第45話 ハンター、大都市で暴れる(3)
ゴォォォォォォッ!
異様な、まるで石臼をめちゃくちゃに回しているかのような爆音。
その音に振り返ると、ストーンボムの大群が道路を転がり、俺たちに猛然と向かって来ていた。
「迎え撃つ! ノルフィナ!」
『過冷水流!』
ジャッ…… ビキキッ!
冷凍魔法一閃。ノルフィナが放った過冷却水流が、爆走する魔物達を一瞬で地面に縫い止めた。
『千刃乱舞!』
ガガガガガァンッ!
間髪入れずに俺が放ったダガー群が、動かぬ氷像となったストーンボムの群れを打ち砕いた。
よし、爆発しない。こいつらにも同じ戦法が通じるようだ。
「ふぅ…… あ……! 向こう側から別の群れです! トモミン!」
息を継ぐ間もなく、今度は歩道側から襲撃を受けた。
ラーヴァスライムの大群が、ポヨポヨと跳ねるように飛びかかってくる。
「あいよ、ノルフィナちゃん! 『七星連撃!』」
しかし、そいつらもすぐにノルフィナの魔法で凍りつき、トモミンの武技でまとめて打ち砕かれた。
一方シロは、俺たちが魔物を叩き潰す間、道路で多重事故を起こしている車に向かっていた。
彼はひしゃげた車のドアを噛みちぎると、車内に残っていた血だらけの女性を外へ引き摺り出した。
「ワンワン!」
「うっ…… あ、ありがとうございます。助かり-- え、犬? わぷっ……!?」
シロのベロが唸り、女性の傷はあっという間に回復した。
そのまま暫く戦闘と救助を継続していると、見える範囲の魔物と怪我人はすっかり片付いた。
しかし、まだ街の所々から悲鳴や爆音は聞こえてくる。一体どれだけ居るんだ……!?
「よし、ここはもう良いだろう! 次の場所へ--」
ドォォォッ……!
するとその時。視界の端、西側で巨大な炎の竜巻が打ち上がった。
「なんだ!?」
全員がその巨大な火柱に注目する。
しかしそれよりも気になるのは、その根本付近から感じる強烈な気配だ。
「し、師匠…… あの火柱の所。なんかすっごく強い奴がいない……!?」
「ああ……! この感じ…… 俺と同等の気配が少なくとも一つ。それより落ちるが、他にも強い気配が幾つもある……!」
「それって…… S級一体と、A級相当が数体ってことですか……!?」
「グルルッ……!」
みんなの表情が強張る。さてどうするか……
周辺一帯の音と気配を探ると、俺達同様、魔物討伐に動いてくれているハンターが何組かいるようだった。
しかし、あの強烈な気配の主に対抗できそうなのは、俺達くらいのようだった。
「仕方ない……! 次はあの火柱の所に向かおう!」
炎の竜巻が上がった場所に急行すると、そこは隅田川に隣接した大きな公園だった。
そしてそこでは、見覚えのある騎士達と巨大な魔物が対峙していた。
「レイちゃん!?」
トモミンの声に振り返ったのは、赤髪の女騎士。昨夜別れたばかりのレイ氏だった。
良かった。俺が感じたS級の気配は彼女だったようだ。
「あら、トモミンにノルフィナ! 早速再会できるなんて、もうこれは運命ですわね!」
今日のレイ氏は見事な白銀の鎧を装備し、手には真っ赤な刀身のレイピアを握っていた。
その周囲に布陣している騎士達は、彼女のパーティーメンバーだろう。全員が見目麗しい女性だ。
「あ、あはは。どうも……」
嬉しそうなレイ氏に対し、ノルフィナが俺の後ろに隠れながら笑う。
しかし、レイ氏には俺とシロは見えていないようだ。俺と彼は思わず顔を見合わせた。
「俺達もいるのにな?」
「クゥーン……」
「あら、ごめん遊ばせ。お二人も昨日ぶりですわね。ちょっとお待ちくださいまし。今、こいつを片付けてしまいますから」
レイ氏はそう言って魔物に向き直り、レイピアを掲げた。
彼女達が対峙しているのは赤黒い巨大な球体。強力なA級の魔物である、キング・ラーヴァスライムだ。
ドズンッ、ドズンッ……!
こちらを威嚇しているのか、数トンはありそうな巨体で跳ねている。
この魔物はラーヴァスライムが幾つも合体した群体型で、さっきの巨大な火柱はこいつの仕業だろう。
こんなやつまで出て来るなんて、本当にどうなってるんだ……!? いや、今はそれよりもレイ氏を止めないと……!
「レイさん、待ってくれ! そいつは冷却してからでないと--」
『咲き誇る千の薔薇』
しかし俺の制止は届かず、レイ氏の姿が幾重にもぶれた。
「……!」
S級に至った俺の動体視力が、辛うじてその動きを捉えた。
驚くほど流麗で、背筋が凍るほどの威力が込められた刺突。それが、瞬きにも満たない間に千回放たれた。
その度にレイピアの赤い刀身が煌めき、その残像が薔薇の花のような形を描く。
バァンッ!!
レイ氏の刺突が止んだ瞬間、幾度も音速を超えた事を証明するように、強烈な破裂音が響いた。
彼女の絶技を受けたキング・ラーヴァスライムの巨体は、全身穴だらけで蜂の巣のような有様だった。
思わず見惚れてしまうような絶技だったが、こいつに対しては悪手だ。
あの巨体が爆発したら、恐らくこの辺一体は跡形もなく吹っ飛ぶ……!
「みんな下がれ!」
そう叫び、影の手で防壁を展開する直前、様子がおかしいことに気づいた。
魔力を漲らせて大爆発を引き起こすはずの巨体が、力無く萎んでいき、空気に溶けるように消えていくのだ。
「仕留めた、のか……? 冷却せずに、爆発も起こさせずに……!?
ま、まさか…… あの一瞬で、全ての魔石を破壊したのか!?」
群体魔物であるキング・ラーヴァスライムは、複数の魔石を持つ特殊な魔物だ。
奴を爆発させずに倒すには、完全に凍らせるか、奴を構成するラーヴァスライムの魔石を全て破壊するしかない。一つ残らず、全てだ。
あの巨体なら、魔石の数は十や百じゃきかないだろう。彼女は一瞬でそれらを探り当て、刹那の間に全てピンポイントで刺し貫いたのだ。
レベルだけじゃなく、観察眼、技量、胆力…… 全てが極まっている。流石は『姫百合の騎士』の二つ名を持つS級ハンターだ。
そのレイ氏は、魔物の巨体が完全に消失すると、やや憮然とした表情で俺の方を振り返った。
「カリヤマさん。忠告は有り難いですけれど…… わたくし、あなたより長くS級を務めておりましてよ?」
「あ、ああ…… すまなかった。先達の絶技、勉強させて頂いた」
「ひぇ〜…… レイちゃん、すっごー……!」
「ふふん。分かればいいんですのよ」
感嘆の声を上げる俺達に、彼女は少し得意げに笑ってレイピアを納刀した。
「レイ様、素敵でした!」
「流石です! レイ様!」
するとレイ氏のパーティーメンバー達が、黄色い声を上げながら彼女に駆け寄った。
「うふふ、あなた方が後ろで支えてくれたお陰でしてよ? さぁさぁいらっしゃい」
レイ氏は美女達を抱き寄せると、いい笑顔でその体を弄り始めた。
--うん…… 実力は間違いなくS級なんだよな。実力は……




