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逃げ癖ハンターは立ち向かう 〜狩人の大精霊に憑依された底辺ハンターは魔物に溢れた現代で無双する〜  作者: 藤枝止木
1章 ハンター、大精霊に気に入られる

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第8話 ハンター、知らぬ間にバズる


『はぁっ、はぁっ、はぁっ……! ヤバいっ、ヤバいヤバいヤバいぃっ……!』


 トモミンのスマホから流れてきたのは、恐怖に震える彼女自身の声だった。

 そして画面の方には、樹上から見下ろす画角で恐ろしげな熊野郎の姿が映っていた。


「これは…… もしかして、あの時の遺言配信か?」


「うん、その切り抜き。あ、元動画はもう非公開にしてあるよ。トモ友のみんなにも手伝って貰って、こーゆーのは見つけるたびに運営さんへ削除依頼してるんだけど……」


「消しても消しても出てくる、と…… まぁ、一度ネットに上がったものを完全に消すのは困難だよな」


「……! う、うん。そう、なんだよね……」


 俺の言葉に彼女の表情が陰る。あ、あれ。何か不味いことを言ってしまったらしい。

 しかしなるほど。それでサムネに「衝撃映像、トモミン死す……!?」なんて書いてあったのか。投稿者も当然彼女ではなく、どっかの他人のようだ。

 あの時の彼女は本当に追い詰められてたから、そんな自分が映った動画に残しておきたく無いのは分かる。

 でも、彼女がその件で俺に謝る理由が分からないけど…… あっ。

 理由に思い至った時、動画にその答えが映った。


『おい! こっちだ熊野郎!』


「うわっ……」


 思わず変な声が出た。画面上に現れたのは覚醒前の中年の俺だった。

 動画の中の俺は、めちゃくちゃびびった表情で木陰から飛び出し、熊野郎に銃撃を浴びせると、奴から反撃されて尻尾を巻いて逃げて行った。な、情けねぇ〜……


『嘘…… 僕のせいだ…… 僕のせいでまた人が死んじゃう……! やだ…… やだよぉ……!』


 トモミンの涙声を最後に動画は終わった。動画に付いたコメントの方に目をやると、意外に肯定的なものが多かった。


”これ何処かの山の中ですよね? なんでこんな所にあんな化け物が……”

”このおじさん、銃使ってるってことはG級でしょ? めちゃくちゃ勇者じゃん”

”二人は結局どうなったん?”

”両方助かった。トモミンがSNSで生存報告してた”

”勇者オジに感謝。トモミンを助けてくれてありがとう!”

”その勇者オジがこの熊さんを仕留めたって話だけど、ちょっと信じられん”


--うん。めちゃくちゃおじさん呼ばわりされているけど、とにかく肯定的だ……


「その、師匠が僕を助けてくれたこの動画、配信サイトだけじゃなくてSNSの方でもバズっちゃってて、どうしても消しきれなくって……

 師匠、多分あんまり顔出しするの好きじゃないでしょ? せっかく命懸けで助けてくれたのに、こんなことになっちゃって、申し訳なくって直ぐに言えなくて…… 本当にごめん……!」


 トモミンはとても深刻な様子でそう言うと、机にぶつける勢いで頭を下げてくれた。一方、俺の方は少し安堵していた。


「なんだ、そんな事だったのか」


「へ……?」


 俺の言葉に、彼女は気の抜けた声と共に顔を上げた。


「あ、いや、真剣に謝ってくれたのに、そんな事って言い方は無かったな。うん、謝罪は受け取ったし、勿論許すよ。こんなの不可抗力だし。

 俺の情けない姿が全世界公開されてしまったのは、まぁ、ちょっとだけ恥ずかしいけど……

 それよりもトモミンが助かった事の方がはるかに重要だよ。だから、そんなに気に病まないで欲しいな」


「……! 情けないなんて、そんな事ない……! 師匠は、自分が死んじゃうかもしれないのに僕を助けてくれた! すごく格好良かった! そして、生きて戻ってきてくれた……!

