第28話 ハンター、暴走ダンジョンを鎮めまくる
ボス階層の最奥。一際巨大な杉の木の幹に、目的のダンジョン核は埋まっていた。
通常状態のダンジョン核は球体状をしているが、暴走状態の今は違う。歪な形に肥大し、鋭い石の根のような物を木の幹に食い込ませていた。
俺はその暴走したダンジョン核の前に立って刀を抜いた。
「よし、さっさと肥大した外殻部分を切り離してしまおう。 --フッ!」
パキィンッ!
高速で振るわれた刃が歪な外殻部分を切り飛ばす。すると、中から綺麗な球体状のダンジョン核が現れた。
フッ……
その瞬間、ダンジョン内を満たしていた張り詰めた空気が霧散し、空の色も赤から青空に戻った
『--あぁ、よかった……! 今、地上の対応チームから連絡があったわ! ダンジョンの入り口の色が赤から青に戻ったそうよ! ダンジョン暴走が終わったの!
本当にありがとう、あなた達のおかげよ! まだ魔物の湧出は続いてるけど、あなた達はゆっくり戻ってきてくれて大丈夫だから!』
支援局のドローンカメラから聞こえてきた斉藤さんの声に、俺達は揃って歓声を上げた。
「やった…… やったね師匠!」
「ふー…… 一時はどうなることかと」
「ワフーン」
「みんな、本当にお疲れ様……! まだ地上に戻ったわけじゃないが、さっきのボスほどの障害はもう出ないだろう」
”やー、良かった良かった。本当に終わったかと思った……”
”ダンジョン暴走からトモミンの負傷、狩山氏によるA級魔物のほぼソロ討伐、そんでシロによる回復魔法…… ちょっと盛り沢山すぎたな”
”流石に今日はもう何も起こらんでしょ”
”↑おい……”
”フラグだぞそれ……”
スマートグラスに映るコメント欄にも気の抜けた雰囲気が漂い始めていた。しかし……
”お、おいお前ら! これ見ろ! トモミン達も見てくれ! https://***”
”え…… 嘘だろ。なんでこんなに立て続けに……!”
”お、俺のせいか……!?”
”待て、全国ニュースの方も見てみろ! これ、千葉だけじゃないぞ!”
リンク付きのコメントを境に、急にコメント欄が騒がしくなった。くそっ、今度は何事だ……!?
『た、大変……! 狩山君、ゆっくり戻って来てと言ったのは訂正させて。申し訳ないけど、可能な限り早く戻ってきて頂戴……! あなた達の力が必要よ!』
「斉藤さん、一体何が起こったんですか……!?」
『ダンジョン暴走よ! そのダンジョンの事じゃないわ…… 全国に散らばる数百のダンジョン、それらが今、同時に暴走を起こしているの!』
「「な……!?」」
斉藤さんからの凶報を受け、全速力で地上へと戻った俺達は、居合わせた人々からの大歓声で迎えられた。
「おぉ、帰ってきたぞ! 本当に全員無事だ!」
「さすが狩山さんとこのパーティーだぜ! まさかA級ボスを倒してダンジョン暴走を鎮めちまうなんてなぁ!」
「本当に助かりましたよ! 溢れてくる魔物の数が多すぎて僕らも危なかったんです!」
そこに居たのは、支援局で何度か言葉を交わした事があるハンター達だった。彼らが斉藤さんが言っていた対応チームだろう。
ハンターにはダンジョン暴走時の参集義務があるので、こういう時は全ハンターで対応にあたるのだ。
周囲を見回すと、ダンジョンを囲む防護壁が破られた様子も無い。彼らがここで踏ん張ってくれたおかげだろう。
「あ、ありがとう。あんたらもよく持ち堪えてくれた」
「ふふん! 僕らにかかれば軽い軽ーい!」
「ワフンワフーン!」
「ど、どうも、恐縮です。えへへ……」
賞賛がこそばゆいが、いつまでもこうしてはいられない。俺は支援局のカメラに向き直った。
「それで斉藤さん、俺達はまずどこに応援に行けば?」
