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【1章終了】逃げ癖ハンターは立ち向かう 〜狩人の大精霊に憑依された底辺ハンターは魔物に溢れた現代で無双する〜  作者: 藤枝止木
1章 ハンター、大精霊に気に入られる

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第40話 ハンター、現代社会に帰還する


 カオスウルフ討伐から、早くも二週間が経過した。

 戦闘直後は虫の息だった俺とトモミンも完全に回復し、城塞都市ノルザルボルグも落ち着きを取り戻した。

 シャドウウルフの群れによって封鎖されていた港も動き始め、海から食料や資材などがどんどん入って来ているようだ。

 後者については、カオスウルフの魔石が奇跡的に無事だった事も大きい。


 兵士達の治療と遺族への補償、都市防壁の大規模補修、財産を失った領民への援助…… 元凶を始末したとはいえ、リースヒルド侯爵はこれから掛かる費用に頭を抱えていた。

 そこで俺は、何かの足しになればと、カオスウルフの魔石を侯爵に献上することにした。


「ま、まさかっ……!? これ程の宝を、無償で譲ってくれるというのか!? 感謝する……! 感謝するぞ、カリヤマ殿!

 貴殿の武勇と気高さ、そして限りなき慈悲……! 当家の子々孫々にまで語りつごうぞ!」


「あ、いや、そんな大袈裟な……」


 そんな感じで、侯爵は涙を流しながら何度も俺に礼を言ってくれた。

 S級の魔物の魔石はこの世界でも高い価値を持つらしい。奴の魔石は、奴による被害を十分補填しうるものだったようだ。

 せめてものお返しにと、彼女からは仰々しい名前の勲章に加え、翻訳魔道具まで頂いてしまった。大変な時だろうに、逆に申し訳ない。


 その後、侯爵の働きで避難民への食糧援助などが行き渡り、ノルフィナの故郷の人達もようやく里に帰れる目処がついた。

 俺達はノルザルボルグに別れを告げ、彼らをフヴィートの里まで送り届けた。

 そして今、護衛を終えて帰る俺達を見送ろうと、彼らは里の門の所に集まってくれていた。


「カリヤマ様、トモミンさん。何から何までありがとうございました……!

