第41話 ハンター、表彰される
前章のあらすじ:
舞台はダンジョンと魔物が存在する現代日本。底辺のG級ハンターである狩山は、近所の山で出会ったゴスロリメイドのトモミンを助ける際、強力な魔物と相打ちになってしまう。しかし狩山は死ななかった。狩人の大精霊が彼に憑依し、S級相当の力と、喰らった魔物の力を取り込むスキルを与えたのだ。覚醒した狩山は、押しかけ弟子のトモミンを受け入れ、異世界から迷い込んだエルフのノルフィナと狼のシロを仲間に加え、順調にハンターランクを上げていった。そんな中、日本全土で同時多発的ダンジョン暴走が発生。一行はその沈静化に尽力したが、直後、近所の山から黒い狼の大群が溢れ出した。ノルフィナ達の里を襲ったのと同じだという狼達をなんと退けると、山には異世界ユグドラシアへのゲートが出来ていた。ゲートを潜った先の異世界では、黒い狼達のボスであるカオスウルフにより、多くの人々が危機に瀕していた。狩山達はこの伝説の怪物の討伐を試みるが、人の恐怖を具現化させる異能に苦戦を強いられる。しかし、トモミンの言葉で敵の術を破る事に成功し、敵の影を封じる策を駆使して辛くも勝利。強大なカオスウルフの力を獲得し、日本へと帰還した。
カシャッ! カシャカシャッ!
報道陣のカメラがシャッター音を何度も響かせ、フラッシュが俺達を連続で照らし出す。
場所は霞ヶ関に建つダンジョン庁の庁舎、その中にある広いホールだ。
現在ここには、政府やマスコミ関係者、そして多くのハンター達が詰めかけている。
そして俺達は、この国の対ダンジョン行政を取り仕切るダンジョン庁のトップ、岩崎長官と対峙していた。
長官は三十代ほどに見える筋骨隆々の男性だが、実年齢は御年七十歳に迫るらしい。
今は引退しているが、世界狂変発生時から生き残っている最古のハンターの一人でもある。
そんな生ける伝説である彼が、傷だらけの手に賞状を持ち、静かな目で俺を見据える。
「カリヤマ殿。貴殿は先の同時多発ダンジョン暴走において、その鎮静化に尽力し、溢れ出た魔物から多くの人命と都市を護りました。
その功績を讃え、ここに護功中綬章を授与いたします」
「は、はい。ありがとうございます……!」
長官が差し出した賞状と勲章を、俺はぎこちない手つきで受け取った。
なんでこんなことになっているのかと言うと、先日の同時多発ダンジョン暴走で目立ち過ぎたからだ。
C級ダンジョンである『亜竜の大樹海』のダンジョン暴走を阻止した後、俺達は近場のいくつものダンジョンを回り、溢れ出た魔物の殲滅に奔走した。
それによって数千の人命が救われ、いくつかの都市が壊滅を免れたそうだ。
それが国家レベルでの功績と評価されたらしく、こうして臨時の授章式にお呼び頂いたと言うわけだ。俺達の他にも、今回活躍した何十人ものハンターが式に呼ばれている。
ちなみに俺が受章したのは、ハンターが個人として貰える物としては最上級の勲章らしい。
なんでも、他の自治体ではかなり死傷者が出る中、俺達が居た千葉では奇跡的に死者ゼロで抑え込めたそうだ。それが特に功績大と評価されたんだろう。加えて……
「続けて、今回のカリヤマ殿の功績は、ハンター等級に関する特例事項を十分に満たすものであります。よってカリヤマ殿は、特例によりC級からS級に昇級するものと致します」
「--は、光栄です」
長官が差し出したS級ハンターの認識票を、俺はほんの少し躊躇ってから受け取った。
今回初めて知ったのだけれど、こうして試験を経ずに大幅に昇級する道があったらしい。
S級ハンターになるのは俺の目標の一つだったので、こうして棚ぼた的に昇級してしまったことを、少しだけ残念に思う気持ちがある。
