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逃げ癖ハンターは立ち向かう 〜狩人の大精霊に憑依された底辺ハンターは魔物に溢れた現代で無双する〜  作者: 藤枝止木
1章 ハンター、大精霊に気に入られる

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第7話 ハンター、すんごいお礼を貰う


 ピンポーン。


 C級に昇級した翌々日、自宅で昼食を作っていると玄関のチャイムが鳴った。


「あれ、何か荷物とか頼んでたっけかな……? はーい!」


 この家に知人が訪ねてくる事は滅多に無い。宅配便か何かの勧誘かだろう。

 俺はエプロンを付けたまま玄関に向かい、ガラリと扉を開けた。


「やっほー! こんにちは、師匠!」


 するとそこには、弾けるような笑顔のトモミンが立っていた。

 あの山で目にした高性能ゴスロリメイド装備に、今日は馬鹿でかいリュックを背負ってる。


「トモミンさん! 退院したんだな、おめでとう。 --あれ。俺、君にここの場所教えてたっけ?」


 彼女の元気そうな姿にホッとしつつ、同時に湧き上がった疑問に首を傾げる。

 大体この辺に住んでる、みたいな話はした気がするけど、正確な住所は教えてなかったはずだ。


「えへへー、びっくりした? 驚かせようと思って、ご近所さんに師匠のお家を聞いて回ったんだ! みんな親切に教えてくれたよ?

 あ、あとさんはいらないって言ったでしょ? もう、すぐに忘れちゃんだからー」


 彼女は全くもー、という感じにほっぺを膨らませた。非常に可愛らしいのだけれど、それよりも先に聞くべき事がある。


「あ、ああ。ごめん、そうだったな。ところでトモミン。君、やっぱりその格好でご近所さんに聞いて回ったんだよな……?」


「へ? うん、もちろん。みんな可愛い可愛いって褒めてくれたよ! でも師匠に会いに行くって言ったら、困った事があったら何でも相談して、とか言われたんだよね…… 何でだろ?」


