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【1章終了】逃げ癖ハンターは立ち向かう 〜狩人の大精霊に憑依された底辺ハンターは魔物に溢れた現代で無双する〜  作者: 藤枝止木
1章 ハンター、大精霊に気に入られる

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第27話 ハンター、暴走ダンジョンを鎮める(4)


 ズンッ、ズズゥン……!


 クェイクティラノの巨大な頭部が地面に落ち、首を失った巨体も地響きを上げて倒れ伏した。

 しばしの残心の後、俺はすぐにみんなの方に向かって走り出した。すでに全員円盤から降り、こちらに手を振ってくれている。


「さっすがししょー! あんなにおっきい恐竜を--」


 満面の笑みで元気に飛び跳ねるトモミン。その姿を目にした俺は、衝動的に彼女を抱きしめていた。

 小柄で華奢な体から伝わってくる温かな体温に、彼女が生きているという実感が湧いてくる。


「トモミン…… よかった……! 本当に良かった……!」


「--はわっ…… はわわわわっ!? ちょ、ちょっと師匠! カメラ、カメラ回ってるよ!?」


「わ、わぁ…… カリヤマさん、大胆です……!」


 そして、トモミンとノルフィナの声ですぐに我に還った。しまった、今配信中だった……!


「す、すまない! 気持ちが昂ってしまって、つい…… 申し訳ない!」


 俺は即座に彼女の元から離れると、最敬礼で謝罪した。背中が冷や汗で濡れる。ヤバい、やってしまった……!


「あっ…… う、うん。だいじょーぶ、気にしてないよ…… くっそー、僕の馬鹿……! 何日和(ひよ)ってんだよー……!」


 赤い顔で目を泳がせながらも、トモミンはそう言って許してくれた。後半はゴニョゴニョと聞き取れなかっけど、とにかく怒ってはいないらしい。よ、良かった……


”A級をほぼソロ討伐か…… 狩山(かりやま)師匠のレベルはS級水準だって噂、本当っぽいな”

”か、狩山(かりやま)ぁ! てめーライン超えたぞ! 何トモミンとハグしとんじゃぁ!?”

”まぁまぁ落ち着けって。死線を超えた仲間同士なんだからしょうがないだろ”

”ぐぬぬ…… 今回は狩山(かりやま)氏の大金星だ。見逃してやろう……”

”全員助かってよかったけど、トモミンいつの間に復活したんだ?”

”あれ、確かに。ポーションは全部使ったて話だったよな?”

”ト、トモミンがメスミンに…… 脳が、脳が破壊されるぅ……!”

”今後はトモミンと狩山(かりやま)氏のカップルチャンネルになるのか…… まぁ、あんだけ格好いいところ見せられちゃったらな”

”折れちゃった…… 俺の角、折れちゃったよ……”

”トモミンガチ恋勢……!? ま、まだ生き残りが!?”


 ハグの瞬間もバッチリ配信されていたらしく、コメント欄はさっきとは別の方向で荒れていた。俺は慌ててドローンカメラに向き直ると、再び最敬礼で謝罪した。


「ト、トモ友のみんなもすまない。今後は師匠として、弟子であるトモミンとの距離感を間違えないよう徹底する。どうか許してほしい」


「そ、そこまで徹底しなくていいよ! ちょっとだけ…… ほんのちょっとびっくりしただけだから! 今までどーりフランクに行こうって!」


 カメラに向かって頭を下げる俺の前に、なぜか焦った様子でトモミンが割って入った。


「そ、そうか……? ともかく許してくれてありがとう。 --ところでコメントにもあったけど、どうやってあの負傷から回復したんだ? ポーションはもう無かったはずだが……」


 仮にポーションの在庫があったとしても、俺たちが入手できるグレードのものであの重傷を完治させるのは難しい筈だ。


「それはこの子のおかげなんです」


「ワオン!」


 俺の疑問に答えてくれたのはノルフィナだった。彼女に撫でられているシロは誇らしげな様子だ。


「シロの……? まさか、この子が上級回復魔法を使った、と……?」


 回復魔法の使い手は本当に少ない。重傷や部位欠損まで治療可能な使い手ともなると、国内に数千人しかいない程だ。

 市販のポーションが高額で入手性が悪いのも、製造元となる彼らの数が少ないせいだ。

 シロを見たり撫でたりしていると確かに癒されるが、彼がそれほど高度な回復魔法を使ったとは……


「そのまさかなんです。そうだ、カリヤマさんもさっきの戦いで負傷してますよね? シロ、治してあげて」


「ワン!」


 シロは俺の前に進み出ると、てしてしと前足で地面を叩いた。これは…… しゃがめって事か? 俺は素直にその場にしゃがみ込んだ。すると。


 パァァァァッ……


 シロの体から、白く清浄な光が発され始めた。これは、回復魔法の光……!?

