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3 天使で悪魔

 みんながブレザーの制服を着ている中、たった一人だけ、体操着のハーフパンツにクラブジャージ。これって、鳩の中に迷い込んだアホウドリの気分。かなり間抜けな姿で五時間目を迎える事になった俺を

「すげ、マッチョアピールしている筋肉馬鹿っぽい」

安倍氏が笑う。

「うるせぇ」

教室に帰った俺の椅子の上には、誰かの弁当の残飯(多分複数名)が捨てられてあり、俺はものの見事にその上に腰を下ろしてしまっていた。まさかスラックスだけをジャージに替えるのはあまりにファンキーで気が引けて、取りあえず、全替え。

 エロ眼鏡のあだ名を持つ透は、人の心を見透かす事にかけても長けている。その男曰く

『陽介はどちらの派閥にも属していないから、選挙戦立候補者にとっては、なんとか土壇場で取り込みたいって所なんだろうな』

『で、ついでに、大島優子(仮名)に信頼され、前田敦子(本名前川篤子)におねだりされたって事で、完全にファンから憎まれたね』

みんな他人事だと思って、楽しんでいやがる。 

 何はともあれ、委員会に出席しない訳にはいかないみたいだし、俺はため息が止まらなかった。そして、五限目の休み時間。移動に廊下を歩けば

「あ〜、ご免ね〜〜」

面識のない誰かが集団でぶつかってきて、

「ヤバいよ〜、どいて〜〜」

階段を降りていると、何かが振ってくる。多分、濡れ雑巾。俺の後ろで

「ぎゃっ!」

って悲鳴と、ビチャッっていう残忍な音が聞こえた。俺に頭の中には、なんだっけ? 限りなくブラックに近いブルーとかいう、昔の小説のタイトルが点滅していた。

 しかも何? 気分を取り直し、朝香に夕方一緒にいたいってメールしようと思って、こっそり携帯の電源を入れた瞬間、

「はっ!?」

スパムメールが一気に200って、ありえねぇ! 誰かがどこかのエロサイトに俺のアドレスチクりやがったな! くそっ! ファッP —だぜっ!!

 ……もうこうなったら、委員会は公式辞退だ!

 だから授業が終わった瞬間、俺は速攻図書委員会顧問のマダム大崎を探した。彼女は 20代後半の、透の言葉を借りると

『夜のコスプレ女教師』

家政学専門のはずが、なぜかいつも白衣姿で、きちんとした黒の短いタイトスカートをはいている。しかもセルフレームの四角い眼鏡をかけ、長い髪はいつも夜会なんとかって言う髪型でアップにしていて、一見堅そうなタイプに見えた。

『マジでAVにいるタイプって感じ。お昼は清純でホワイトな家政科の先生、そして夜は生徒を調教するブラックな体罰教師。深夜の調理室、銀色に光る流し台。ほどいた髪に、真っ赤な口紅がニヤッと笑う。

“あなた、昼の授業を真剣に聞いていないでしょ? それがどんなに悪い事が、先生が分からせてあげる”

開けた白衣の下には黒の網網コスチューム、もちろんエナメルのピンヒールはいてさ。

“あなたの体に教えてあげる”

って。あ〜、俺も料理されてぇ〜〜』

……。さばかれちまえ!

 そんな彼女は図書室にいた。

「あら、篠崎君、早いわね」

書架の奥で何やら調べ物をしていたらしい。俺は勢いでここまで来てしまったけど、なんて言って委員会を辞退すればいいのか、本当の事を言ったらむしろ馬鹿だって思われるし、まいったなって思った。すると

「ちょうど良かったわ。今日、司書の方が病休とられていてね。ちょっとお手伝いしてくれるかしら」

と、彼女は俺を奥の部屋に誘った。

 これって透好みのスチュエーション? 馬鹿な事を考えていると、なんと、先生の方から声をかけてきた。

「今回、色々有ったでしょう?」

って。

「あっ、はぁ」

俺はどれだけ先生が知っているか分からないし、カマかけられたとしたら下手に乗ってもいけないな、とか思いながら曖昧に頷いた。

「金原ちゃんに委員会指名されたでしょ? 報告受けてるし、その結果どうなったかちょっと想像つくんだよね」

そしてくすくすっと鼻の奥で笑った。近づいていると、いかにも大人の女の人って感じのバラみたいな化粧品の香りが漂い、俺は妙に落ち着かない気分になった。

「毎年ね、図書委員長の選出は大荒れなんだから。実はね、私もこの学校の卒業生でね、歴代の図書委員長の一人なのよ」

「えっ!」

俺は思わずマダム大崎先生の顔をまじまじと見た。そう言えば、確かに美人だし。俺は元モー娘。で今も現役アイドルをしている七澤なんとかの顔を思い浮かべていた。

「やだぁ、そんなに驚かないでよ」

先生は乙女な感じでふふふっと笑い、俺は何となくヤバい雰囲気を感じ、どうにか話題をそらそうとした。

「いや、それより、何で俺が指名されたのかが分かんないんですよ。だってほら、今まで図書とも金原さんとも無関係だったし」

一歩下がると、先生は一歩近づく。

「ほら、それはね」

先生は俺の手に新しい本を数冊手渡した。

「気がついていないかもしれないけど、君、魅力的だから」

「はぁっ?」

眼鏡の上から見上げる視線。これって、覚えが有る。朝香が俺の事、騙しちゃうぞって感じの、ハイパーモード?

「なっ、何言ってるんですか?」

「だから、ね」

彼女はそっと息を吹きかけた。いや、俺が勝手にそう思っているだけかもしれない。

「選挙投票の結果はある意味出ているの。でもそれは、だいたいが男子の固定層。でも、女子の無派閥は宙に浮いている訳。それを取り込むために、君の事、選んだのよ、彼女、きっと」

「はぁぁぁぁっ?」

「だってほら、金原さんに、他の子を説得してって彼女に投票する様に呼びかけてって言われたんでしょ?」

先生の白衣の下は開衿のシャツで、

「君のその野性的だけどナイーブな視線で見つめて、他の女の子達をクラっとさせようって魂胆だったと思うよ」

俺の角度だと微妙にブラが見えるきがして……。

「私だったら、絶対まいっちゃうだろうな、君みたいな男の子に」

あっ、先生グロス塗りたてだ、なんた気がついてしまい

「あっ、俺、急に頭が痛くなってきた!」

逃げないと食われるって、本能的に思った。そう、思ったんだ。それから行動に移したはずだった。


次が最終話になります♪

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