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【1章終了】逃げ癖ハンターは立ち向かう 〜狩人の大精霊に憑依された底辺ハンターは魔物に溢れた現代で無双する〜  作者: 藤枝止木
1章 ハンター、大精霊に気に入られる

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第38話 ハンター、混沌と対峙する(3)


「グルッ……!?」


 カオスウルフが自分の足元と周囲を見渡し、初めて狼狽(うろた)えた様子を見せる。


「その焦りよう…… やっぱり、影なんだな……!」


 ノルフィナとシロが作り出したのは、真昼以上に明るい氷壁の闘技場だ。

 この中に影は発生しない。カオスウルフ、黒い熊野郎、俺、トモミン…… その誰もが、足元から自身の影を失っていた。

 わざわざ手間をかけてこんな場を整えた理由がこれだ。


 ノルフィナや侯爵達の話から、カオスウルフの異能が、奴自身の影を起点に発動していることは明らかだった。

 奴の強力な能力を封じるには、奴の影を消す必要がある。その方法を考える内に思い出したのが、外科手術などで使われる無影灯(むえいとう)という照明器具だ。

 この器具は、沢山の照明を多方向から当てる事で、医師の手の下などにできる影を極限まで薄くし、手術を行いやすくするためのものだ。

 なんで俺がこんなものを知っているのかと言うと、鹿の捌き方を調べてる時に間違って手術動画を開いてしまったからだ。まさかその時の知識がここで生きるとは……


 さておき、これを大規模に再現できれば奴を弱体化できる……! そう思い立った俺は、ノルフィナとシロに頼み込み、対カオスウルフの無影闘技場魔法を習得してもらった。

 シロはペロペロ回復魔法以外の魔法は初めてだったので、多数の光源を生成する光魔法の発動にかなり苦労していた。

 ノルフィナの純氷硬壁フレイン・イースヴェグルも新開発の魔法だ。高い透明度と強度を誇る氷の壁は、光源の光をほぼ完全に透過しつつ、閉じ込めた対象の逃亡を阻害する。

 この、二人による合成魔法が、奴の力の源である影を奪ったのだ。


「おぉ……! 二人とも立ち直ってくれたか!」


 背後の都市防壁の上から嬉しそうな声。振り返ると、リースヒルド侯爵がこちらに手を振っていた。


「侯爵様! ご心配をおかけしました!」


「ははっ、全くだ! シャドウウルフ共はこちらでなんとかする! お前達は元凶を断つのだ!」


「はい、勿論です! 行くぞトモミン!」


「うん、師匠!」


 俺達は頷きあい、それぞれの敵に向かって走り出した。






***






 カリヤマがカオスウルフに肉薄するのを横目に、トモミンも熊型使い魔に突貫。思い切りモーニングスターを振るった。


「やぁぁぁぁっ!」


 その彼女を迎え撃つ熊型使い魔は、威圧するように後脚で立ち上がり、叩き潰すように前脚を振り下ろした。


「ゴアッ!」


 ガァンッ!


 モーニングスターと極太の前脚が激突し、お互いが仰け反る。

 一瞬早く体勢を立て直した熊型使い魔が追撃の前脚を放つ。

 対するトモミンは、仰け反る勢いのまま後ろに下がってそれを回避した。


 ドンッ!


 空振りした熊型使い魔の前脚が、強かに地面を叩く。


「隙ありぃ!」


 技後硬直(ぎごこうちょく)状態の熊型使い魔にトモミンが突貫する。

 が、その直後。熊型使い魔の体が黄色く発光した。


「……!」


 地魔法攻撃の前兆。そう理解した瞬間、トモミンは咄嗟に横へ飛んだ。


 ドシュ!


 地面から鋭い金属の棘が飛び出し、先ほどまでトモミンがいた空間を貫いた。さらに……


 ドシュ! ドシュッシュッ!


「わっ! わわわっ……!」


 棘はトモミンを追うように連続で飛び出して来た。彼女はさらに後ろへ飛び、なんとかそれを避け切った。

 結果、両者は開始位置に戻り、遠間で睨み合った。


「あ、あっぶなー…… でも、戦えてる……! 師匠が言った通りだ。僕、あの熊さんと打ち合えるくらいに強くなってる……!」


「グルルッ…… ガァァァァッ!!」


 笑顔を見せるトモミンに苛立ったのか、咆哮を上げた熊型使い魔が彼女に突進を仕掛ける。


「うひっ……! や、やっぱりまだちょっと怖い……! けど、師匠が僕に頼むっていってくれたんだ……! やってやる! えい!」


 熊型使い魔の頭部に生えた刀剣のような角。トモミンはそれをくるりと(かわ)すと、その勢いのまま敵の脇腹にモーニングスターを叩き込んだ。


 ドフッ!


