一
この話は2年前にブログ上で紹介した作品ですが、未だに読みに来る方が多いもので紹介致します。『スノー・ボール~ウォーレン・バフェット伝』アリス・シュローダー著の書評で御座います。 二〇一〇年九月三日、ブログにて。
先週まで、わたくしは『スノー・ボール~ウォーレン・バフェット伝』という本に釘づけだった。上下巻で千六百ページ、五千円の大作である。彼の人生と生き様を綴った本である。随分前に出版された本なのに今ごろと言われる方もおられるだろうが、とにかく高価なので図書館で借りることにし、予約したのである。
半年も経ってから漸く自分の番に回ってきた。キャンセルしようと思ったぐらいバッドタイミング。長編の小説を七割ほど書きあげた頃であったからだ。あと三分の一で区切りと言うところで水を差された。けど、次を待っていたらいつになる事やら、と思い中断して先にこの本を読んでしまおうと決めたのだ。
読み終えてみてから思うに驚いた、これぞ本物、人生の道標を綴った本と言える!
ただし、経済に多少詳しくないと読みにくい。わたくしのように年を取ってから読んでもさほど参考にはならないが、これを若い人が読んでいなかったなら、それこそ後悔するであろう。わたくしは、茨のような明日の未来を残してしまったことを大人として、つくづく後悔している。然るに、所詮自分如きがあくせくしたとてどれほどの事が出来よう? ただただ、後輩たちに道を間違って欲しくないと願うだけである。
この本こそ買っていつでも座右に置いて、紐解きたくなる本であった。
ウォーレン・バフェットと言う人は世界一優れた投資家で、今もバリバリの投資家であり、世界一の投資顧問会社、バークシャー・ハザウェイのCEOなのである。今でもこの会社の株主総会の際にバフェットの書簡をバイブルのようにして読んでいる投資家が山ほどいる。慈善家である。十一歳の頃に新聞配達をすることから世の中の仕組みを知り、金の殖やし方を理解したIQ二〇〇を超える天才である。ただし、ある一面に限っての事である。
人によって読んだ感想が異なるのは当たり前である。感じ方をとやこう言う気はない。わたくしの場合は、この本をこう読んだ。どうやったら神様――気とかつきの神様と言うべきであろう――を味方につけて運を呼び込むか、運というものはどうあれば巡ってくるものか、悪運というものは憑いたら払拭するのがいかに大変か。少しでも何かやましいところがある限り、運は遠ざかるのだ、そして清く潔白である事のみが運を引き寄せる。
バフェットは十二歳ごろにその事に気づいてしまい、それまでの陰気で暗い性格をあえて変えた。その切っ掛けになったのは、デール・カーネギーの思想であった。あのカーネギーホールを建てたアンドリュー・カーネギーとは関係ない。
『一ドルを千ドルに替える方法』
そして人に嫌われない、敵を作らないで済む応対術。
それまでの彼は内向的で、大勢の前に出るとガチガチになって何も話せなくなってしまう。わたくしもまさにそうである。
それが客観的立場の視点に自分を置けば、舞い上がることはないという事を学んだ。もちろん大変な努力を積んだ結果であった。
「一ドルを千ドルにするには、金をめいっぱい有効に働かせて、複利で稼げばいい」
その事に気付いた。
彼はカーネギーから人の生きる術を、全て学んだ。そして、ベン・グレアムという投資における師匠と出会った。この人の、企業の価値についての考えは、今でもよく採用されている。PBR、すなわち会社の解散価値、これを用いて買える会社を探すのである。
たばこに例えて、『シケモク漁り』という。もちろんケチのバフェットはタバコや葉巻はやらない。
尤も今ではどこの経済アナリストでもあらゆる企業の情報を流しているので通用しなくなったように思えるが、一九四〇、五〇年当時の彼はその恩恵に与れたわけである。
とにかく業績はともかく、しこたま金を持っているのに株価は低いとされている会社がターゲットだった。
『発行済株式数X株価(=株価純資産、日経で言うところTOPICSに当たる)』
よりも現在持っている資産の価値の方が高い、それなら会社を買ってしまって、あえて倒産させて全部売ってしまえば利益が出る。当然であろう、資本金と今会社にある全財産とを比べているのである。多い方につこうと人は動く。これぞ投資の世界である。1との境い目がPBRである。1はどちらも当分ということで1より低ければ解散した方が得ということ。
現在この状況になっている企業はどれほどある事か? あのずっと無借金経営を続けることで、独り勝ちだったパナソニック(PBR=0.80)ですらそうなのである。