第4章 夜の王
俺は今ルシルと共に助けた少年、レイと言うらしい、の家にいる。
こいつはこのカルサ村の村長の孫で、そのおかげか家の内装は結構豪華だ。
「最初に確認しておくが」
俺は椅子の背もたれにもたれながら言う。
「この村は今盗賊に襲われて、尚且つ占領されている、と」
「……はい」
俺は大きくため息をつく。しかし少しだけ疑問に思ったことがあったのでそれについて聞いておく。
「この村って中々大きいだろう?そんな簡単に盗賊ごときに後れを取るなんて思えないんだが」
「確かに僕たちの村は大きい部類に入ります。普通の盗賊なら後れを取ることなんてありません」
「……成程、相手は普通ではなかったと」
「……はい」
ここの石壁は結構大きかった。突破するのは容易ではないと思うのだが。
「相手ってどんな奴らだったんだ?」
「人数は60人ほど。これは普通の盗賊団よりも多いです。しかもその中に『魔術師』が何人もいたし、そのうえ……」
ここで例は押し黙る。
「そのうえ?」
「『ドラゴン』がいたんです。しかも2体も」
「『ドラゴン』!?」
『ドラゴン』は『魔獣』の中でもかなり強力な部類に入るものだ。とてつもなく凶暴だが手なずけることができれば、素晴らしい騎獣になる。
ちなみに『魔族』を紹介した時に『龍種』という存在がいることを言ったが、こいつはドラゴンとは全くの別の存在である。『ドラゴン』は『息吹』というものしか使えないが、『龍種』は『息吹』に加えて、ほかの魔法も使うことができる。
「そりゃあ、普通の警備兵じゃあ無理だな」
「ええ。ドラゴンを倒すには少なくとも上級魔法を使える『魔術師』が3人は必要なのに、こっちの『魔術師』は2人。さらに使える魔法は中級ぐらいまでです」
レイはそこまで言うと、拳を握りしめ、唇をかむ。噛む力が強すぎるのか、血が一筋流れ出る。
「あっという間に占領され、財産も女も取られました。……僕は、僕は何もできなかった……!!」
ルシルは近づいて、小刻みに震えるレイの背中をゆっくりと撫でる。
「なあ、盗賊たちって今どこにいる?」
「村のはずれの教会です。
「………」
俺は考える。ぶっちゃけて言うならば、この村の騒動など俺には全く関係ない。無視してこの村から出ていったとしても、何の罪にも問われない。むしろ厄介ごとに巻き込まれないため、こっちには得しかない。俺は未だ震えているレイに顔を向ける。
「……なあ、レイ」
「は、はい。なんでしょう」
「お前はさ、助けてほしいか」
「え?いや、そんなことむ」
「無理かどうかはどうでもいい。助けてほしいかと聞いている」
「ーーーーッッ」
レイは再び俯き、血を吐くように言う。
「そりゃ……助けてほしいですよ……ッ!!」
「よっしゃわかった」
俺はルシルの方を見て今後の予定を告げる。
「今日の夜、あいつらのいる教会行って、全員殺そう」
「うい」
何でもないようにルシルは頷いた。
「なっ」
派手に音を立て、椅子から立ち上がるレイ。顔は驚愕に包まれている。
「は、話聞いてたんですか!?相手は『魔術師』もいて、『ドラゴン』も」
「ああ、聞いてた聞いてた」
「だ、だったら!」
「だってお前助けてほしいんだろ?」
俺はそのままじっとレイの目を見つめる。
レイはその言葉にしばし呆然となる。が、目に涙をためると俯いていった。
「よろしくお願いします……ッ!」
夜になる。辺りは静寂に包まれ月が辺りをこうこうと照らす。
「あそこだよな~」
俺は松明が周りに焚かれ、何人かが見回りしている建物を指さす。ルシルも頷く。
「間違いない。匂いはあそこからでてる」
ナイトを鞘から抜き、少しその場でジャンプしながら今回の作戦を反復する。
まず俺が正面から突入し、敵を引き付ける間にルシルが他の村娘たちを助ける。
1人の時、ドラゴンが出てきたらもう1人が来るまでひたすら耐える。
あまり作戦とは呼べないが、やみくもに突っ込んで行くよりはまだましだ。
「さて。お前らに恨みなんてないけどさ」
俺は笑みを浮かべた。これから起こすことに、これからやることに。
「死んでくれ」
何もかもがうまくいっていた。男たちは5人ほどでトランプをしながら昨日のことを思い出していた。リーダーの男が連れている『ドラゴン』によって簡単に村を落とせた。しかも宝も女も取り放題だった。自分たちは無傷のままで、だ。
このまま今のリーダーについていけば、自分たちは美味しい思いをし続けられると、本気でそう思っていた。だが、彼らは気づかなかった。世の中とはどうしようもなく理不尽だということを。
轟音と共に扉が吹っ飛ばされる。
何事かと思って振り返ると、一人の少年がいた。この国では珍しい黒目黒髪、ゾッとするような笑みを浮かべ、吸い込まれるような黒色で構成された刀を持った、珍しい服を着た少年。男の1人が思わず、つぶやいた。
「お前……なんだ?」
その言葉が彼の最後の言葉となった。一気に近づくとつぶやいた男を一撃で殺す。
他のものも武器を手に取って反撃しようとするが、一歩遅い。瞬時に首をはねられる。
少年、間宮英一は物言わぬ肉塊になったものを満足そうに見る。
慌ただしい音が向こうの部屋で聞こえてくる。更なる殺戮のために音のするほうに向かっていく。
