第46話 ハンター、再び偉い人と会う
その後俺達は、レイ氏のパーティーと一緒に市街地を走り回った。
途中からダンジョン災害対策局所属のハンター部隊も出動し、魔物はどんどん数を減らしていった。
しばらくして事態は無事沈静化し、俺達はひとまずスカイツリーの根元にある広場へと戻った。周囲には対策局の部隊と、彼らが避難させた人々もいる。
「全く。これから甲武信ヶ岳のダンジョンに向かうところでしたのに、とんだ邪魔が入りましたわぁ」
レイ氏がぶつぶつと文句を言う。それで街中なのにフル装備だったのか。
「今日はもう、みんなとホテルにしけ込んでしまいましょうかしら…… トモミン、ノルフィナ。あなた達も一緒にどう?」
自身のパーティーメンバー達を抱き寄せながら、レイ氏がトモミン達に熱っぽい視線を送ってくる。
やっぱりすげーなこの人。美女を抱き寄せながら、他の美女を口説いてるよ……
「あはは、それはやめとくね! 僕ら休暇の途中だし! ノルフィナちゃん。まだスカイツリー見終わってないよね? 師匠と一緒にもっかい登る?」
「えっと…… いえ、大丈夫です。十分楽しませてもらいましたから、トモミンと交代しますね。あ。でもこの騒ぎだと、今日はもう営業終了かもしれませんね……
シロと一緒にドッグランという所にも行ってみたかったんですが、それも難しそうです」
「ワフッ!? クゥーン……」
ノルフィナの言葉に、シロがガックリと項垂れる。俺は彼の頭をわしゃわしゃと撫でた。
「残念だったな…… しかし、確かにこの状況じゃあ観光どころじゃないだろう。近くの支援局に寄って、少し情報を…… ん?」
今後についてみんなで話していると、対策局の隊員が一人、こちらに近づいてきた。
頭から足元までを覆う黒っぽい戦闘服に、銃器型の魔杖を装備している。特殊部隊感があって、結構威圧的な見た目だ。
彼は俺たちの前で立ち止まると、ヘルメットを脱いで敬礼した。
「ご苦労様です。自分はダンジョン災害対策局所属のハンターで、宮内と申します。今回は魔物の駆除にご協力頂き、誠にありがとうございました」
ヘルメットの下から現れたのは、坊主頭の精悍な男性だった。
この顔と名前、ダンジョン庁の公式チャンネルで見たことがある。強力な火魔法を操る、対策局所属のS級ハンターだ。
さっきの戦闘でも、他の隊員が仕留めたストーンボムの自爆を、火魔法による干渉で完全に抑え込んでいた。
「S級ハンターのレイですわぁ。本当に感謝してほしいですわよ。まさかタダ働きじゃないですわよねぇ?」
「レイさん…… あー、同じくS級ハンターのカリヤマです。そちらこそ、お勤めご苦労様でした。しかし、一体なぜこんな街中に魔物が……?」
そう答える俺達に、宮内さんは首を横に振る。
「原因については現在調査中でして、この場ではなんとも…… ただ本件に関しては、民間のハンターの方々にも協力を仰ぐよう上から指示があった所であります。
ご高名なお二人には是非お力をお借りしたく、まずはお話だけでも聞いて頂けないでしょうか。都民の安全のため、どうか」
宮内さんがキビキビとした動作で頭を下げる。しかしその表情からは、当然協力するよな? という圧力が感じられた。
みんなの方を振り返ると、全員が賛同するように頷いていた。
「了解しました。この状況を解決しないと、観光どころじゃありませんし」
「東京には可愛らしい女の子が沢山いますし、彼女達を守るためにわたくしも一肌脱ぎますわぁ。それで、お話とやらはどこで聞けるんですの?」
「--ご協力に感謝致します。では、こちらへご同行願います」
観光とか女の子のために快諾した俺達に、宮内さんはやや憮然とした表情で背を向けた。
そうして俺達が連れてこられたのは、霞ヶ関に建つダンジョン庁の庁舎だった。昨日ぶりの来庁である。
そのまま大きな会議室に案内されると、中にはすでに多くの人間が座っていた。