 驚いてシロを見ていると、彼はそのまま俺に近寄り--


 べロべロべロべロッ!


 めちゃくちゃに顔を舐めてきた。


「ぅお……!? おぶっ…… やめっ…… わ、わかった。ありがとうシロ。もう大丈夫、大丈夫だ……!」


「ワフン?」


 背中の辺りを何度かタップすると、彼は熱烈なペロペロを止めてくれた。うへぇ…… 顔がべしょべしょだ…… ん……?

 シロに舐められた直後、俺は直ぐに自身の体調の変化に気づいた。クェイクティラノのブレスを喰らってから感じていた、頭の鈍痛や耳の聞こえずらさが綺麗さっぱり治っていたのだ。


「こ、これは……!?」


 ノルフィナの方に視線を映すと、彼女は微笑みながら頷いた。


「はい、シロの力…… 回復魔法です。先ほど突然目覚めたみたいなんです」


「僕も顔をペロペロ舐められて起きたんだけど、もう体は全然痛く無いよ! 賢くて強くて可愛くて、そんでもって回復魔法まで使えるなって…… シロ、凄すぎ! もうぎゅーってしちゃう!」


「ワフフン」


 トモミンに思いっきりハグされ、シロは得意げな表情をしている。


”え…… うぇぇー!? い、犬が回復魔法を!?”

”うっそだろ…… 回復魔法って、魔法型の中でも一握りしか適性を持ってなくて、そんで医療知識が無いとまともに発動しないはずなんだが……”

”昔居たな。モグリの回復魔法使いのせいで、腕が壊死しちまったハンター”

”つまり…… シロちゃんは医学部出の天才犬ってこと!?”

”んな訳あるか。けど、実際瀕死のトモミンが元気に復活してるからなぁ……”

”シロさん、これからはシロ先生と呼ばせて頂きます”


 コメント欄も大混乱の様子だ。俺も驚いてる。犬が回復魔法を使うというのは、それくらいあり得ない事なのだ。

 すると、ノルフィナが顔を寄せて耳打ちしてきた。


狩山(かりやま)さん。私は以前、シロには二つの精霊が()いていると言いましたけど、覚えていますか?」


「あ、ああ。力と、光の精霊のだったっけか? シロは力の精霊による身体強化は発現させていたけど、 光の精霊の方は……」


 覚醒したハンターがどんな能力を獲得するかは、単に本人の体質によるというのが今の地球の常識だ。

 しかし異世界ユグドラシアの常識では違う。その人間に()いた精霊の種類によるのだ。


 力の精霊が()いた者には前衛型の能力が強く発現する。強力な身体強化や、特殊な武技とも言える技を習得できる。

 一方、他の光や風なんかの精霊が()いた者には後衛型の能力が発現し、対応した属性魔法を使えるようになるのだ。


 なので光の精霊を宿したシロには、光と、それに付随した回復魔法を使える素養がある筈だったのだが…… 彼は今までそれらしい力を使ったことがなかった。


「はい。私も今日まで、シロは光の精霊の力を使いこなせていないんだと思っていました。

 でも思い起こしてみると、この子が怪我をしている所を殆ど見た事が無かったし、この子が側に居ると怪我人の具合も直ぐに良くなっていました。

 きっと、トモミンのピンチに何かコツを掴んでくれたんでしょうね。本当に優しい子です……」


「な、なるほど…… そういえば君は異様に怪我の治りが早かったけど、あれはシロが側に居たからだったのか……

 しかしまだ分からない。回復魔法には医学知識が必須。それがこっちの世界の常識だ。いくら賢いシロでも、そこまで知識は持っていないと思うんだが……?」


「それは…… 正直私もわかりません。けれど、医学知識がこの世界より遥かに低いユグドラシアでも、神官達は高度な回復魔法を使っていました。

 何か、信仰心のようなものが医学知識の代わりとなっていたのかもしれません。シロに関しては…… や、野生の勘とかでしょうか……?」


「か、勘って、そんな無茶苦茶な……」


 自信無さげなノルフィナの説を、俺は素直に飲み込む事が出来なかった。けど、実際に治ってるんだよなぁ……


「--シロ、トモミンを助けてくれてありがとうな。帰ったらご馳走だ。またマグロブロックでも買ってこよう」


「ワフッ!? ワンワン!」


 マグロブロックの単語に、彼は目を輝かしてぐるぐるとその場を回り始めた。うん、可愛い。


『あ、あなた達って、本当に話題に事欠かないわね…… ともかく、みんな無事で本当に良かったわ。

 それで、激戦の後で急かしてしまって申し訳ないのだけれど……』


 支援局のカメラから聞こえてきた斉藤(さいとう)さんの声に、俺は当初の目的を思い出した。


「ええ、そうでしたね。まずはこのダンジョンの暴走を止めましょう」


 俺たちは頷きあうと、クェイクティラノがやってきたボス階層の奥へと急いだ。


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