年上な彼
年上な彼
弟はいつだって私の後ろをついてくる、可愛い奴だった。その甘え方は依存といっても過言ではなくて、たまに弟の存在を煙たく感じる時もあったけれど、やっぱり一緒にいて楽しかった。
母親のいなかった弟にとって、私は心の拠り所であったのだろう。
ある日、私達は結婚を約束した。
弟は真面目な顔をして、一緒のお墓に入ってくださいと、いつのドラマに影響されたのかは分からないが、古臭いセリフを嘯いた。
私は笑うのを我慢しながら、いいよと差し出された弟の手を取った。
だけど、成長するにつれて弟は私に反抗するようにしまった。思春期の男には必ず訪れるものだと、父親は私の相談を一蹴した。だけど、あなたなんかに私の弟の何を理解できるというのだろう。あなたはずっと仕事ばかりで家には帰ってこない。
それにこの私が、気が付いていないとでも思っているのだろうか。携帯を開けば同じ女の人からの着信が並んでいる。父親のしていることは一目瞭然だ。
私は父親のように、好きだった人間が死んだとしても、他の人間に目移りしたりしない。
私は一生、弟のことを愛し続ける。
だけど、弟は私を拒絶する。
気持ち悪い。あの時の約束なんて、ずっと昔の、分別がつかなかった子どもの頃の話だろ? いい加減、ひっつかれるのは、いい迷惑なんだよ。お姉ちゃんも、そろそろ年なんだし、彼氏でも作れば?
弟はどうしてしまったんだろう?
あんなに私を慕っていてくれたのに、言動が粗野になり、私の愛を理解しようとしてくれない。
監禁してみても言うことは変わらなかった。
狂っているだとか、こんなことしてただで済むとでも思っているのか? ……なんて、心にもない言葉で私を傷つけるようにもなった。
私は涙を流しながら、弟に懇願した。
昔のように姉弟で仲良く助け合って生きましょう、って。
だけど、弟は頑として首をふらなかった。
だから、私より先に弟を地面に埋めてあげることにした。抵抗はされたけれど、それも愛情表現の一種なのだろうか。
ふふっ、本当に可愛い。
弟に付けられた爪痕が治りかけになったら、ナイフで抉る。そして、手の甲に滴る血を舐めるの、が私の日課だ。
今日も手の甲を舐め、指をしゃぶり、庭につくったお墓にお祈りする。
――今では弟の方が私より年上だ。
私はまだ死なない。ちゃんと寿命を全うして、弟と一緒のお墓に入るつもりだ。
今すぐに自殺して弟の傍に行きたいけれど、やっぱり嫌だ。
だって、死ぬのは怖いもの。