『まずはC級ダンジョンの『鉄巨人の迷宮』に行ってちょうだい! すでに防護壁を突破したゴーレム達が街に向かっているわ!』
「……! 分かりました! みんな、行こう!」
「「応!」」
俺達は直ぐに『鉄巨人の迷宮』へと走り、市街地ギリギリまで迫っていたゴーレムの集団を叩き潰した。
応援を必要とする場所はまだまだあったので、俺達はその後も近隣のダンジョンを駆けずり回る事になった。
断片的に入ってくる情報によると、すでに全国で多数の死傷者が出ているようだった。今回の同時多発ダンジョン暴走は、世界凶変以来の大災害と言えるだろう。
そんな絶望的な状況下で、俺達は殆ど寝るまもなく魔物達を倒し続けた。
そして三日後。ようやく全てのダンジョン暴走は沈静化し、俺達はようやく過酷な労働現場から解放された。
「やっと、帰ってこれましたね…… 流石に、疲れました……」
支援局で終了宣言を言い渡された帰り道。すでに陽が落ちた田舎道を、俺たちはトボトボと歩いていた。特にノルフィナは足を引き摺るようにしてしんどそうだ。
「ノルフィナ、良ければ家まで背負おうか? 君は純粋な魔法型だ。俺達の中じゃ一番しんどいだろう」
「へ……? い、いいんですか……!? じゃ、じゃあ失礼して……」
「ノルフィナちゃん。僕ら三日間汗だくでお風呂入ってないから、多分すっごく臭うよ? 激クサだよ?」
俺の背中に乗ろうとしていたノルフィナを、トモミンの平坦な声が止めた。
「え゛……!? くんくん…… ゔっ!? --あの、カリヤマさん。ご厚意は嬉しいですが、その、今はやめておきます……」
ノルフィナは自分の襟口の匂いにえずくと、スススと俺から離れてしまった。
「そ、そうか。まぁ、無理にとは言わないが…… --なぁシロ。自分じゃもうよく分からないんだが、もしかして俺も臭うか……?」
「キュッ、キュゥーン……」
隣を歩くとシロに聞いてみると、彼もちょっと申し訳なさそうに俺から距離を空けてしまった。うぐっ…… こ、これは心にくるものがある。
「ふ、風呂だ……! 帰ったらまず風呂に入ろう……!」
俺の言葉にみんなが力強く頷いた。
「やれやれ…… ん……? ああ。明るいと思ったら、今夜は満月か」
ふと夜空を見上げると、見事な真円の月が浮かんでいた。
そこから少し視線を下げると、遠くに月明かりに照らされた山々が見えた。
昼間とは違うその静謐な風景を、俺は何となく眺め続けた。
「--あれ?」
すると、視界の中に違和感を見つけた。思わず足を止めて注視したのは、丁度トモミンやノルフィナと出会った場所、近所の魔物の領域である鉄熊山だった。
「あれ。師匠、どーしたの?」
「カリヤマさん?」
「ワフン?」
俺に釣られてみんなが足を止める。
「あ、いや…… 何か山がおかしい気がしたんだが……」
俺が自信なさげに鉄熊山を指差すと、みんなもその方向に目を向けた。
何だろう。何かいつもと違った気がしたんだが……?
目を凝らしても黒々とした山肌があるだけだ。何もおかしな所は無いはずだが…… --いや、違う。やっぱりおかしい。こんなに明るい月夜なのに、なんであの山だけあんなに真っ黒なんだ……!?
明らかな異常事態。そこから状況はさらに変化した。その黒々とした山肌が、もぞりとみじろぎしたのだ。
「「……!?」」
全員が息を呑む。さらに目を凝らすと、その黒い山肌が、無数の何かの集合体である事が分かった。
「な、何だあれは!?」
--ゾゾッ…… ゾゾゾゾゾゾッ……!
山肌に取り憑いていた黒い何かの群体。それらの動きは段々と激しくなり、やがて雪崩のような勢いで山を降り始めた。




