第35話 ハンター、ボーナスタイムに突入する
地球とは違い、この世界ではその辺の森に魔物が住んでいたりする。
俺達が向かったのはそんな魔物の領域の一つ。城塞都市ノルザルボルグの東にある森だ。
ちなみに、シャドウウルフ達が退却したのは都市を挟んだ反対側。西の森の方だ。
森に入って耳を澄ませると、アルミラージから獲得した俺の『超聴覚』が魔物の群れを捕捉した。
「--捉えた。この感じ、大型の四足獣の群れだな…… こっちだ。静かに付いてきてくれ」
「りょーかい……! 抜き足差し足だね……!」
後続のトモミン達が俺の言葉に頷く。
そのまま足音を殺して森を進んでいくと、木立の向こう側に巨大な影がいくつも見え始めた。
目を凝らすとそれは、巨大な四本の牙を生やした猪型の魔物だった。木々がまばらな開けた場所で、数十頭が日光浴をしながら微睡んでいる。
俺達はさらに距離を詰めて頷きあい、戦闘を開始した。
『--氷山結界!』
ビキキッ……!
先制の一撃を放ったのはノルフィナ。魔物達の周囲をぐるりと囲むように氷の壁が生成され、群れは一瞬にして逃げ場を失った。
気づいた魔物達が即座に立ち上がろうとするが、寝起きのためかその動きは鈍い。
『千刃乱舞!』
「「プギィィィィッ!?」」
そこへ俺が放ったダガーの群れが殺到し、魔物達の脳天を撃ち抜いていく。
「よっしゃあっ! シロ、行くよ!」
「ガゥッ!」
最後にトモミンとシロが群れへ突撃し、俺が打ち漏らした個体を次々に仕留めていく。
時間にしておよそ十秒。全ての魔物が倒れ伏し、森は静かになった。
「よし、みんなおつかれさま! 一旦都市へ戻ろう」
「「おー!」」
俺は金属操作魔法でダガーを円盤状に変形させると、それらの上に一体数百kgはある猪を乗せ、そのまま城塞都市へと運び込んだ。
これを何度か繰り返す事で、俺達は合計数tもの魔物肉を調達する事に成功した。
『では皆! 憑代殿と天上の神々に感謝を捧げ、この素晴らしき糧を頂こう!』
『『ウォォォォッ!!』』
場所は領主の城館の中庭。リースヒルド侯爵の音頭に、その場に集まった騎士や兵士、冒険者達が歓声をあげた。
やつれた顔の彼らは、庭の至る所で直火にかけられている肉串へと殺到すると、目に涙を浮かべながらそれを頬張った。
その様子を目にし、俺はほっと安堵の息を吐いた。
『よし。BBQパーティーは大好評みたいだな』
俺が侯爵に提案したのは、今夜予想される襲撃の前に士気を高めるため、都市全体でBBQパーティーをしようというものだった。
都市の兵士や冒険者は怪我や疲労で動けない人も多かったので、肉の調達は俺達で行った。
その後は都市のみんなに下処理を手伝ってもらい、こうして宴の開催に漕ぎつけたのだ。
現在この都市には数万人が居るが、肉はその全員が満腹になるほどの量を確保した。
城館の外からも楽しげな声が聞こえてくるので、都市にいる全員が肉串を楽しんでくれているはずだ。
『皆さん、とてもお腹を空かせていた様子でしたからね…… あ、ヴァリル、エルティ、こっちにおいで!』
ノルフィナが手招きすると、肉串を両手に持った子供達が楽しそうに走ってきた。
彼女の弟さんと妹さんだ。ノルフィナのご家族という事で、城館中庭でのパーティーに招いたのだ。
ちょっと離れた所には彼女のご両親もいて、楽しげに笑う侯爵と緊張気味に話し込んでいる。
『ねーちゃん! これ、すげーうめーよ!』
『おいしー!』
満面の笑みでうまいうまいという二人。ノルフィナは慈愛の笑みを浮かべながら、彼らの頭を優しく撫でた。
『うふふ、よかったね。ほら、カリヤマさんにお礼を言って?』
『うん! カリヤマお兄ちゃんありがとー!』
『あーがとー!』
『ああ、いっぱい食べるんだぞ。串の先に気をつけてな』
『『はーい!』』
二人は元気に返事をすると、走って両親の元へと戻って行った。
『んふふ……! ノルフィナちゃんの弟くん達、やっぱりかわいいね!』
『ああ。特に、俺をおじさんと呼ばない辺りが最高だ』
『うっ…… し、師匠。僕がおじさんて呼んだことまだ怒ってるの……?』
『はは、冗談だよ。ほら、トモミンもいっぱい食べな』
『も、もー! シロ、師匠の分まで食べちゃおう!』
「ワン!」
トモミンがヤケクソ気味に肉串に喰らい付き、シロも串から外した肉をハフハフと食べ始める。火傷に気をつけろよ?
『ふふっ。カリヤマさん、私たちも頂きましょうか』
『ああ。さて、こっちの魔物はどんな味なのか……!』
ノルフィナに大きく頷き返すと、俺は焼き台からこんがり焼けた肉串を一本手に取った。
串には様々な魔物の肉と、申し訳程度の野菜が刺さっている。
それにガブリと喰らい付き、串から引き抜いて咀嚼する。
『……! こいつはうまいな……!』
香ばしい肉の香りと香味野菜の香りが鼻に抜け、牛、豚、鳥…… 様々な肉の食感や味わいが口内を満たした。
もう一口、さらにもう一口食べると、また違う肉の香りや味が押し寄せてくる。
何種類もの魔物の肉がごちゃ混ぜに刺さっているので、一口ごとに新鮮な美味しさがある……! これは結構新しい食べ方を発見したかもしれない。
チラリと周りの様子を見ると、他のみんなも肉串を夢中で貪っていた。
『--クスッ、クスクスクスクスッ……!』
すると俺の脳内に、狩人の大精霊の楽しげな声が連続で響いた。
そう、これがBBQパーティーを企画したもう一つの理由だ。
この世界では様々な魔物の肉が気軽に手に入る。魔物の肉を喰ってその力を得られる俺にとって、まさにボーナスステージなのだ。
声の直後、体の奥から新しい力が次々に湧き上がってくる。
五感が鋭敏になり、肉体の様々な能力が強化され、今日仕留めた魔物のスキルが自分の血肉になったのが直感できた。
己が格段に強化された感覚に、俺は一人頬を歪めた。
『出来ることやった。あとは…… 獲物を待つばかりだ』
肉串を楽しむ人々の喧騒の中、西の空は徐々にオレンジ色に染まっていった。
そして、夜が来た。




