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     二

 この部分は昨今うっとおしいほど話題に出てくる()()()の問題にも係わりがある。実は私も中学の頃さんざんいじめられた口である、気持ちは痛いほど解る。あのときデール・カーネギーの本に出会っていたら人生は変わっていただろう。

 さて続きである。一ドルでも上手く働かせれば十年後には千ドルに化ける。一ドルは出来たての時はほんの小さな雪玉だった。山の頂から静かに転がり始めると、雪玉はみるみる膨らみ、大きくなっていく。何処までも、何処までも転がり続け、今や数百億ドルの規模となっている。

 そして、彼を信じてパートナーシップ(資金を預けて運用を託す契約)を組んだ人達も、今やみな億万長者となっている。バフェットをはじめ、彼と関わった人達は皆、今では増やしたお金を慈善団体に寄付している。彼の子供たちもそれぞれ慈善団体を運営している。


 新聞配達少年だったウォーレンがある時、

「お金とはこの雪玉(スノーボール)のようなものだ。上手く運用すれば千倍になって戻って来る」

 そう気が付いたのである。その時から彼の目標は三十歳までに億万長者(百万ドル)に成ることとなった。

 ウォーレンの父は常に内なるスコアカードが百%の人だった。彼もその気性を受け継いだ事が偉人への階段の一歩となった。外なるスコアカードとは、世間体とか、人の意見によって影響される、それが判断や行動の規範になる事を言う。内なるスコアカードとはその逆で、周りの判断に惑わされず、常に自分の中に自分なりの判断基準を持つことを言う。その為には人よりもあらゆることを知っていないと判断のしようがないはずである。彼は類稀なる記憶力であらゆることを吸収していった。尤も知らない分野については判断のしようがないので判断する事を避けた。決して外なるスコアカードには従わなかった。

 子供を教育すると、両親が重んじる事柄を子供はいち早く吸収する。世界にどう思われるかだけを重んじる親なら、子供は本来の自分の振る舞い方を忘れてしまい、外なるスコアカードに動かされるようになる。

 内なるスコアカードによって行動する者は、周りから見ると奇人、変人に見えるであろう。自分の考えのみで行動する者はとかく浮きやすい。従って仲間外れになりやすい。そのことが彼の最大の悩みであった。彼は誰とでも仲良くしたい、争いは好まない、そう言う人だった。

 ある時、ウォーレンは元セールスマンのデール・カーネギーが書いた本、

 『友達を得て、他人に影響を与える方法』(邦訳で『人を動かす』)

 に深く影響を受けたという。カーネギーの原則は、「批判、避難、苦情は禁物」という事だった。

「蜂蜜を採りたければ、蜂の巣を蹴って引っ繰り返してはいけない」

 と書いてあった。他人を批判しても実りはない。批判すれば相手は自分を正当化しようとして必死になる。それが危険なのは、相手は大事な自尊心を傷つけられ、価値を(おとし)められ、恨むからだ。カーネギーは対決は避けるべきだと唱えていた。ルールは他にもたくさんあった。少しずつ実践し、それが有効であることを知ったバフェットはこの本によって人との和を取る方法を身につけていった。


 小学生の時から学業を積ながら金を貯め、やがて大学を卒業後にさらに経済の奥行きを学びたくてハーバードビジネススクールに志願したが、あえなく断られ挫折を味わった。

 そして『証券分析』という本と出合い、感銘を受けたウォーレンは、その作者、ベン・グレアムに師事を受けたいと思った。熱意が通じて上級スクールに入ることが出来たのである。やがて卒業し、グレアムの投資顧問会社で働くことになった。めきめき頭角を現していったウォーレンだったが、転機が訪れた。グレアムが引退したいと言い出したのだ。

 ウォーレンが後を継ぐことも出来ただろうが、彼は故郷オマハに戻って旗揚げする道を選んだ。


 これまで学んできた知識と経験をもとに、ごく身近の人にだけ誘いを掛けてパートナーシップを結成した。一人五千ドルを下限とし、運用は一切ウォーレンに任されて、何処に出資したかとかは一切秘密であった。それを訊ねる人とは組まなかった。あくまで自分を信用してくれる人のみとパートーナーになった。それだけにウォーレンは絶対に人を裏切らないことを約束した。

 もちろん運用が上手くいかず、失敗するケースもあるが、そのことは裏切りではない。裏切りとは詐欺行為を働いたり、分配金を誤魔化したりすることを言う。

 数年前、アメリカで起きた史上最大の詐欺事件を覚えているでしょうか。美味しい話で資金を集め、運用も何もせずに金を持ち逃げした事件、彼は何百年という禁固刑に処せられましたよね。こう言うのを裏切りという。ごく身近な人達だけに声を掛けた以上、彼等を悲しませる訳にはいかない。その事がやましいことを出来なくさせる防波堤にもなっていたようだ。


 ウォーレンはある有望な小さな会社が経営者の舵取りの不味さですこぶる悪い状態に陥っていることを知った。どうにかこの会社を立て直し、助けてやりたい、そう思ったのである。そこで会社の株を秘かに買い集め、会社の経営権を得るまでになった。

 ところがその段取りが明朗でなかったために、その町の人々は工場を潰される、会社を守れとシュプレヒコールをやり出した。ウォーレンには潰す気など全くなかったが、一旦誤解を受けてしまうとそれを覆すことは並大抵ではない。

 前の経営者にそそのかされた町の者はすっかりウォーレンを鬼か蛇と決めつけ、訴訟を起こした。良い事をしようとしても、きちんと筋を通さないと誤解される。手痛い敗北であった。この事があってからウォーレンは買収するときは必ずその会社を生かし、決して潰さないことを約束し、その情報を事前に開示することにしたのである。

 次に見つけたのがアメリカ北部では珍しい繊維会社であった。アジアやオセアニアなどから来る安い繊維に押されて、北部ではもはやコスト的にやっていけない状況にあった。世界大戦前のころのバークシャー・ハザウェイという会社である。

 アメリカ南部では安い賃金(メキシコ人など)と広い土地のお陰で移転すれば海外勢にも対抗出来たのである。現経営者の先見のなさと頑固さによって会社は著しく苦境に立たされていた。

  『経営者とは会社の所有者ではない、断じてない!』

 この頃はまだ世間ではそれに気づいていなかった。

  『会社の所有者は株主である!』

 この事は未来永劫変わることはない。そのことをはっきり分からせてくれたのがウォーレン・バフェットであった。如何せん日本ではいまだにその事を知らない人ばかりである。

 ちょっと脱線してしまったかな・・・話を元に戻しましょう。

 バークシャー・ハザウェイという会社は、まさにシケモクだった。あと一服だけ吸える金があるという意味である。株価総資金よりも現資産の方が多かったから、買えば必ず儲かる事が分かっていた。買ったうえで解散させて切り売りすれば、その手数料を差し引いても利益が出ることを計算している。町はこの会社のみで成り立っている。こんなことをされては生きてゆけなくなる人が沢山出るに違いない。しかしバフェットは会社を清算はしない、生かす道を考える人だった。過去の失敗を繰り返さないように、ウォーレンはこの会社を存続させることを約束した。

 こうしてさほど大きくもない繊維会社バークシャー・ハザウェイを足掛かりとし、いろんな会社をどんどん合併しては大きくなっていった。保険、飲料、新聞社、家具販売社、鉄道、航空会社などあらゆる会社が加わって行った。

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