【スキル】 闇の支配者 闇を喰らうもの 暗視 歴戦の戦士達の技 全能力向上 言語習得 幸運 対人戦能力上昇 対ドラゴン戦能力上昇 夜間時能力上昇 経験値取得率上昇 見切り 直感
かなりステータスが上がっている。っていうかレベルの上がり方が半端ない。……まあ強力な『魔術師』がいないと倒せないような敵をたった1人で倒せばこうなるか?
まあ損はないのでいいだろう。
得たスキルを検証したいところだがもう遅いので明日ぐらいにしよう。
俺が起きたのは昼過ぎ。それまでぐっすり寝たおかげか昨日の疲れは完全に無くなっていた。
本当は今日、冒険者ギルドのある都市に向かって出発するのだったが、明日に延期してもらう。
することがないので、村長にこの世界のことについて聞いておく。いぶかしく思われた部分もあったが、田舎者だったんで、という言葉で納得してもらう。
まずこの世界は『アレストア』と呼ばれるらしい。その中に6つの国があり、俺が今いる国は『ギールトリナ王国』、隣にはこの世界最大の宗教の総本山である『ミッシルト皇国』、山向こうにもっとも古い歴史を持っている『龍華民国』、小国が集まってできた『マルカ=トシカ連邦』、ギールトリナと犬猿の仲である『ラーシガ』、『魔族』達が住んでいる『カレドニア帝国』である。
俺が今度行くのはギールトリナで2番目に大きい都市、『デリュオン』である。色々な娯楽施設があり、一番の目玉が『闘技場』らしい。ぜひ行ってみたい。
次に魔法のことについて教えてもらう。魔法には4つの位があり、下から順に『下級』、『中級』、『上級』、『極大級』という。下級は普通の人なら、(魔力量が先天的に低い人は下級でも使えない)誰でもできるらしいのだが中級になると適性のある人にしか使えなくなる。
級が上がれば上がるほど威力は上がるが、その分消費する魔力は多くなるし、詠唱も長くなる。詠唱をしなくても魔法は使えるのだが、その分威力は若干落ちるのだという。更に6つの属性があり、火、水、風、土、光、闇である。こういう属性は人によって適性があり、適性のあったもの以外も使えるらしいが、会うものに比べて格段に威力は落ちるのだとか。
そしてアレストアには道具にもランクのようなものがある。『粗悪』、『普通』、『固有』、『希少』、『遺跡』、『伝説』、『神話』という、7つに分けられている。俺の持っている道具はどのランクなのだろうか。どうやらそういう鑑定専門の店は大都市や迷宮の上に建てられる『迷宮都市』なる街にはよくあるのだとか。早くそういう店に行ってみたいものだ。
というか少し疑問に思ったことがあったので俺は少し聞いてみることにした。
「あの、村長さん」
「なんだね?」
「もしかして、元冒険者か何かですか?」
「よく気づいたね。私は元ではあるが冒険者をやっていたんだ」
「道理でいろいろ知っているわけですね」
「ほっほっほっほっ、お役に立てたかな?」
にっこりとほほ笑みかける村長に俺も笑みを返した。
「ええ、それはもう」
次の日、俺はルシルと共に村を出ることになった。
たくさんの人が俺に涙を流しながら見送ってくれた。
馬車に乗っているのは、俺だけでなく村にいた子たちも乗っている。
どうやら俺が村を救ったので、自分たちも力を付けたいと願い、村を出ること決心したそうだ。
俺よりも1や2ぐらいしか変わらないのだが、ギールトリナでは14歳で成人なので、村を出ることに問題はないらしい。ちなみにレイもこの中の1人である。
なんだか村の子供たちを唆して連れ出していくような感じで少しだけ罪悪感が沸いたが、こんな事よくある話だし、村の子供全員ではないので気にするなと言われた。
この村長はいい人だ。
馬車に乗り込むとすぐに動き始めた。
「さよ~なら~、また会える日まで~」
「おー!げんきでな~!」
「また会える日まで~」
俺は村の人たちが見えなくなるまで手を振った。
さあ、目指すは『デリュオン』だ。
次回、鬼軍曹登場です。
なんか今回はむちゃくちゃ説明回になってしまいました