 娘やシロが無事だったのも、皆が無事に里に帰れたのも、財産を失った我々が冬を乗り切れるのも…… 全てあなた方のおかげです。

 本当に、なんとお礼を言ったらいいのか……!」


 里の人々を代表し、ノルフィナのお父さんは俺達に深々と頭を下げてくれた。


「いえ、そんなにお気になさらずに。仲間と、その家族の窮地を助けるのは当たり前のことですから」


「そーそー、ノルフィナちゃんは僕の友達! そのご家族やご近所さんだって、もちろん友達だからね!」


 トモミンの人類皆友達宣言に、里の人々がニコニコと笑う。

 実際、この二週間で、彼女はここにいる人達全員と友達になっていた。

 全員の名前どころか、性格、趣味、好きな食べ物や好きな人などまで把握しているらしい。

 さすがは友達のプロ。極まっている。


「カリヤマの兄ちゃんとトモミン、本当に帰っちゃうの……?」


 ノルフィナの弟、ヴァリルが寂しそうに俺達を見上げてくる。

 一緒に遊んだりもしたせいか、この二週間で無愛想な俺にも随分と懐いてくれた。


「すまないな、ヴァリル。向こうでやり残した、大切な仕事があるんだ」


 異世界ユグドラシアに留まるか、それとも地球に戻るか…… 正直に言うと、俺は少しだけ悩んだ。

 冒険者という職業が存在し、細かいルールに捉われずに魔物を狩れるこの世界は、俺にとっての楽園だ。

 けど、なんだかんだ地球には愛着があるし、何より弟子のトモミンをすっごいハンターに育てるという大仕事が残っている。

 それにこれは自惚れだろうが、俺が残ったらトモミンまで残りそうだ。それはトモ友の連中に悪い。

 チラリとトモミンの方を伺うと、彼女も何か感激した様子で俺を見ていた。


「師匠……! ヴァリル君、エルティちゃん。きっとまた遊びにくるから、待っててね!」


「グスッ…… でも、お姉ちゃんと、シロも行っちゃうんだよね……?」


 ノルフィナの妹、エルティちゃんは、お母さんの服を掴みながら号泣してしまっている。

 そう。ノルフィナとシロは、地球に戻る俺達に付いてきてくれる事になったのだ。

 元の世界に戻り、カオスウルフも討伐された今、二人が俺達についてくる理由はない。

 非常に別れ難いけど、二人はパーティーから抜けるものと思っていたんだが……

 ノルフィナに至っては、魔導士団に入るエリートコースが決まっていたのを、侯爵に頭を下げて辞めてきたという話だった。

 付いて来てくれる事自体はとてつもなく嬉しいが、同時に非常に申し訳なくもある。


「キューン……」


「ごめんね、エルティ。今度は、私がカリヤマさんとトモミンを助けたいの。 --カリヤマさんと離れたくないし……」


 シロが寂しげに鳴き、ノルフィナがエルティの頭を撫でる。後半は小声過ぎて聞こえなかったけど、彼女の言葉に俺まで目頭が熱くなった。

 そして、そんなノルフィナの様子を見た彼女のお母さんは、何か神妙な様子で俺を見た。


「カリヤマ様…… 魔術ばかりでろくに家事もできない娘ですが、どうかノルフィナをよろしくお願いいたします」


「はい、お任せください。ですがその…… ノルフィナさんは素晴らしい女性です。俺には勿体無い程に」


 --あ、間違えた。俺のパーティーにはと言うべきだったな。

 俺の言葉にお母さんは深々と頭を下げ、ノルフィナは何故か顔を真っ赤に染めていた。


「カ、カリヤマさん……! その、不束者(ふつつかもの)ですが、よろしくお願いします!」


「へ……? あ、ああ」


 あれ。何か取り返しのつかない事を言ってしまったような気がする。


「むー……」


 唸り声に目を向けると、トモミンが何か険しい表情でノルフィナを凝視していた。


「ひっ……!? あの、えと…… も、勿論トモミンの邪魔は--」


「まぁ、ノルフィナちゃんならいいかぁ……」


「え…… い、いいんですか!?」


「うん! だって強くて優しいし! 二人一緒ならいいよ! --でもその代わり、絶対に僕の前から居なくなったりしないでね……?」


「はっ、はいぃっ……!」


 --最後の方で一瞬妙な雰囲気がした気がするけど、とにかく話はまとまったらしい。


「それじゃあ発つ前に、この村の守り神だったシロの代役を立てておきましょうか」


「代役、ですか……?」


「ワフン?」


 俺の言葉に、ノルフィナのお父さんとシロが揃って首を傾げる。

 この村の主な防衛戦力はシロだったらしい。その彼を引き抜くからには代わりが必要だろう。


混沌の使い魔(カオスサーヴァント)…… (いで)よ、スチールベア』


 ゾバッ!


 俺の足元から影が噴き上がり、それが徐々に形を成し、巨大な黒いヒグマのような姿となった。


「グルルルルッ……」


 現れたのは、俺達とも因縁深い熊野郎だ。こっちの世界ではスチールベアと呼ばれているらしい。


「「ひぃっ……!?」」


 突然登場した巨獣に里の人々が悲鳴をあげる。やべ、先に何をするのか言っておくべきだった。

 この召喚魔法は、カオスウルフから得たスキルの一つである。

 奴の体を喰らうことはできなかったが、戦闘中に奴の血を飲んでいたおかげで獲得できたらしい。

 お世辞にも美味くはなかったので、二度とやりたくはないが……

 みんなが後ずさる中、ノルフィナのお父さんがおずおずと聞いてくる。


「こ、この巨大な魔物は…… 森の主ではないですか……!?」


「ええ、そうらしいですね。ですがご安心を。俺の使い魔のようなものなので、皆さんに危害は加えません。

 森の主と呼ばれる程の実力者なので、カオスウルフ級の化け物が来ない限りは大丈夫でしょう。

 スチールベア。そういうわけだから、里の門の外で警備に就いてくれ。ここの人達の言う事をよく聞くんだぞ?」


「グルッ」


 スチールベアは俺の言葉に頷くと、ズシンズシンと足音を立てながら里の外へと向かっていった。

 素直に従ったスチールベアに、里の人々が感嘆の声をあげる。これでここの守りも大丈夫だろう。


「では、そろそろ出発します。 --『黒門(ダークゲート)』」


 ズズズッ……


 俺の足元から再び影が立ち上がり、今度は直径2m程の黒い円環が形成された。

 円環の内側には見覚えのある山中の景色が映っている。そう、地球の鉄熊山(てつゆうざん)の風景だ。

 これもカオスウルフから獲得したもので、影から影へ、世界の隔たりをも超えて移動できる超絶便利スキルだ。

 ノルフィナによると、とんでもなく高度で強力な闇属性空間魔法らしい。

 その辺の複雑な魔法理論は分からないが、これで次の満月を待たずに地球に帰ることができる。


「じゃあみんな。来週にはまた顔を出すから、それまで元気で!」


「ワンワン!」


 『黒門(ダークゲート)』を潜るノルフィナとシロを、里の人達が歓声を上げて見送る。

 二人に続き、トモミンは歓声に両手をブンブン振り返しながらゲートに進んでいく。

 俺もその後に続いたのだけれど、彼女はゲートを潜る直前で足を止めてしまった。


「トモミン……? どうしたんだ?」


 声をかけると、彼女は一瞬の沈黙の後で振り向いた。

 上目遣いでこちらを見る顔がほんのり赤い。

 

「ね、ねぇ師匠。あの時…… 僕、師匠の質問に好きだって返したよね……? じゃあさ。し、師匠は…… 僕のこと、好き……?」


 その質問に俺は喉を詰まらせた。そんなの答えは決まっている。決まっているが……


「そ、その…… す…… (この)ま…… あー…… トモミンのことは、気に入ってる。凄く」


 なんとか絞り出せたのは、あまりにも情けない答えだった。

 そんな俺を、トモミンは超絶不満顔で睨み返す。


「--もー、何それ! 師匠のいけず! --まー、今はそれでもいっかぁ…… そんじゃあ帰ろ! 僕らの家に!」


「……! ああ、帰ろう!」


 太陽のような笑みを浮かべ、トモミンが俺の手を引く。

 歓声を背にゲートを潜り、世界を渡り、俺は地球へと帰還した。


1章終了です。ここまでお読み頂きありがとうございました。

「2章 ハンター、都会へ行く」は、3/17(火)から更新予定です。以降は火木土日の週四回更新となります。

最後に、☆☆☆☆☆やブクマで応援して頂けると励みになります!

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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 陰険狼さん、その強さに見合った強力スキルをプレゼントしてくれましたな! しかし最期の台詞がやっぱり気になりますなぁ…名前にカオスって付いてたし、産まれた時からあんなんじゃなかった…
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