「グガッ……!?」


 苦悶の声を上げながら、熊型使い魔が前脚で反撃を放つ。


 ガンッ!


「うぐっ……!? このぉ!」


 手甲で受けても内臓に響く一撃。それに慄きながらも、トモミンは即座に反撃を放った。

 二人の攻撃の応酬は加速度的に激しくなっていき、両者は徐々に防御や回避といった選択肢を忘れていった。

 そして、いつしか戦いはただの殴り合いとなり、一人と一匹は等しく獣の咆哮を上げた。


「「ガァァァァァッ!!」」


 激痛と戦いへの熱狂の中、トモミンは、この強敵を乗り越えれば自分は大きく成長できると確信していた。

 そしてそれがカリヤマの期待に応える事になる。彼女にとって特別な人である、カリヤマの。


 --トモミン、友崎日向(ともさき ひなた)の両親は、彼女が幼い頃に死んだ。

 その原因はダンジョン暴走。ダンジョンから溢れた魔物の群れが街を襲い、彼女と両親の住む家を薙ぎ倒したのだ。

 母親は彼女を庇って崩れた家の下敷きとなり、父親は魔物が彷徨(うろつ)く状況で助けを呼びに行き、二度と帰らなかった。


 その後幸運にも救助されたトモミンだったが、親しい人が自分を守るために死んだこの出来事は、彼女の中に巨大なトラウマとして残ってしまった。

 元々人懐っこい性格だった彼女は、強すぎる孤独感を埋める為に沢山の友人を作った。

 しかし、友達以上の特別に親しい人、家族や恋人を新しく作ることはしなかった。親しい人を再び失ってしまうのが、堪らなく怖かったのだ。


 そんなある日、トモミンの前にカリヤマが現れた。

 彼は、強大な魔物から命を賭してトモミンを助けたばかりか、その魔物を倒して彼女の元へ生還した。

 それは彼女にとって、心に秘めた重く暗い闇が打ち払われたかのような、鮮烈で衝撃的な出来事だった。

 以来、トモミンにとってカリヤマは特別な人間となり、彼女も彼の特別な存在になりたいと願うようになった。

 その思いを、最初の気持ちを思い出し、トモミンの体にさらなる力が漲る。


「らぁっ!」


 ガァンッ!


「ゴァッ……!?」


 幾度もの攻防の果て、トモミンの打ち上げるような一撃が敵の両腕を跳ね上げ、その体勢を大きく崩した。


「……! とび、こめぇっ!」


 燃えるような意志の力で恐怖をねじ伏せ、彼女は巨大な熊型使い魔の懐に飛び込んだ。

 そして、明けの明星と呼ばれる自身の武器を引き絞り、渾身の力を込め、放つ。

 その武器を繰り返し振るい、数多の魔物を屠ることで発現した一撃…… 武技の領域にまで昇華したそれを。


七星連撃(セブンスター)!』


 ギュアッ……! ドガガガガガガガァンッ!


 彼女がモーニングスターを振るったのはただの一度。

 しかし熊型使い魔の腹には、七つの打撃痕が深々と、全く同時に刻まれていた。

 一つだけでも命に届きうる一撃。それを七つ同時に受けた事で、熊型使い魔の体は致命的に破壊された。


「ゴァッ…… ァァァァァ--」


 か細い断末魔を上げながら、熊型使い魔がゆっくりと仰向けに倒れていく。

 そしてその巨体は、地面に倒れ込む前に崩れ去った。


「や、やった……? やったよ、師匠……! やったーー!! あ、あれぇ……?」


 歓声を上げた後、トモミンはその場にガックリと膝をついた。

 彼女の体は打撲と裂傷だらけで、最早(もはや)、体力、魔力共に限界だった。


「だ、だめだ。もう動けないや…… 師匠、僕、あのおっかない熊さんを倒したよ…… だから師匠も、きっと勝てるよ……」


 トモミンが見つめる先で、カリヤマとカオスウルフとの戦いは佳境に差し掛かっていた。


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