とはいえ評価して貰えるのは嬉しい。俺は長官に深々と頭を下げると、壇上から降りて自分の席に戻った。
「では次に…… トモミン殿」
「はいはーい!」
長官の声に、ショートカットでボーイッシュな美少女が、俺の隣の席から元気に立ち上がった。
凶悪なモーニングスターを操るパーティーの前衛。重装甲ゴスロリメイドのトモミンだ。もちろん今は公的な場なので、俺も彼女もスーツを着ている。
俺もあまり着慣れていないのだけれど、トモミンは小柄なせいで就活生っぽさが滲み出ている。
そんな彼女はスキップするような足取りで長官の前に立つと、とても嬉しそうに勲章と新しい認識票を受け取った。
今回彼女が受章したのは、俺が貰ったやつの一つ下の護功小綬章というもので、これも結構すごい勲章らしい。
加えて彼女にも特例が適用され、C級からB級に昇級した。パーティーの残りの二人も同様だ。
トモミンの目標はすんごいハンターになることだそうなので、彼女はまた一歩夢に近づいたことになる。
「いえーい! みてみてー、師匠!」
それが余程嬉しかったのだろう。彼女は壇上から俺に向かってブンブンと手を振ってきた。
「ちょっ……!? わ、わかったから……! 早く席に戻ってくれ……!」
冷や汗をかきながら小声で叫ぶと、彼女は「しまった!」という感じで口を抑え、そそくさと俺の隣に戻ってきた。
「ご、ごめん師匠…… 僕、つい嬉しくって……」
「ま、まぁ気にしないでくれ。俺の世間体なんてあって無いようなもんだし……」
しょんぼりするトモミンの頭に、俺はそっと手を置いた。
その瞬間、ほんの僅かな殺気が俺の首筋を刺した。
「……!?」
素早く背後を振り返るも、すでに殺気は霧散していた。
俺たちの席は最前列で、背後には受章待ちのハンターが何十人も座っている。
何人かが怪訝そうに俺に視線を向けてくるが、殺気の主は分からなかった。
気のせいだったのか……? いや、でも確かに…… 首を傾げながら前に向き直ると、長官が小さく咳払いをしてから次の受章者を呼んだ。
「こほん…… 次に、ノルフィナ殿」
「は、はい……!」
トモミンの隣の席から緊張気味に立ち上がったのは、黄金の長髪と、神々しいほどの美貌を湛えたエルフの少女。
風と水の強力な二重属性魔法を操るパーティーの後衛。メイド魔法少女のノルフィナだ。トモミン同様に今はスーツを着ていて、眼鏡も相まって知的でシゴデキな印象だ。
そんな彼女を、報道陣のカメラが待ってましたとばかりに激写する。
長官の前から俺たちの所に戻ってくると、彼女はすでに気力を使い果たしてしまった様子だった。
「おかえり! 頑張ったね、ノルフィナちゃん! 」
「ト、トモミン。ただいまです……! いきなりシャッター音が増えた気がして、緊張しちゃいました……」
「ふふっ、仕方ないさ。君ほどカメラ映えする被写体も居ないだろうからな」
「え゛っ……!? そ、それって……!?」
「あ、ほら。次が今日のメインイベントだぞ」
俺が壇上を指すと、長官がやや戸惑い気味に次の名前を呼んだ。
「では次に…… あー、シロ殿……?」
「ワン!」
その声に元気に壇上に上がったのは、真っ白な毛並みをもつベイビィフェイスの狼。
俺たちパーティーの身も心も癒してくれる天才ヒーラーのシロだ。
彼は長官から勲章を受け取ると、それを口に咥えて誇らしげにこちらを振り返った。
「ワフーン……!」
「「おぉ……!」」
カシャッ! カシャシャシャシャシャシャシャッ!
会場がどよめき、ノルフィナの時のさらに数倍のシャッター音が鳴り、周囲から拍手まで巻き起こった。
俺達は顔を見合わせると、小さく笑い合ってから彼に全力で拍手を贈った。




