第6話 ハンター、ダンジョン攻略RTAに挑む
ズァッ……
名状し難い音と共に視界が切り替わると、俺は延々とつづく薄暗い洞穴のような場所に立っていた。
なるほど。名前通りでかい兎の巣穴みたいだ。初めて入るダンジョンなので隈なく探索して見たいところだけど……
「でも我慢だな。ここで時間を食ってたら、間に合わなくなるかもしれないし」
熊野郎の素材から作ったのは防具だけじゃない。俺は奴の牙から作り出した大振りのナイフを抜き放つと、ドローンカメラが追従できる限界の速度で走り始めた。
するとドローンから斉藤さんの焦った声が響く。
『ちょ、ちょっと狩山君! もうちょっと慎重に--』
「「キュキュッ!」」
彼女忠告に合わせたかのように、分かれ道の影から二体のアルミラージが飛び出した。
俺はそいつらの突進をするりと躱し、すれ違いざまに烟るような速度でナイフを振るった。
ザザンッ!
ほぼ抵抗なく両断された魔物達が背後に落下し、斉藤さんが惚けたような声で呟く。
『あ、あら。全然大丈夫そうね……』
「ええ、このまま最下層まで一気に行きます!」
昇級試験の内容は単純明快。所定のダンジョンを最深部まで下り、ダンジョン核を守るボスを倒して無事地上に帰還できたら合格だ。
俺は出現する魔物を蹴散らしながら、スマートグラスのマップを頼りにボス部屋への最短経路を駆けて行った。
そして最下層で待ち受けていたボス、馬鹿でかいラージラルミラージを一刀の元に屠ると、すぐに来た道を走り戻った。
時間にして僅か数十分。俺は全十階層から成るE級ダンジョンを攻略し、地上へ帰還した。
『おめでとう狩山君! E級への昇級試験、文句なしの合格よ! というかちょっと早すぎよ。最速記録を更新したんじゃないかしら……!』
「ありがとうございます! お……?」
試験を終えてほっと息を吐いていると、スマートグラスのレンズにポツポツと文字列が表示され始めた。
”たまたま目に入ったから最後まで見ちゃったけど、この人本当にF級か?”
”ダウト、絶対上級ハンター。早すぎて見えなかったけど、俺の目は誤魔化せねぇ”
”見えてなくて草”
”うさちゃん達可哀想……”
”おい兄ちゃん、そのイカした装備何処の工房のや? わいも欲しいねんけど”
どうやら公式チャンネルの視聴者がコメントしてくれているようだ。
さらに試験開始時はゼロだったのに、いつの間に視聴者は百人ほどに増えていた。
いつもは配信を見る側なので、こんなに多くの人達から視聴されている状況に若干戸惑ってしまう。
「あー、コメントありがとう。この装備は自作だ。その、褒めてもらえて嬉しい」
ぎこちなく応えると、コメント欄がさらにざわつき始めた。そういえば自分の装備を自作するハンターってあんまり聞かないな。
『ふふっ。狩山君、装備屋さんでもやっていけそうね。さて、それじゃあ支援局に戻ってきてくれる? 早速E級の認識票を渡しちゃうから』
「あ、それなんですが、少し相談があります」
『あら、何かしら?』
「このままD級の昇級試験を受ける事って、出来ますかね……?」
斉藤に特別に受験許可をもらい、俺はE級ダンジョンをクリアしたその足で近場のD級ダンジョンへ向かった。
そこの通称は『獣戦士の荒野』。ダンジョン内は広大な荒野になっていて、ウォーゴブリンやハイオークといった亜人型の魔物が絶えず襲ってくる世紀末な世界だ。
俺はそこでも魔物を蹴散らしながら最深部まで走った。ボスは俊敏さが厄介なワータイガーの強化種だったが、俺は一瞬でボスを補足してその喉を裂き、全二十階層を数十分でクリアした。
この辺りで視聴者の数は千人を超え、コメントの流れもかなり早くなっていた。配信、結構楽しいかも……