そして驚いている敵に対して、己のつかえるスキルを駆使して次々と殺害する。
剣を構えるものには『夜を行くもの』で首をはねる。盾を構えるものは『夜を行くもの』に闇をまとわせ盾をぶち抜く。魔法で火球を放つものには、闇で盾を作って防いだ後、
『闇の支配者』ジャベリンを作り、遠慮なくぶち抜く。密集して囲んで潰そうとする者たちには圧縮した闇、『影球』を投げ込んでまとめて殺す。
あっという間に死体の山が築かれる。
やがて英一を遠巻きに眺め、じりじりと後退するしかなくなる。圧倒的である。たった一人に対してこの有り様である。時間にしても10分もたっていない。
「おい、どうした?かかってこないのか?」
1人の男が賭けに出る。彼は呪文を唱え、即座に発動させる。
すると英一の足元から幾本もの鎖が飛び出し、体を拘束していく。
少しだけ驚く英一。
「は、ははっ!今だ殺せ!」
『魔術師』の男の言葉でゆっくりと剣を持ちながら近づいてくる他の盗賊たち。
そんな男たちを鼻で笑うと同時に、英一は『闇の支配者』を発動させる。
さっきと同じように足元から何かがせりあがってくる。しかし鎖などではなく、剣や槍ではあるが。
あっという間に串刺しにされ絶命していく。
呆然としている男をしり目に単純な力で自らの鎖を引きちぎる。
そんな風な非常識なことをされては、男もさすがに笑うしかなかった。
そしてそのまま自身に振り下ろされる刃をじっと見ていた。
そんな風にして俺はあっという間に盗賊たちを殺していく。
進んでいくと無駄に豪華な部屋があった。ちょっと小太りの男が別の部屋に逃げていった。
俺はそいつを追いかけた。多分そいつがこの盗賊団の長なのだろう。レイから聞いていた情報とも一致している。途中他の団員も殺しながら、俺はその小太りを追い詰めた。
威厳もくそもない。みっともなくガタガタ震えている。
俺は嘆息しながらそいつに対してナイトを振り上げる。これでこの騒動は終了したと思ったその時。
突如、俺の真横の壁が爆発した。
「な、あ!?」
とっさに『闇の壁』を作りガードする。更に何かが『闇の壁』に突撃してくる。
そのまま他の壁を突き破っていき、最初に入っていった場所まで吹き飛ばされる。
……危なかった。一瞬でも防御が遅ければ、死んでいた可能性があった。
だが俺に休む暇など与えてくれない。空に咆哮が響き渡る。
上を見ると巨大な翼をもった『ドラゴン』がいた。体長は3メートルほど。さらに俺を吹っ飛ばしたものもこっちに向かってくる。こっちの『ドラゴン』は飛ぶような器官がないが、頑丈そうな鱗におおわれている。更に大きさは翼のあるやつの倍以上はある。
「ハハハハハハハハッ!!こいつらは『飛龍』に『地龍』!
お前みたいなやつが束になったって勝てる相手じゃねえんだよ!!」
こいつらは厄介だ。少し戦ってすぐ分かった。『地龍』は分厚い鱗があるため生半可な攻撃が通じず、『飛龍』は動きがすばやく、攻撃が当たらない。どちらか1体なら対処できるが、2体同時はきつい。
『飛龍』による『息吹』の攻撃をよけるが、俺は態勢を崩し足を取られる。
そこに『地龍』が突撃してくる。
「主!!」
ナイトのあせった声が聞こえる。だが、よけることも防ぐことも無理だ。
死ぬ。そう思った時、
「ガアアアアアアウウウウウウウウウウウ!!!」
「フシュウウウウウウウウウウウ!!?」
白い塊が『地龍』の横っ腹に体当たりし、軌道がそれた。
その白い塊は狼だった。威厳を漂わせ、まさに王者といったところか。
だが、なんだかこいつ、知り合いに似ているような気がする。なので名前を呼んでみることにする。
「……なあ、お前……ルシル、か?」
「がう」
短い答えが返ってくる。仕草と言い、声と言い、やっぱりそうか。
いろいろ言いたいが、とりあえず2つだけ言っておこう。
「ありがとう、助かった。後お前チョーかっこいい」
「……がう」
少し照れたように泣いた。ちょっと和む。
しかしまだ戦いは終わっていない。『地龍』はすでに体勢を立て直していて、『飛龍』に至ってはまだピンピンしている。
「ルシル、お前は空飛んでるやつを。俺はあのデカ物をやる」
分かったとばかりに大きく頷き、咆哮を上げながら『飛龍』に飛びかかっていく。
あの分なら心配いらない。すぐに片付くであろう。
俺は『地龍』と向き合う。すでにこちらに突進して来ようとする。
だが、それはさせない。さっき俺を縛り付けた魔術と同じように鎖を『闇の支配者』を使って再現する。いたるところから出現したそれは『地龍』の動きを封じ込める。
「ナイト、俺に力を」
「……了解した、我が主よ」
闇が刀身に集まっていく。それを見て『地龍』は一層暴れるが、鎖はびくともしない。
「『闇の閃光』」
俺はそう言ってナイトを振り下ろす。
すさまじい勢いで放出された闇は『地龍』の鱗すら両断する。
俺はナイトを軽く振って鞘に納める。
ルシルの方もちょうど終わったらしく、『飛龍』の首を食いちぎっていた。
ふと教会の方に目を抜けると、呆然とした顔でいる小太りの男がいた。
こいつを始末して今回は終了だ。あ~ホント疲れた。
次回、この世界のことが分かり始めます。