 彼女の答えに、俺は天を仰いだ。

 元々近所付き合いなんて皆無だったけど、これで俺は、ゴスロリメイド姿の女の子を自宅に呼びつける男として認識されてしまったわけだ。

 俺はこれから、一体どんな顔をしてこの辺を歩けばいいんだろう……


「は、はは。何でだろうなぁ……」


 乾いた笑い声をあげる俺に彼女は首を傾げ、続いて何かに気づいたように鼻をひくつかせた。


「すんすん…… この匂い、もしかしてカレー作ってるの……!?」


「ああ、もうすぐ出来るんだ。 --その、よければトモミンも食べるか? ちょっと変わったジビエカレーだけど」


「え、いいの!? 食べる食べる! あ、でも僕、カレーにはちょっとうるさいよー? 何たって本場のインドにまで食べに行ったからね!」


「ああ。それ、切り抜きで見た事あるよ。俺は衛生には気を使ってるから、あの動画みたいに三日間腹を下すって事は無いはずだよ」


「あー! それは忘れて! くっそー、やっぱあの下り、全カットしておけば良かったー……!」


 俺は荒ぶるトモミンを居間に座らせると、台所で二人分のカレーライスを食器によそった。

 奇跡的に予備の食器が存在していて良かった。よく考えたら、居間に人を通すのもかなり久しぶりだ。

 居間のテーブルの上にカレーライスを置くと、彼女はよだれを垂らしそうな勢いでそれを凝視した。待ち切れないらしい。


「じゃあ積もる話はあるだろうけど、まずは食べようか」


「食べよ食べよー! いっただっきまーす!」


 トモミンの元気な声と共にスプーンを握り、ご飯とルー、そして大きめに切った肉を一纏めにして口へ運ぶ。

 すると複雑なカレーの風味が鼻を抜け、それに負けない強烈な肉の旨みが口の中に広がった。そこへご飯と野菜の甘みが合わさり……

 絶品と言っても過言ではない出来に、俺は頬を歪めた。


「うん、中々の仕上がりだ……! トモミン、これならカレー好きな君の口にも--」


「はふ、はふっ! もぐもぐ……!」


 一口食べてトモミンの方へ視線を移すと、彼女は一心不乱にカレーをかき込んでいた。

 不思議と行儀の悪い感じはしないけど、目を見開いて高速でスプーンを動かす様はちょっと怖い。


「よ、良かった。口に合ったみたいだな。たっぷり作ってあるからいっぱい食べな」


 覚醒者はとにかくよく食べる。俺とトモミンは何度もおかわりして、十食分はあったカレーを綺麗に食べ切ってしまった。


「はー、満腹満腹。すんごい美味しかった…… 特にお肉! ほろほろで、プルプルで、旨みたっぷりで……

 ねぇ師匠。ちょっと変わったジビエって言ってたけど、あれって鹿、猪?」


 満足そうにお腹をさすりながら聞いてくる彼女に、俺は少し目を泳がせながら答えた。


「あー…… まぁ、熊だよ。熊のスジ肉」


「熊かぁー……! 僕、熊って初めて食べたけどこんなに美味しいんだね! あ、もちろんシェフの腕が良かったからだと思うけど!」


「ははは…… お褒めに預かり光栄ですよ、お客様」


 カレーに使ったのは、もちろんあの熊野郎のスジ肉だ。

 そのままだと固すぎるので、一度軽く下茹でして灰汁(あく)を除き、酒や香草と一緒に圧力鍋でしっかり煮込んだ。おかげで臭みもなく、超絶柔らかな仕上がりになった。

 本当に熊野郎の肉はどの部位も美味しい。しかし彼女にとってはトラウマだろうし、出どころは教えない方がいいだろうな……


「それで、今日は早速ハンターの修行にでも来てくれたのか? 一応、ざっくり修行メニュー的なものは考えてあるけど……」


「あー、それもあるんだけど…… うん、まずはあれを渡しておこうかな。えーっと…… あ、あった! はい、これあげる!」


 トモミンが馬鹿でかいリュックから取り出したのは、A4サイズの分厚い封筒とジェラルミンケースだった。


「えっと、これは……?」


「ふっふっふっ…… まずは封筒の方を開けてみて!」


 不適な笑みを浮かべるトモミン。なんだか怖いなと思いながら封筒を開けると、中には書類がたくさん入っていた。


「え……?」


 そしてその書類に書かれている内容を見て、俺は呆けたような声を出していた。

 そこには、熊野郎と遭遇した山の権利証と、その山の贈与契約書などが入っていた。

 権利証の名義はトモミン。契約書の贈与する側にも彼女の名前が記載され、贈られる側は空欄になっている。


「ちょ、ちょっと待ってくれ…… まさかこれ、あの山の権利をトモミンが持ってて、それを俺に贈与してくれるってことか……!?」


 震える声で尋ねると、彼女はあの太陽のような笑顔でにっこりと笑った。


「うん、そのとーり! 師匠と一緒にあの山を降りた時、あそこを気に入ってるって言ってたでしょ?

 調べてみたら私有地だったから、地権者さんにお願いして譲って貰ったんだー! どう? 僕のすんごいお礼! 嬉しい? ねぇねぇ!」


 そ、そういえば、彼女を背負って山を降りる時にそんな話をした気もする。けど、だからって山一つをポンとくれるだなんて……

 流石は登録者数百万人越えの有名配信者。スケールも行動力もぶっ飛んでる。でも、そうか。あの山が名実ともに俺の庭になるのか……!


「う、嬉しい。めちゃくちゃ嬉しいよ……! でも、凄すぎてまだ実感が湧かないというか……」


「あはっ、良かった! あ、手続きとかは、友達の司法書士さんを紹介するから相談してみてね。山を買う時にも手伝って貰ったから、事情は全部知ってるよ!

 あとそっちのケースには、指導料の先払いって事で多めにお金を詰めておいたよ! 贈与税っていうの? そーゆーの結構かかるらしいから、それに使ってね!」


「あ、あらまぁ。何から何まで…… --トモミンさん、ありがとうございます」


 彼女への感謝の気持ちから、俺は思わず敬語になりながら深々と頭を下げた。


「もー、またさん付けしてる! まぁ、喜んでもらえて良かったよ! うんうん!

 --で、ここまでが諸々のお礼で、ここからはちょっと、その、謝らなくちゃいけない事があって……」


 途端に申し訳なさそうな表情を見せる彼女に、俺は首を傾げた。そういえば、入院中に電話した時もこんな様子だった気がする。


「謝るって、トモミンが俺に? 何か謝られるような事されたっけ……? まぁここまでして貰ったら、大抵の事は笑って許す自信があるけど」


「あはは…… えっと、まずはこれを見て欲しいんだけど……」


 彼女はスマホを取り出すと、配信サイトに上がっていたある動画を再生した。


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