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【1章終了】逃げ癖ハンターは立ち向かう 〜狩人の大精霊に憑依された底辺ハンターは魔物に溢れた現代で無双する〜  作者: 藤枝止木
1章 ハンター、大精霊に気に入られる

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第30話 ハンター、再び異世界へ


 連戦で疲れた体に鞭を打ちながら、俺達は鉄熊山(てつゆうざん)のとある場所へと向かった。このパーティーの誰にとっても因縁深い、あの場所へ……


「やっぱりな……」


 そして辿り着いたその場所には、予想通り、球体状の大きな空間の歪みのようなものが出現していた。

 ()()()()も夜なのか、歪みの中に見える景色は暗く、判然としない。


「ほ、ほんとーにあった……! で、でも、なんで今なの……!? 僕ら、何度もここに来てたのに…… いっつも何も見つからなかったよね……!? おっかしーなぁ……」


 トモミンが納得のいかない様子で首を傾げる。無理も無いだろう。ここへは一時期毎日のように来てたし、ノルフィナ達が来てからも時々様子を見に来ていたのだ。


「ああ、そうだったな。そして何故今なのかだが…… 恐らく、今夜が満月だからだろう」


「え…… そ、そんな法則性があったんですか!?」


「ワフン!?」


 驚くみんなに、俺は指折り数えて見せた。


「ちょうど二ヶ月前、俺とトモミンはこのゲートを潜って異世界ユグドラシアに行き、熊野郎に遭遇した。これが最初だ。

 そして一ヶ月前、俺達はこの場所でノルフィナ達を見つけた。その時にはゲートを確認できなかったが、多分これが二回目だろう。

 さらに今日、ユグドラシアに居るはずのシャドウウルフ達が現れた。これが三回目…… 全て満月の日だ。

 これだけ続けば間違い無いだろう。満月の日、地球とユグドラシアは繋がるんだ。その原理までは分からないが……」


 俺の説明を聞き終え、ノルフィナが目を見開く。


「なるほど、盲点でした……! これが自然に生じたものか、それとも何者かの術式によるものかはわかりませんが、何らかの魔法現象であることは確かです……!

 そして満月の夜の前後は、大いなる魔素の流れである地脈が活性化します! さらに、私の世界にも地球と同じような月が存在します……!

 二つの異なる世界を繋ぐなんて大規模な魔法現象…… そんなものが起こるとしたら、満月の日以外にあり得なかったんです!

