第9話 ハンター、メイドとダンジョンに潜る(1)
押しかけメイドに日当たりの良い部屋を案内したタイミングで、俺のスマホが鳴った。相手は支援局の斉藤さんだった。
「はい、狩山です」
『ああ、狩山君。斉藤です。いいニュースよ。支援局と警察が貴方に掛けてた諸々の嫌疑、それが晴れたの!」
「え、ほんとですか……!?」
斉藤さんの話によると、まず、ダンジョン管理局が主導していた例の山の調査が終了したらしい。
ダンジョン管理局とは、国内のダンジョンを安全に管理し、ダンジョン暴走等を防ぐのが役割の組織だ。ハンター支援局同様、ダンジョン庁の下部組織でもある。
で、調査の結果、あの山でD級ダンジョンが一つ発見されたのだそうだ。多分、俺が遭遇したウォーゴブリンはそこから出てきたんだろう。
等級の低いダンジョンから稀に強い魔物が生まれることもあるので、管理局はB級の熊野郎もそこから湧いてきたんだろうと結論づけたそうだ。
ちなみにその危険なD級ダンジョンは、調査の実務を担当した上級ハンターにより破壊済みとの事だった。
この調査結果と、事件からまもないC級昇級を鑑み、俺への疑いは晴れたという訳だ。
しかし、熊野郎が居た消えたダンジョンに加え、D級ダンジョンまでできていたなんて…… あの山で何かが起こってるのか……?
近い内にまた伺うと伝えて電話を切ると、トモミンがにこにこと話しかけて来た。
「師匠、嬉しそうだね! いい連絡だったの?」
「ああ、君にとってもな。これで修行場所に困らないぞ」
俺はトモミンを連れて例の山に入ると、彼女への修行を開始した。
修行内容は、ハンターとしての基本的な立ち回りや基礎戦闘訓練、それから山に出没するF級魔物を相手にしたレベリングなどだ。
トモミンはちょっと感心してしまうくらいに飲み込みが早く、二人の連携もすぐに上手く行った。
数日程である程度仕上がってしまったので、俺達は早速昇級試験を受けに向かった。
ザワッ……!
二人で支援局に到着し、待合スペースに入ると、俺一人の時よりもさらに周囲がざわついた。
居合わせたハンター達が男女問わずトモミンを指さしている。やはり彼女の知名度はかなり高いらしい。
俺達は突き刺さる視線を掻い潜るように受付に進み、斉藤さんに声を掛けた。
「おはようございます。先日は連絡ありがとうございました」
「おはよう、狩山君。うふふ、なんだか晴れやかな顔してるわね。そんな君に、さらにいいニュースよ」
彼女が微笑みながら差し出したタブレットには、俺でも知っているような名だたるパーティー、企業クラン、装備メーカー…… 加えてニュースサイトや市議などの名前まであった。
「あの、これは……?」
「狩山君に面会を希望してきた人達のリストよ。きっとあの昇級試験の配信を見たのね。
ほら見て、有名どころばっかり……! 希望があれば直ぐに繋いであげるわよ!?」
「あー…… その、とても光栄なんですが、今は弟子を育てるのに手いっぱいでして……」
「え……? お弟子さん?」
「はい。ちょうど今日連れて来てるんですよ。トモミン。こちらは斎藤さん。俺が非常にお世話になってる職員さんだ」
トモミンは俺の隣に並ぶと、斎藤に向けて勢いよく頭を下げた。
「初めまして、トモミンです! 狩山師匠の弟子です! 師匠がいつもお世話になっています!」
「あらまぁ、可愛らしい! 狩山君が助けたって子よね? 受付の斉藤です、よろしくね。
しかし、お弟子さんねぇ…… 人見知りで、私に魔石の買取を依頼をするのにも涙目になってたあの狩山君がこんなに立派になって……! お姉さん、なんだか泣けてきちゃったわ……!」
よよよ、と泣き真似をしながらそんな事を言う斉藤さんに、自分の顔が赤くなっていくのを感じる。
「ちょっ…… それ十年くらい前の話じゃないですか……! 勘弁してくださいよ……」
