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【1章終了】逃げ癖ハンターは立ち向かう 〜狩人の大精霊に憑依された底辺ハンターは魔物に溢れた現代で無双する〜  作者: 藤枝止木
1章 ハンター、大精霊に気に入られる

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第29話 ハンター、地団駄を踏む


「みんな、悪いが残業だ! あれを止めないと!」


 鉄熊山(てつゆうざん)から溢れ出しつつある黒い群体。あれが何か分からないが、あんな物を市街地に通したらきっと大惨事になる……!


「え…… あんなにいっぱいの奴らを!? わ、分かったよ!」


 トモミンが戸惑い気味に応えてくれる。それに頷き返し、走り出そうとしたその時。


 ドサッ……


 隣にいたノルフィナが尻餅をついた。


「ノルフィナ……!? 一体どうし--」


 言い掛けて言葉を止める。鉄熊山(てつゆうざん)を凝視したままの彼女の顔が、恐怖と困惑に引き()っていたからだ。


「そんな…… 何で…… 何でここに……!? わた、私が呼び、ここへ込んでしまったの……!?」


「ちょっ、ノルフィナちゃんどーしちゃったの!? シロちゃんまで!」


「キュゥ…… キュゥーン……」


 トモミンの声に、シロは怯えたように後退りしながら鳴いた。その体は小刻みに震え、尻尾も股の間に丸まっている。

 この二人の怯えよう。そして鉄熊山(てつゆうざん)という場所…… 俺は、以前ノルフィナから聞いた話を思い出した。


「まさか…… あれが前に話していたシャドウウルフか……!?」


「……! すみません……! きっと私のせいです! 私のせいで奴らがここに……! すみません!」


 ノルフィナが怯えたように何度も謝る。どうやら推測は正しかったらしい。

 異世界ユグドラシで彼女達の集落を襲った伝説の怪物。混沌の闇を操る大いなる影の狼、カオスウルフ。

 その使い魔であるシャドウウルフの大群に追われ、彼女達はこの世界に来たとという話だった。

 もしもの可能性として、そいつらもこっち来てしまうのではと警戒していたけど、まさかあれほどの大群だったとは……


「大丈夫だノルフィナ。落ち着いてくれ。これは誰のせいでもない」


「いいえ……! きっと私のせいです。あいつらには勝てません……! だって、いくら倒しても倒しても、倒しても倒しても、影の中から溢れてきて……!

 ごめんなさい……! 私たちのせいでこの世界まで……! きっと集落のみんなだって、もう……!」


 ノルフィナが(かぶり)をボロボロと泣く。きっと、この世界に来てからずっと押さえ込んでいた不安が溢れ出てしまったんだろう。俺は、そんな彼女の両肩にそっと手を置いた。


「違う。ノルフィナ、それは違うぞ」


「……!」


 息を呑み、彼女が俺を凝視する。


「君たちのせいじゃない。それに、俺たちなら勝てるさ。前にあいつらを相手にした時、君とシロは二人だけで戦ったんだろう?

