第1章 初めての異世界
「……森だー」
異世界に来ての第一声がこれかよ、とも思ったがまあ事実森だしな。
かなり背の高い木があちこちに生えている。かなり神聖な雰囲気のある森だ。
周りの検証も重要ではあるが、まずは『魔王』からもらった道具の検証からしたほうがいいなと判断する。
まずは白銀の腕輪からだ。だがこの腕輪、不思議なことに切れ目が全く見当たらない。もちろん穴から腕を入れることは直径から見てもできない。いやーこれどうしたもんか、と右腕に近づけたとき。
突然腕輪が大きく割れて、腕に絡みついた。
「うおわっ!!なんだこりゃあ!!」
すると装飾はそのままに俺にぴったりのサイズになった。
違和感は全くと言っていいほどない。更にその腕輪から力があふれ出てくる気がする。
だが一体何の効果があるのかもわからない。もちろんじろじろ見たところで何かわかるわけもなく。
「あ~も~、ゲームのステータスみたいなのがあればな~」
とつぶやいた瞬間、脳内になんかいろいろ書かれたテキストのようなものが浮かび上がった。
……色々と言いたいことはあるが、取り敢えずそのステータスをのぞいてみる。
【名前】 間宮英一
【称号】
【レベル】 Lv:1
【装備】 学生服・(上)(下)夜を行くもの 祝福の腕輪
【スキル】闇の支配者 闇を喰らうもの 暗視 歴戦の戦士達の技 全能力向上 言語習得 幸運
と、まあこんな感じか。
レベルが1っていうところがかなり屈辱的だが、これは地道にあげてゆくしかあるまい。
更にこの刀の名前も判明した。『夜を行くもの』、か。なんか中二くさいが仕方あるまい。
鞘から抜き放つと俺はその刀身のあまりの美しさに息をのんだ。
名にある通り夜の闇から打ったような存在感のある黒。飲み込まれそうとはまさにこのことだ。
ひとしきりその美しさを堪能した後、俺はそれを鞘に納めた。
「ふむ。そなたが我の新しき主か?」
不意に若い男の声が聞こえる。辺りを見渡すが俺以外誰一人いない。
「ここであるぞ、わが新しき主よ」
もちろんそこにあるのは、刀なわけで。
「……お前、喋れるんだ」
「ああ」
「インテリジェンスソードってやつか?すごいなお前」
「……あまり驚かんのだな?」
「まあな。『魔王』と一緒にいたらいやでも耐性付くわ」
俺はあいつにもっとやばいものを見せられたり、させられたりしたことがある。
「……フフフフ。どうやら我はよき主に恵まれたようだな」
「これから長い付き合いになるだろうし、よろしくな『夜を行くもの』」
「ああ、よろしく頼むぞ我が新しき主よ」
まずは『夜を行くもの』(これからはナイトと呼ぶことにする。本人も気に入ったらしい)のことについて聞いてみる。まずナイトの持っているスキルは『闇の支配者』から『歴戦の戦士達の技』までだとか。ということは多分残りのは『祝福の腕輪』のスキルなのだろう。
一つづつスキルを試していくことにする。
まずは『闇の支配者』からだ。
自分の影や周りの影を操ったり、闇を生み出したりすることができるスキルだ。更に綾つている影や闇の性質は自分である程度決められるらしい。
試しに闇でできた槍を作り、自分が思う最高の硬さにして近くの木を突いてみる。
するとあっけなく貫通した。うん、すごいなこれ。
ただ、なんだか力が抜けてくる感じがした。行動に支障はないが、なんとなく不快感を覚える。
ナイトに聞くと、どうやら『魔力』を使用したことからくるものらしい。
魔力というものはすべての生命体に宿る生命力の一種らしい。もちろん休んだり、眠ったりすれば
治るものらしいが、一度に大量に使用すれば、『魔力欠乏症』という状態になり、良くても意識が混濁
悪ければ気絶することもある。このスキルは気を付けて使わねばなるまい。戦っている最中に『魔力欠乏症』になれば死ぬことすらありうる。
次に『闇を喰らうもの』だが、これは影や闇から魔力を回復することができるスキルだ。
これは実に便利である。更に魔力を溜めることも可能だ。戦闘の事前にこれを使っておけば有利に戦いを進められる。
『暗視』はそのままで、どんなに暗くともきちんと視界を確保することができるスキルだ。
『歴戦の戦士達の技』は今までナイトを使ってきたもの達の技術を使うことができるスキルだ。
便利ではあるが、使い始めて間もないせいか、まるで操られているような不快感がある。
それは鍛錬を積むしかないとナイトが言っていたので、これを使用して自分の動きにしていけばいいかなと思う。
さて残りのスキルは『祝福の腕輪』によるものであるのはなんとなく分かる。
さらにこれはただ装備するだけで能力が発動するものらしい。自分の意志では操作することができない。検証はあきらめたほうがよさそうだ。
一通りスキルのことは検証できたので先に進むことにする。
「おお、そうだ我が主よ。そなたにやってほしいことがあるのだが」
「ん?なに?」
「我が刀身に主の血を付けて欲しいのだ」
「えっと……、どれくらい?」
「なに、ほんの数滴でよい。それをせんと少々面倒なことになるのでの」
「あいよ」
俺はナイトを抜いて切っ先で左手の人差指の腹を少しだけ刺す。そして傷口から数滴だけ垂らす。
血はそのまま刀身に吸い込まれてゆく。
「よし。これで我は主か、主の認めたものにしか触れんようになった」
「へえ~そんな機能あんのお前」
「では行こうか我が主よ」
「そうしますか」
正直行く当ても何もないのだがここでじっとしていても何も始まらん。
ではいざいかん、異世界へ!!
次回、初めての戦闘とヒロイン登場です。