第26話 ハンター、暴走ダンジョンを鎮める(3)
ジャッ!
金属操作魔法により伸長した刀身が、クェイクティラノの肩口に迫る。
奴の全身は岩石の甲殻に覆われている。さっきダガーでその破片を迎撃した感じだと、鋼鉄を超える硬度を持っている事も分かった。
だが俺の斬撃はスチールゴーレムをも両断した。幾ら硬くても甲殻の厚さはせいぜい数センチメートル。切れない訳がない……!
バガンッ!
しかし、その予想は突然響いた轟音と共に裏切られた。刀が触れる直前、奴の甲殻が爆発したように弾け飛んだのだ。
「なっ……!?」
破片と爆風により斬撃の刃筋はぶれ、剣圧も大きく削がれてしまった。結果、俺の刀は奴を両断するどころか、その甲殻を浅く傷つけるに止まった。
慌てて刀を引き戻すと、爆ぜた部分の甲殻は見る見る内に補修されてしまった。まるで戦車の爆発反応装甲、リアクティブアーマーだ。しかも再生機能付きの……!
「クェイクティラノがこんな技を使うのなんて聞いた事ないぞ……! こいつ、もしかして強化種なのか……!?」
俺が上級ハンターのダンジョン配信などから得た知識では、こいつの攻撃手段は大地を揺るがす振動波と尻尾による石礫、それからあの大顎による噛みつきだ。
そして、防御手段である岩石の甲殻はただただ頑丈なだけで、あんなハイテクな機能は無かったはず……!
想定外の事に戸惑う俺を、敵は待ってくれない。
「ゴアッ!」
ズガンッ!
奴は再び大地を踏み締め、あの強力な振動波を放ってきた。
「チッ……!」
咄嗟に跳んでそれをやり過ごすと、奴は中空に居る俺に向かって尾を振り抜き、再び石礫を放ってきた。
振動波で地上の敵を殲滅し、強力な石礫で空中の敵を撃ち落とす。これが奴の必殺戦法なのだ。
俺は迫り来る散弾に刀を構えながら、トモミン達の方への流れ弾にダガーの群れを向かわせた。
ガガガガガッ!
刀で散弾を弾き切って着地し、チラリと後方を伺うと、円盤に乗ったみんなも無事だった。
「よかった、あっちも防げたか…… けど、こんなのいつまでも続けていられないぞ……!」
トモミンの出血は続いているはずだし、ノルフィナの風の防御障壁もいつまで持つか分からない。早急に決着を付ける必要がある。
--俺の初撃は奴のリアクティブアーマーに防がれてしまった。しかし、あのアーマーの再生機能は無限だろうか?
いや、そんな訳は無い。奴にも魔力切れという限界はあるはずだ。
「なら、裸になるまで剥いてやるまでだ……! おぉっ!」
相手の魔力を削り切る。そう決めた俺は、烟るような速度で刀を振るった。
バガガガガァン!
袈裟斬り、水平斬り、突き…… 奴に放ったあらゆる方向からの攻撃は、その悉くがリアクティブアーマーによって防がれてしまった。
奴は反撃とばかりに衝撃波と石礫を放ってきたが、俺はそれを躱しながらひたすらに刀を振い続けた。
そして十数分後……
「はぁ、はぁ、はぁ…… どうした、もう品切れか……!?」
「ゴ、ゴルルルルッ……!」
息が切れるほどの全力戦闘の結果、クェイクティラノの甲殻は再生限界を超え、奴は丸裸の状態になっていた。
”すっ…… すげぇー! 完全にひん剥いちまった!”
”流石狩山工房! 服を作るのも脱がせるのも上手い!”
”端的な状況説明:息を荒げた狩山氏が魔物を無理やり全裸にした”
”語弊がありすぎるwww”
優勢な状況にコメント欄も息を吹き返し、ふざける余裕が出てきたようだ。しかし、めちゃくちゃ誤解を招きそうなコメントがあるな……
「好き勝手地団駄踏みやがって……! 終わりだ! 迷惑トカゲ野郎!」
トドメを刺すべく、俺は地を蹴ってさらに間合いを詰めた。
しかしその時、ジリジリと怯えるように後ろに下がっていた奴が、ニヤリと嗤った気がした。
背中をぞくりとした嫌な感覚が駆け抜ける。そしてそれを裏付けるように、奴が俺に向けて大口を開けた。
なんだ……? この間合いじゃ奴の噛みつきは絶対に届かないのに…… まさか……!?
『キョォォォォッ!!』
そのまさかだった。奴の喉奥から発されたのは、空気を震わせるブレス。これまでの重低音の咆吼とはまるで違った、超高音の域の咆吼だった。
「がっ……!?」
まるで強力な指向性の音響兵器。耐え難い爆音に晒された俺は、強烈な頭痛と吐き気、そして体中の痛みに膝を突いてしまった。
こいつ、振動させられるのは大地だけじゃなかったのか……!
まともに動けない状況でなんとか顔を上げると、激しくブレる視界の中で、奴の馬鹿でかい顔が迫って来ていた。最後はあの大顎でトドメを刺すすつもりらしい。
必死にブレスから逃れようとするも、俺の体の動きは亀のように遅かった。
大口を開けた奴が間近に迫り、覚醒以来忘れていた死の恐怖が俺の心中に広がる。
同時に、これまでの出来事が走馬灯のように思い起こされた。三十年も生きているのに、脳裏に浮かぶのは出会って数ヶ月のみんなの顔だった。
トモミン、ノルフィナ、シロ…… ここで死ぬわけには……!
ガィンッ!
「グォッ!?」
その時、突然飛来した何かがクェイクティラノの頭部に直撃した。
音響ブレスが止み、自由になった俺の視界にその何かが映った。あれは…… モーニングスター!?
驚愕と共にみんなの方を振り返ると、投擲後の姿勢の彼女が円盤の上に立っていた。
「トモミン!?」
「師匠! やっちゃえ!」
彼女の声に向き直ると、クェイクティラノの顔が至近距離にあった。
「グォォォォッ!!」「おっ…… おぉぉぉぉっ!!」
ザンッ!
その大顎が俺を噛み砕く直前、俺の刀が奴の極太の首を切り飛ばした。