 だけど今回は違う。俺とトモミンもいる。戦力二倍だ。一緒に死戦を潜った俺達なら、あの大群だって退けられるはずだ。そうだろう……?」


「そ、そーそー! 僕と師匠がいたら百人力だよ! ま、まぁ、ちょーっと百人でも足りなそうだけど…… とにかくだいじょーぶだよ!」


「ははっ。だな。さぁ立ってくれノルフィナ。シロも。一緒にあいつらを片付けよう。そしてその後は…… 君らの集落の人達も助けに行こう」


「カリヤマさん、トモミン……」


 ノルフィナは泣き笑いのような表情を見せた後、ぐしぐしと袖で涙を拭って勢いよく立ち上がった。

 彼女の表情の中にはもう怯えは無く、その横に立つシロの体はもう震えていなかった。


「すみません、お手数をおかけしました……! 行きましょう!」


「ワンワン!」


「ああ……! 急ごう。奴らは市街地に向かおうとしているらしい。俺たちで食い止めるんだ!」


「「応!」」


 鉄熊山(てつゆうざん)から溢れた黒い狼の大群は、一頭も逸れる事なく、真っ直ぐに市街地へと向かっていた。

 俺達は山と市街地の中間地点に走り、ひらけた田園地帯で足を止めた。


「よし、ここがいいだろう! 正面は俺。左翼はトモミン、右翼はシロが止めてくれ! ノルフィナは後方に下がり、討ち漏らしを頼む!」


「「了解!」」


 俺の声に全員が距離をとって布陣する。

 その間にもシャドウウルフの群れは疾走を続け、あと数百メートルの所まで迫っていた。


「「オォーーーン!!」」


 凄まじい遠吠えの合唱を上げ、視界を埋め尽くす黒い狼の大群が迫り来る。その数は数百や数千ではきかないだろう。


「『亜竜の大密林』に潜る前だったら、正面から迎え打とうなんて考えなかっただろうな。だが…… --スゥーー、ハァーー……」


 呼吸を整え、腰を落として、両手は前に…… 奴らを睨みながら、俺は中国拳法のような構えを取った。

 そのまま魔力を練り上げ、奴らが間合いに入るのを待つ。

 そしてその距離が百メートルを切った時、俺はゆっくりと片足を上げ--


震脚(クェイク・ブレイカー)!』


 ズガァンッ!


 渾身の力と魔力を込め、地面を踏み抜いた。

 すると踏み締めた足を中心に地面がうねり、大地を伝う波となり、黒い津波と化したシャドウウルフの大群へと向かった。


 --ドバババババッ!!


「「ギャァァァァァンッ!?」」


 最前列のシャドウウルフが波に触れた瞬間、その体はまるで足元から爆散したかのように吹き飛んだ。

 破壊の波はそこで止まらず、後列、そのまた後列のシャドウウルフをも次々に吹き飛ばしていく。


 そう。俺が使ったのはクェイクティラノの振動波魔法だ。奴を討伐した際、実はいくつかドロップアイテムがあったのだ。

 その中のブロック肉を喰らった際、俺の中の大精霊はいつもよりさらに嬉しそうにクスクスと笑った。

 太古の息吹を感じるような野生み極まる味も最高だったけど、何よりこの対軍魔法を習得できたのは僥倖(ぎょうこう)だった。


「まだまだ……! フンッ!」


 ズガッ、ズガァンッ!


 繰り返し足を踏み鳴らし、迫り来る大群を吹き飛ばす。

 幸運にも波を飛び越えたシャドウウルフも居たが、左右に陣取ったトモミンとシロ、そして背後に控えたノルフィナが漏らさず討伐してくれた。


 そうして足を踏み鳴らすこと数百回。まるで寄せては返す波のように、絶える事なく山から湧き出ていたシャドウウルフの群れは、ある瞬間からぱったりと供給されなくなった。

 それでも向かってくる最後の数百体を片付けると、月明かりに照らされた周囲には嘘のように静けさが戻った。

 それを確認した瞬間、安堵と疲労感から、俺はガックリとその場に膝を突いてしまった。


「はぁ、はぁ、はぁ……! 何とか、切り抜けたか……!?」


 すると、散らばっていたみんなが俺の元に駆け寄ってくる。


「師匠、大丈夫!? 凄いよ……! あんなに沢山の魔物を、僕らだけやっつけちゃうなんて……! ほんとーに凄いよ!」


「はい、凄すぎます! あの悪夢のような大群も無限じゃなかった……! 私にも…… いえ、私達にも倒せる存在なんです!」


「アオォーーン!」


 疲労もピークだろうに、みんなは激戦を乗り切った達成感に目を輝かせている。


「みんな、本当によくやってくれた……! 三連勤に続く残業。もう帰って風呂に入って眠りたい所だが…… その前に、もう一つだけ片付けなきゃいけない事がある」


「……! そうですね。奴らが現れたと言うことは、きっと……」


 ノルフィナの言葉に俺は頷いた。


「ああ。行こう、鉄熊山(てつゆうざん)へ……!」


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