 あの時、僕がどれだけ安心したか分かる……!? 山くらいじゃ、まだ全然恩を返しきれないよ!」


 彼女は目に涙を溜めながら、感極まったように俺に言い募った。ちょっと尋常じゃないくらい感謝してくれているらしい。


「そ、そうかな……? その、ありがとう。でも本当に気にしないで欲しんだ。 --これは後で言うつもりだったんだけど、俺、すでに配信で顔出ししてるし」


「え”っ…… そーなの!?」


 俺はトモミンに、一昨日F級からC級に昇級し、その時の様子が支援局の公式チャンネルで配信された事を伝えた。

 彼女は昇級試験が配信される事を知らなかったらしく、露骨にホッとしていた。


「そうだったんだぁ…… でもC級昇級の日本記録って、やっぱり師匠ってすごい人だったんだ……!」


「あー…… あの日たまたま上手く行ったんだよ。もう一回やれと言われたら難しいかな」


 尊敬の視線を向けてくる彼女に、俺は自身の胸元に手を当てながら言葉を濁した。俺の覚醒はあの光の塊のおかげで、多分だいぶ特殊だ。

 普通のハンターは、覚醒直後から絶大な力を振るえるわけじゃ無い。

 詳しい原理は解明されていないが、ハンターの最大魔力量は魔物の討伐を重ねることで増えていき、それによって各種の能力値を向上していく。

 この最大魔力量をレベルともいい、支援局などで測定可能だ。俺は諸事情でまだちゃんと測れてないけど……


 さておき、俺は多分、覚醒直後から高レベルの状態だったんだと思う。でなければきゃ、覚醒後数日であんな無茶なダンジョン攻略が出来るわけがない。

 最初は少しズルをしているような気持ちになったけど、今は十年間G級で踏ん張ってきたご褒美と捉えている。


「ねぇねぇ! その時の動画って、支援局の公式チャンネルで見れるんだよね!?」


「ああ、多分アーカイブが残ってると思うよ。えーっと……」


 俺は自分のスマホを取り出し、動画を探し始めた。

 そういえば、ここ数日はダンジョン攻略や装備開発に夢中であまり配信サイトを見ていなかった。


「お、これだ。ん……? ひゃ、百万再生……!?」


 俺のC級昇級試験の動画は、再生数がえらいことになっていた。

 確かに視聴者は多かった気がするけど、まさかここまで伸びていたとは……


「おぉ、さっすが師匠! こっちでもバズってたんだね! あ、ほらほら、切り抜きも結構あるみたい! 一緒に見ようよ!」


 トモミンの言う通り、おすすめに切り抜きや考察動画まで出てきていた。

 サムネに「C級昇級の日本記録保持者! 謎のルーキー狩山(かりやま)の正体に迫る」とか書いてあるし…… 俺はただの狩猟好きの中年だよ。


 ちなみに、ハンターは登録時に本名とは別にハンターネームを設定可能だ。

 俺はいいのが思いつかなかったので、そのまま『狩山(かりやま)』を登録したけど、こんな事ならちゃんと考えて設定しておけば良かった……

 二人で切り抜き動画を見終わると、トモミンは目を輝かせて歓声を上げた。


「す、すごーい!! 師匠、めちゃくちゃ強いじゃん! 僕の友達に上級ハンターの子がいるんだけど、その子と同じくらいかも……!」


「はは、そいつは光栄だな。 --ん? そんな伝手があるなら、その子に師匠をお願いすれば良かったんじゃ……?」


「あ…… えっと、その…… ほ、ほら、その子ちょっと等級が高すぎるし、凄く忙しい子なんだよ!

 あの山にも着いてきてくれる予定だったんだけど、緊急依頼が入ったとかで駄目になっちゃったし……」


 トモミンは何故か少し目を泳がせながらそう答えた。そういえば一人で山にいた事情を聞いた時、そんな事言ってたっけ。


「なるほど。その点俺は同じくF級スタートだし、何より暇そうだもんな。確かに頼みやすいか」


「そ、そうは言ってないよ! もう、師匠の意地悪!」


「ははっ。さて、それじゃあそろそろ修行でもするか? ちょうどトモミンがいい修行場をくれた事だし。あ、でもあの山、まだ管理局の連中が調査してるんだっけか……?」


「修行は勿論つけて貰いたいけど、その前に荷物を置きたいから空いてるお部屋に案内して欲しいな。このお家結構大きいから一部屋くらいあるでしょ?」


「--へ? なんで……?」


 意味が分からなくて問い返すと、トモミンはそんな俺に不思議そうに答えた。


「なんでって、弟子って師匠の家に住み込みで教えてもらうものでしょ? あ、ちゃんとお家賃とか食費は入れるよ。家事は…… 料理以外ならできるよ!」


 す、住み込むつもりだったのか……!? なんて古風な。それであんなにでかい荷物を…… って違う!


「いや、駄目だろ! 独身男性の家に、君みたいな子が泊まるなんて……! 今の状況だって結構ギリギリなのに!」


 彼女が会ったっていうご近所さんが俺を通報してないか非常に心配になってきた。


「えー、なんでー? 師匠は僕に変な事しないでしょ? あ、それとも実は僕の魅力にメロメロだったり? んふふー」


 ニヤニヤしながらしなを作るトモミン。くっ、可愛いのが腹立たしい。


「い、いや、勿論そんな事するつもりはないけど…… ご両親に一体どう説明するんだよ」


「あー…… 僕の両親、小さい頃に死んじゃって居ないから……」


「……! すまない、辛い事を思い出させてしまった」


「ううん。大丈夫、もう結構昔のことだから」


「そうか……」


 途端に重たい沈黙が降りる。今のトモミンの表情は、普段の彼女とはかけ離れたとても寂しげなものだった。

 多くの友人に囲まれ、百万人のチャンネル登録者を誇る人気配信者とは思えないような……


「--確かに、指導する上で近くに居た方が色々と効率的だ。この辺りにちょうどいいアパートとかホテルなんてないしな…… 分かった。弟子の下宿を許可しよう」


「ほんと!? やったー!!」


 放って置けなくなって思わずOKを出した途端、彼女はまた太陽のような笑顔を見せてくれた。

 うん。世間体やら法律やら不安な事が多すぎるけど、この笑顔に比べたら小さな事に思えてきたぞ。


「ああ。けど、家賃も食費もいらないよ。これ以上弟子に貢がれたら師匠の沽券に関わるからな」


「えー、遠慮しなくていいのにー。じゃあほらほら、早く案内して! 僕、日当たりのいいお部屋がいいなー!」


「そう急かさないでくれ。部屋は逃げやしないんだから」


 でかいリュックを背負って急かすトモミンに、俺は苦笑気味に笑って腰を上げた。


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