ダンジョン庁のトップである岩崎長官や官僚らしき人々、対策局のハンターに、民間の上級ハンターらしき連中もいる。
対策局のハンター達を除いて、昨日の受章式で見た顔が殆どだ。そのせいか、シロを連れた俺達への驚きの声は少ない。
最後だったらしい俺達が席につくと、岩崎長官が席を立って会議室の中を見渡した。
ざわついていた室内が、彼の静かな存在感に静まり返る。
「皆様、ダンジョン庁長官の岩崎です。まずは先ほどの突如発生した魔物への対処にご協力頂き、誠に--」
「前置きはいいですから、本題を話して下さらない? 急いでいるのでしょう?」
長官の言葉をレイ氏が遮る。彼女、どうやらかなりせっかちらしい。宮内さんがレイ氏を睨むが、本人はどこ吹く風の様子だ。
「ははは、そうですね。では率直に。皆様には、先ほど隅田川沿岸で暴れ回った魔物について、その出所の調査などをお願いしたいのです」
ざわり。岩崎長官の言葉にハンター達がざわめく。協力するのはやぶさかではないが、調査か……
全員の疑問を代表するように、一人のハンターが手を上げた。
「あの魔物が湧いてきた未発見ダンジョンを探せって事だろうが…… 場所の目星くらいはついてんだよな? 捜索範囲が東京周辺全域とかだったら無理だぜ?」
「ええ、勿論。現段階では、件のダンジョンは甲武信ヶ岳の何処かにあると目されています。
実は、過去にも同様の事象が確認されているのです。周囲にダンジョンの無い都市部の河川から、いきなり魔物が現れるという事件が。
その事件の原因は、上流に発生した未発見ダンジョンでした。そこから湧き出した魔物が、川を下って都市部に流れ着いたのです」
長官の説明に、別のハンターが納得したように頷く。
「なるほど…… 隅田川を上流へ辿っていくと、S級を含む数多のダンジョンを抱える甲武信ヶ岳に辿り着きます。
あそこでは日々ダンジョンが発生していますから、何処かに未発見のものがあってもおかしくはないですね」
「はい、我々対策局も同様の見解です。しかし、魔物による再度の襲撃に備えるため、対策局のハンター達は都内に残しておく必要があります。
そこで皆様には、甲武信ヶ岳の河川流域における未発見ダンジョンの捜索と、必要に応じた討伐をお願いしたいのです。
あのレベルの魔物が溢れて来ている点から、件のダンジョンはすでにS級ダンジョンに育っている可能性もあります。
大変危険な依頼となりますが、都民の安全のため、どうかご助力頂きたく……」
長官が深々と頭を下げる。なるほど、甲武信ヶ岳か…… 俺はパーティーメンバーのみんなに問いかけた。
「どう思う? 俺は受けてもいいと思うが……」
「カリヤマさんも乗り気のようですし、私も賛成です! 魔物に故郷を脅かされるのは悲しいですから……」
「僕も賛成! あと師匠、ちょっと顔がニヤけてるよ? 甲武信ヶ岳のダンジョンに行けるのが楽しみなんでしょー?」
「ワフフン」
全員が見透かしたような笑みを浮かべながら俺を見る。そ、そんなに分かりやすかっただろうか……?
俺は誤魔化すように彼女達から顔を逸らすと、長官に向かって手を上げた。
「都民の安全のためです。その依頼、受けましょう」
俺に続き、レイ氏が声を上げる。
「うーん…… 依頼料はいかほどですの?」
「ハンター等級に応じた日当を出させて頂きます。S級の場合は…… どうかこの程度でご勘弁を」
長官が指で示したのは、S級ハンターへの依頼としても結構美味しい額だった。それを見てレイ氏がにんまりと笑う。
「うふふ、よろしくってよぉ。わたくし達も受けますわぁ」
彼女を皮切りに、その場にいた上級ハンター達も全員調査への参加を表明した。
「皆様…… ご協力、誠にありがとうございます」
岩崎長官はほっと息を吐くと、再び俺たちに向かって深く頭を下げた。
だが、なんだ……? 頭を下げる直前、彼の顔には、何かに耐えるような苦悩の表情が浮かんでいるように見えた。




