帰り道にて
この話は、筆者の実話+オリジナルとなっております。
「かわいいよねぇ」
「いや、かわいいのは里香さんでしょう」
今日も一日の勉学を終えて、いつものように同じ景色を見ながら歩いていると、里香さんは突然そう言い出した。
実は、彼女がこう言ったのは初めてではない。あの日も、場面は帰り道。塾が同じ私と彼女は、数少ない女の生徒ということで、たまに話していた。そのときにも言われた。
「かわいいね」
彼女がこう言うのは、きまって私が笑っているときである。私は女性としての魅力がない。兄がいるせいだろうか、声は大きく心は狭い。全て兄のせいというわけではないけれど、声が大きいのは絶対に兄による影響だ。
「あのね、笑顔がかわいいの。笑顔!」
そうやって笑いながら言う彼女の笑顔はとてもかわいいので、思わず笑ってしまった。
「おかえり」
帰宅した私に声を掛けるのは、我が家一のぐーたらである兄だった。掛けられた声に返事をして、すぐに夕食を食べる準備をする。腹は空きすぎて、とても気持ちが悪い。
「ねえ、私ってかわいいかな」
「全然」
顔がどうこうではなく、趣味の一致というだけで恋仲となった女性とは、まだ関係が続いているらしい。呪ってやりたい。面白そうだ。
「人によって、感じ方は変わるんだよ。笑うからかわいいとか、普段の表情がかわいいとか、関係ない」
「おっはよー」
「おー」
元気よく挨拶してくる里香に、適当な返事をすると、このやろうと言いながら走り寄ってきた。
「ねえ、里香」
「何?」
「私は、いつもの里香が好きだよ」
あったりまえじゃん!
うちはね、笑ったあんたが好きだよ。
なぜだか知らないが、「笑顔がかわいい」と言われた。