「あの、斉藤さん。このまま次の試験を受ける事って……」
『こ、今度はC級ね…… わかったわ。もうこのまま行ってしまいなさい!』
斉藤さんから快く許可をもらい、次に向かったのはC級の中でも高難易度なダンジョン、通称『鉄巨人の迷宮』だった。
昇級試験なんだから最低限の難度にしておけばいいのに、視聴者にちょっと良い所を見せたい気持ちが出てしまった形だ。
広大な迷宮であるこのダンジョンでは、ストーンゴーレムやアイアンゴーレムといったパワー系の魔物が迷宮内を彷徨いている。
そいつらに加え、イビルアイという目玉に羽が生えたような異形の魔物も出現する。こいつは、高速で飛び回りながら氷矢の魔法を高速で連射してくる厄介な奴だ。
逃げ場の少ない迷宮でパワータイプとスピードタイプが連携してくるので、このダンジョンではハンターの死亡率も結構高いらしい……
が、俺はそんなダンジョンをナイフ一本で最下層まで進んだ。
そして迷宮を抜け、ボス部屋手前の大広間に出ると、そこには百体を超える魔物の大群が待ち構えていた。
「「ゴァァァァァッ!!」」
「これは……!?」
”やばい……! モンスターハウスだ!”
”あ゛ー! すぐそこがボス部屋だってのに!”
”こいつ調子に乗ってるからそろそろ痛い目見ると思ってたわ”
”狩山氏、一旦撤退しろ! あの数はあんたでも無理だろ!”
いつの間にか数千に膨れ上がった視聴者から、いろんなコメントが連投されてくる。
モンスターハウスは、魔物達がダンジョン内を徘徊する経路が幾重にも重なり、一箇所に滞留してしまう事で生じる現象だ。
当然そんな所に飛び込むのは自殺行為だ。来た道を戻ろうと背後を振り向くと、運悪くそこからも魔物の群れが向かって来ていた。
「後ろもダメか……!」
”まずいぞ…… 退路が!”
”やっぱり、このダンジョンをソロ攻略するなんて無理ゲーだったか……”
”頼む、死なないでくれ! 俺はあんたが配信デビューした時からファンなんだ!”
”いや、この人の配信デビュー今日じゃん……”
”あれ。でも俺、この人どっかで見たことあるんだよな……”
『狩山君! なんとか防御に徹して粘って! すぐに救助を送るわ! ごめんなさい、私が止めていれば……!』
コメントが加速し、斉藤さんの焦った声が響き、地響きをあげて全方位から魔物の群れが迫る。
そんな中、俺は静かに口を開いた
「みんな、斉藤さん。大丈夫だ、こういう状況も想定してある」
俺は皮のマントを跳ね上げると、こんな時のためになんとか習得した対軍攻撃魔法を発動した。
『千刃乱舞!』
フォン……
俺のマントの内側には数十本ものダガーナイフが仕込んである。
それらは一人でにマントから離れ、俺の周囲に滞空した後、魔物の群れに向かって一斉に射出された。
ギュバッ…… ガガガガガガッ!!
「「ギャァァァァァッ!?」」
音速を超える速度で飛来したダガーの群れが、アイアンゴーレムの分厚い金属装甲を打ち抜き、高速飛翔するイビルアイを正確に撃ち落としていく。
ガトリング砲で歩兵を薙ぎ倒すような蹂躙はほんの数秒で終わり、周囲には百を超える屍が転がった。
「ふぅ…… よし、あとはボスだけだな」
ほっと息を吐いてボス部屋に向かうと、数秒止まっていたコメント欄が再び高速で流れ始めた
”いやいや! ふぅ…… じゃないんだが!?”
”やばw ファンネルじゃん”
”なんだ今の……!? 多分地魔法系のスキルなんだろうが、手数と火力、それに精度が異常だ……!”
”おかしい。ナイフ一本でここまで来たから絶対に前衛型なのに、魔法の威力まで規格外なんて変だろ”
”おい狩山! お前なんかチート使ってるだろ!?”
