第33話 ハンター、家族の再会に立ち会う
--ゴンッ…… ギギィィィッ……!
突然響いた大きな音に振り返ると、城塞都市の巨大な門が開き始めていた。
さらに都市の中から数名の騎兵が出撃し、俺達の方へ向かってくる。
「人が来るな…… ノルフィナ。俺とトモミンはこっちの言葉も習慣も分からない。助けに来たことをうまく伝えてくれないか?
俺達の素性については説明が難しいかも知れないが…… 必要があれば異世界から来たという話もしてもらって構わない」
「はい、お任せ下さい! 実は私、あの都市では少し顔が効くんです」
ノルフィナがちょっと得意そうに頷いて騎兵に手を振る。すると彼らは徐々に速度を緩め、俺たちの手前で下馬した。
全員が見事なフルプレートを着ている。いわゆる騎士と呼ばれる人達だろうか?
「「おぉ……」」
そして騎士達が兜を脱いだ時、俺とトモミンは思わず感嘆の声をあげていた。
兜の下から現れたのは整った顔ばかり。全員がエルフのイケメンやイケオジだった。
ノルフィナの話では、このアルヴァ大陸はエルフ発祥の地であり、住んでいる人の大半はエルフということだった。
顔面偏差値が高すぎて俺にはちょっと肩身が狭そうな土地だな……
「***、***!」
「**! ***」
やつれた顔に満面の笑みを浮かべる騎士に、ノルフィナも笑顔で応じる。
お互い何を言ってるか分からないけど、双方敬意を払っているのが見て取れる。
そのまま少し話し込んだ後、ノルフィナが俺たちの方を振り返った。
「カリヤマさん! 領主様が私達を歓迎してくださるそうです! 是非救援の礼がしたいと」
「りょ、領主様か…… 分かった。お招きに感謝すると伝えてくれ。それでその、君の里の人達は……?」
「は、はい…… 今、聞いてみます……!」
ノルフィナが再び騎士達と話し始める。するとトモミンが俺に体を寄せ、小声で話しかけてきた。
「師匠。心配だね、ノルフィナちゃんの里の人達……」
「ああ。昨日は訊けなかったが、あの家に住んでいた彼女のご家族もいるはずだ。全員無事だといいが……」
「うん…… --あのさ、こんな時なんだけどさ…… なんかすごいね……! 今更だけど、ここって本当に異世界なんだ……! 本物の騎士なんて初めて見たよ。うぅ〜…… ワクワクする……!」
「それに関しても同意見だ。この世界には一体どんな魔物がいるのか……! あ、騎士で思い出したんだが…… ノルフィナによると、この世界は地球の中世に相当する時代らしい。
だからトモミン、気をつけてくれよ? 絶大な権力を持つ貴族に馴れ馴れしくしたら、物理的に首が飛んでしまうかもしれん」
「ひ、ひぇ〜…… あ、危なかった。いつもと同じノリで、騎士さん達と肩とか組もうとしてたよ……」
「--絶対に止めてくれよ?」
「**、***!?」
「ワンワン!」
こそこそと話していると、ノルフィナとシロの嬉しそうな声が聞こえてきた。二人とも喜色満面の表情だ。
「お二人とも! 私の里のみんなも、あの都市に受け入れた記録があるそうです!」
「おぉ……! そうか、まずは一安心だな」
「早速会いに行こうよ! 僕もノルフィナちゃんの家族に会ってみたーい!」
日本語でそう答えると、俺たちのやりとりを見ていた騎士達が反応した。
「***、***……?」
彼らは訝しげな様子で俺とトモミンを見ると、何事かをノルフィナに問いかけた。
どうやら警戒されているらしい。まぁ彼らからしたら、俺達は知らない言葉を話し、見た事もない格好をした不審者だ。
しかも都市を囲んでいた数万の魔物達を追い払うほどの力まで持っている。当然の反応だろう。
しかしノルフィナが何事かを答えると、騎士達は驚いた表情で俺の胸の辺りを凝視し、その場に膝を突いてしまった。
「ちょっ……! ノルフィナ! い、一体何を話したんだ……!?」
「えっと、カリヤマさんが狩人の大精霊の憑代だとお話したんです。
以前もお話ししましたけど、私達エルフにとって、カリヤマさんのような憑代はとても尊い存在なんですよ」
「あー、そういえばあったね、そんな話。すごいよ師匠! モッテモテだね!」
「いや、モテてるのとは違うと思うが…… と、ともかく立ってもらうように言ってくれ。居た堪れない」
恐縮する騎士達になんとか立ってもらい、俺達は城塞都市へと向かった。
そして都市の馬鹿でかい門を潜った瞬間、割れんばかりの大歓声で迎えられた。
「「--ワァァァーー!!」」
大通りに集まっているのは、鎧を着込んだ騎士や兵士に、噂に聞く冒険者らしき人々。それから一般市民や農民風の方々だ。
人々の多くはエルフのようだけど、一割ほどは俺たちと同じ人間。もう一割はドワーフや獣人などだ。非常に異世界みを感じる光景だ。
彼らは一様にやつれた顔をしていて、怪我人もかなり多いように見えるけど、その表情はとても明るい。
「かなりまずい状況だったみたいだな……」
人々に手を振り返しながら呟くと、隣を歩くノルフィナが神妙に頷いた。
「はい…… 始まりは一ヶ月ほど前。シャドウウルフに追い立てられて、多くの人々がここに逃げ込んできたという話です。私の里と同じですね……
そしてこの都市が沢山の避難民を抱えたところで、見計らったかのようにシャドウウルフの大群が現れました。
奴らは都市を封鎖した後、ずっと防壁の外をうろつくだけだったんですが、昨日から突然攻城戦を仕掛けてきたそうです。戦闘の犠牲者もかなり出ていて、戦線は崩壊寸前だったようです……」
「そうだったのか…… 本当に間に合ってよかったが、奴らはなんですぐに攻め込まなかったんだ……?
--もしかして、広域に散った獲物を一箇所に集めて、閉じ込めて弱らせた所を一気に喰らい尽くそうとしたのか……?」
であれば、奴らの親玉であるカオスウルフはかなり頭のいい奴らしい。推定S級の実力と万軍を生み出す能力と合わせて、やはり相当に手強い獲物のようだ。
しかし、奴がシャドウウルフを生み出す能力には限界があると考えていいだろう。その証拠に、ここを取り囲んでいた連中は数が三分の一程度になった段階で退却した。付け入る隙はあるはずだ。
「ノルフィナ!」
突然聞こえた声に思考が途切れる。声の方に視線を向けると、エルフの男女が群衆を押し除けるように俺たちの前に現れた。
彼らの後ろには小さな男の子と女の子もいて、どことなくノルフィナの面影がある。もしかして……
「***、***!」
「ワンワン!」
ノルフィナとシロは勢いよく駆け出し、その人達とぶつかるような勢いで抱擁を交わした。
言葉は分からないが、全員が泣き笑いの表情でお互いの無事を喜んでいるのが分かる。彼らがノルフィナの家族のようだ。
あの様子なら誰も欠けずに再会できたのだろう。俺は深い安堵の息を吐いた。
「--いいなぁ……」
トモミンの声に視線を移すと、目に涙を湛えながらノルフィナ達を見つめる彼女の顔には、とても強い羨望の色が現れていた。
「トモミン……?」
「あ…… えっと、よかったね、師匠! ノルフィナちゃん、家族のみんなと会えたんだよ!」
「あ、ああ。よかったよな、本当に……」
トモミンは少しぎこちなく笑い、家族の再会に歓声はさらに大きくなった。