「えー、なにそれー! 師匠かわいー!」
「や、やめて……」
そのまま暫し雑談…… というか二人に揶揄れた後、俺達はトモミンのE級昇級試験を申請して支援局を出た。
すぐに試験会場のダンジョンに向かおうと思ったのだけれど、俺は少し気になった事があってトモミンに話しかけた。
「なぁトモミン。君、最後の方なんだか妙に静かじゃなかったか?」
彼女は最初の方は楽しそうに話していたのに、後半は俺と斉藤が話しているのをじっと見つめているような時間が長かったのだ。
「そ、そうだったかなぁ…… ねぇ師匠。斉藤さんとは、仲、良いの?」
彼女は視線を逸らしてそれに答えず、逆に妙な事を俺に訊いて来た。
「仲……? まぁ、悪くは無いと思うけど…… 何せ十年くらいお世話になってるからなぁ。俺、あの人がいなかったらまともにハンター業出来てなかったろうし、正直頭が上がらないよ」
「ふーん。そうなんだ……」
平坦な声で相槌を打つトモミン。やっぱり何だか様子がおかしい。
「トモミン、大丈夫か……? もし体調が悪いなら日を改めよう」
「あ、大丈夫大丈夫! 元気だよ! えっと、ダンジョンはあっちだよね。さ、行こう!」
途端に元の笑顔に戻った彼女は、俺の手を取って走り始めた。
そうして到着したのは俺もお世話になったE級ダンジョン。『大兎の巣穴』だ。
俺達は諸々の準備を済ませて光の渦の前に立つと、自前で用意したのと、支援局から借りてきたドローンカメラを回し始めた。
「よっす、トモ友のみんなー! 今日はなんとー…… 初ダンジョン配信だよー!!」
カメラの前で大きく腕を突き上げた彼女に、スマートグラス上のコメント欄が急加速する。
”来ちゃ!”
”うぉぉぉぉぉぉっ! 待ってた!”
”トモミン、元気そうでよかった(泣”
”え、隣に立ってるの誰……?”
大盛り上がりだったコメント欄が、トモミンの隣に佇む怪しげな男…… つまりは俺に言及し始めた。
「ふっふっふっ…… そのとーり! この度、僕ことトモミンは、この人にハンターの何たるかを教えてもらう事になりました!
あの怪物熊さんから僕を助けてくれた恩人で、しかもC級昇級の日本最速記録保持者……! 狩山師匠どぅぁー!!」
「ど、どうも、狩山です」
盛り上げてくれたトモミンに対し、俺は何一つ面白くない挨拶で答えた。なぜもっと気の利いたセリフを言えないのか……
順を追ってこの状況を説明すると、まず、弟子の安全のため、俺はトモミンのダンジョン攻略に付き添う必要がある。
そして彼女は配信者なので、ダンジョン攻略を配信しないなんて選択肢はあり得ない。
なので、俺が彼女の配信に出てしまうのが一番良い形なのだ。
--決して、昇級試験の視聴者の反応に味を占めた訳ではない。師匠としての義務を果たすためなのだ。
リスナーの反応が不安だったけど、そこは民度が良い事で有名なトモ友。コメント欄はかなり好意的だった。
”勇者オジ……? 勇者オジじゃないか!”
”遺言配信に出てたG級ハンターだよな? あれ、あの直後に覚醒したって話だったけど、もうC級って凄くね?”
”凄いよ。と言うか早すぎる。支援局の公式発表を見てもちょっと信じられん……”
”トモミンを助けてくれてありがとう!”
”マジで!? 狩山氏=勇者オジだったん!?”
”狩山師匠、結構イケてない?”
”今日は二人で攻略するの?”
「そうそう! 実は僕、今日E級の昇級試験を受けるんだけど、それに師匠もついて来てくれるんだ!
師匠、斉藤さん、もう入っていい!?」
トモミンが俺と支援局のドローンを交互に見る。
「ああ、いつでもどうぞ」
『うふふ。ええ、もちろん。ではトモミンさん、これよりE級への昇級試験を開始します。所定のダンジョンの攻略を開始して下さい』
ドローンから聞こえた斉藤さんの声に頷き合い、俺達はダンジョンへと足を踏み入れた。