『狩山君…… 乗り切ってくれて本当に良かったけど、私、今日一日で結構寿命が縮んだ気がするわ……』
憔悴した様子の斉藤さんの声に、俺はドローンカメラに小さく頭を下げた。
「す、すみません。あとちょっとなので、もう少しだけ付き合って下さい」
広間の先にある巨大な鉄扉を押し開いいて中に入ると、そこは大きな円形の空間だった。そしてその中央に、巨大な鉄の象が鎮座していた。
さらにその奥の壁には巨大な魔石。あれがこのダンジョンの核で、破壊するとここは数日と経たずに崩壊する。
ちなみに、ここのように管理されたダンジョンの核を破壊するのは重罪なので、絶対に触れてはいけない。
「さて……」
俺が一歩進み出ると、突然鉄像の両目に光が灯り、軋みを上げながら立ち上がった。
「グォォォォォッ!」
”うぉ、相変わらずデケェw”
”こいつがデカすぎるせいで、このダンジョンの固定資産税は馬鹿高いんだぜ。これ豆知識な”
”とにかくかてーんだよなぁ、こいつ。流石にナイフじゃどうにもならんと思うんだが……”
アイアンゴーレムの上位種、スチールゴーレム。鋼鉄を超える圧倒的防御力と、巨体に見合った驚異的な膂力を持つ、C級の魔物の中でもかなりの上位に位置する強敵だ。
「だからこそ、試し切りのし甲斐がある」
俺は熊野郎の素材から生み出した最後の装備、腰に差した日本刀を抜いた。
熊野郎の額に生えていた角は、奴の骨や牙に比べてもさらに頑丈で、鋭く硬い金属の内側に靱性に富んだ金属が詰まった構造になっていた。
その角の特性を活かして日本刀を生成した結果、寒気のするような凄みのある一振りに仕上がった。
その刀を大上段に構えると、俺の殺気に反応したスチールゴーレムが石畳を砕きながら突進を始めた。
ズンッ、ズンッ、ズンッ……!
”ちょっ…… ナイフじゃどうにもならんて言ったけど、刀でも無理だろ!”
”セオリー通りなら、比較的脆い関節から鈍器や魔法で破壊していくんだが……”
”この狩山氏がセオリー通りに動くのが想像できん”
騒がしいコメント欄から意識を外し、俺はゴーレムとの間合いを慎重測り--
「シッ!」
気合いと共に刀を一閃した。
その時、金属操作魔法により刀の刀身は何倍にも伸び、スチールゴーレムに切り込む直前に最大長となった。
そして奴の肩口に切り込んだ瞬間、刀身は高速で元の長さに縮小を始め、超硬度の胴体を袈裟斬りに引き切った。
ギィンッ!
刀を振り抜いた姿勢の俺の手前で、スチールゴーレムの突進が止まった。すると。
ピシッ…… ズズッ…… ズズゥン……!
奴の胴体に切れ目が走り、斜めに分断された鋼の巨人は地響きをあげて地面に崩れ落ちた。
「--よし……! 斉藤さん、終わりました! 今から支援局に戻ります! みんなも応援ありがとう!」
会心の一撃に、俺は珍しく満面の笑みでドローンカメラを振り返った。
『…………』
”…………”
”…………”
”…………”
「あ、あれ…… おーい、聞こえてます……? 通信が途切れちまったのかな……」
みんなは暫くして驚愕から回復した。俺は全員から質問攻めにされながら地上へと帰還し、無事にC級ハンターへの昇級を果たした。
同時にC級昇級の日本最速記録を更新したらしいけど、俺はその喜びよりも、安堵の気持ちを強く感じていた。
なぜならば、ベテランと呼ばれるC級なら、トモミンさんの師匠を務める上でも恥ずかしくないからだ。
流石に初心者のF級とかで師匠面する訳にはいかないから、彼女の退院までに昇級が間に合って本当に良かった……
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