 悔しいっ……! もー、どうして気づかなかったんだろー! 私の馬鹿、馬鹿馬鹿馬鹿……!」


「い、いや。無理も無いだろう。君はこっちに来てまだ一ヶ月な訳だし」


「それでもです! こんなの魔導士の名折れです……! くぅー……!」


 ノルフィナは本当に悔しそうな様子で頭を抱えていたが、暫くして深く息を吐き、何か決然とした表情で俺とトモミンを見た。


「カリヤマさん、トモミン。今まで、本当にお世話になりました。私たちはユグドラシアに帰ります。

 シャドウウルフが来たと言うことは、本体のカオスウルフも恐らく健在でしょう……

 私の故郷のみんなは城塞都市に逃げ込めたと思いますが、きっとまだ奴に苦しめられている筈です。私達が助けにいかないと……!」


「ワオン!」


「そうか…… そうだろうな」


「はい…… 命を救って頂いた御恩に、ここまで良くして頂いたご慈悲に何もお返しできず、心苦しい限りですが……

 このゲートがいつまで開いているか。そして、一ヶ月後にまた開通するかも分かりません。寂しいですが、ここでお別れです」


「キューン……」


 神妙な様子で俯くノルフィナとシロに、俺とトモミンは思わず顔を見合わせてしまった。


「いや、何を言ってるんだ? 当然俺も一緒に行くぞ」


「もちろん僕も行くよ! もー、二人とも水くさいんだからー」


「--へ……? い、今なんて……!?」


「ワフン!?」


 目を見開いて顔を上げた二人を、俺は手で制した。


「ちょっと待ってくれ。一本だけ電話する。まだ居るといいんだが……」


「あ、僕も! トモ友のみんなに一言残しとかなきゃ!」


 俺とトモミンは揃ってスマホを取り出した。

 そして俺がある場所へ電話をかけると、意外にもすぐに通話が繋がった。


『はい、千葉県第六支援局です』


 同時多発ダンジョン暴走の後始末が終わらないのだろう。疲れた声の斉藤(さいとう)さんが電話に出てくれた。


斉藤(さいとう)さん。夜分にすみません、狩山(カリヤマ)です」


『ああ、狩山(カリヤマ)君。ちょうど良かった、あなたに話があったの。

 今回は本当によくやってくれたわ。君達がいなかったら、数千人…… 下手したら数万人単位の犠牲者が出ていたんですもの。

 そんな訳で、管理局からあなた達に特別褒賞が出る事になったの。県知事も感謝状を出すそうだし…… 色々と話を詰めたいから、近いうちにまた顔を出してくれる?』


 疲れているだろうに、斉藤(さいとう)さんの声は優しい。 --長年お世話になってきたこの人に会えなくなると思うと、寂しさが込み上げてくるな……


「ありがとうございます。とても光栄な話です。ですがすみません。俺達、少し長めの休暇を取ることにしたんです。

 次に顔を出せるのは、一ヶ月後か…… もしかしたらそれ以上先かもしれません」


『あ、あら、そうなの? 分かったわ。あなた達、ものすごく頑張ってくれたものね。ゆっくり休んで頂戴』


「ええ、ありがとうございます。ではまた……」


 名残惜しく通話を切ると、トモミンがスマホで動画を撮り始めた所だった。


「よっす! トモ友のみんな! みんなの自慢の友達、トモミンだよー!

 今回は短いお知らせ! この度、僕ことトモミンは、ちょっと長めの休暇をとらせて頂きます!

 急にごめんねー。多分一ヶ月か、もっと休んじゃうかも…… でもでも、きっとパワーアップして戻ってくるから、待っててねー! バイバーイ!

 --よしっ、あとはこれをアップロードして…… うん、オッケー! 終わったよ!」


 この世界に最低限の別れを済ませた俺たちを見て、呆然としていたノルフィナ達が再起動した。


「ちょ、ちょっとお二人とも…… 本当についてくる気ですか!?」


「ワンワン!」


「ああ。連絡も済んだことだしな。しかし、伝説の魔物、カオスウルフか…… どれほど手強い獲物なんだろうな……!」


「異世界かぁー…… どんな所なんだろ! ノルフィナちゃんから話は聞かせてもらったけど、僕、まだ森しか見てないからすっごく楽しみ!」


「た、楽しみって…… ふ、二人とも考え直して下さい! もう…… もう二度と戻れないかもしれないんですよ!?

 あっちにはいつでも開いてるコンビニも、美味しいケーキやアイスも、それに…… インターネットだって無いんですよ!?」


「ワ、ワフン……!?」


 切実な様子で訴えるノルフィナを、シロが困惑気味に見上げる。俺もズッコケそうになった。

 今のは彼女の魂の叫びなんだろうけど…… このエルフ、地球文明に毒されすぎている。


「えっと…… それはまぁ確かに困るが、パーティーメンバーの窮地(きゅうち)と天秤にかけるには軽すぎるな。

 君たちとはまだ一ヶ月しか一緒に過ごしてないが、その濃密さは十年の歳月にも匹敵するものだったと思う。

 二度とこの世界に戻ってこられなくたっていい。俺は、その濃密な時を共に過ごした君達と一緒に居たい。だからついていくよ。ユグドラシアへ」


 口から出たセリフに、俺は自分自身で少し驚いていた。

 覚醒前の俺は、あらゆる物からひたすら逃げ続け、自分の居場所が無くなる事をただ恐れていた。

 けれど今、自分の最後の居場所だと思っていた場所…… 十年過ごした鉄熊山(てつゆうざん)から離れることがちっとも怖くない。少し寂しくはあるが……


 きっと俺は、新しい居場所を見つけたんだと思う。単なる場所ではない、トモミン達の側に。

 なら俺のやるべき事は一つ。新たな得難(えがた)い居場所を全力で守る。それだけだ。


「ひ、ひぐっ…… カ、カリヤバざぁーん!」


 涙を流し、感極まった様子のノルフィナが俺の元へ走り寄る。

 が、そこへ何故かトモミンが割り込み、ノルフィナを抱き止めた。


「うんうん! 僕も師匠と一緒だよ! 地球のみんなと会えなくなるのは、確かにすっごく寂しいし、悲しいよ……

 でも、困ってるノルフィナちゃん達だけを送り出すなんてできっこない! だって僕らはパーティーメンバーだし、大切な友達だもん!」


「トモミン…… ありがとうございます……! 本当に、ありがとうございます……!」


 ノルフィナとトモミンがしっかりと抱き合う。それを暖かな気持ちで眺めていると、俺の元に尻尾をブンブン振ったシロが来てくれた。


「ワフンワフン! キューン!」


「ははっ、無理すんなってシロ。今の俺、相当臭いんだろ?」


 しゃがんでシロの頭を撫でてやると、彼もぺろぺろと俺の顔を舐めてくれた。 --うん。お互い早めに風呂に入ろうな。あと歯磨きも。


 ザァ……


 その時、ゲートに向かって一陣の風が吹いた。まるで俺たちを招き入れるかのような風が。


「どうやら、歓迎してくれているらしいな…… それじゃあ、ゲートが閉じる前に行こうか。

 カオスウルフを討伐し、ノルフィナ達の故郷の人達を助けるんだ……!」


「「応……!」」


 この世界への惜別(せきべつ)を胸に、俺達は異世界ユグドラシアへのゲートを潜った。


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