第24話 ハンター、暴走ダンジョンを鎮める(1)
降り立ったボス階層には、これまでの熱帯のジャングルとはまた違った風景が広がっていた。
巨大な針葉樹と広葉樹が混在していて、こう、白亜紀の大森林という感じだ。今の地球上ではあまり目にしない植生である。
そして何より、木々の枝の隙間から見える空の色が血のような赤に染まっていた。
「し、師匠…… この空、ウィングタイガーの時と同じ色だね……」
トモミンが空を見上げながら不安げに言う。以前彼女と潜ったD級ダンジョン。そのボス階層で異常等級個体に遭遇した時の空がこんな色だった。
「ああ、そうだな。ここのボスはシールドトプスの筈だが……」
シールドトプスは、顔面が巨大な盾のようになっているトリケラトプス型の魔物だ。
突進がそのままシールドバッシュになっていて、攻守共に優れた強敵だが、攻略方法がかなり研究されている魔物でもある。そいつがそのまま出て来てくれたら楽なのだが……
ゾワッ……
そう都合良く事は進まないらしい。巨大樹の森の奥から、震えが来る程に凶暴な殺気が飛んできた。
「討伐陣形!」
「「応!!」」
俺たちは瞬時にその方向へ向き直り、硬い表情で臨戦体勢を取った。後衛のノルフィナを背後に庇い、俺を中心にトモミンとシロが前に出る配置である。
ズンッ、ズンッ、ズンッ……!
直後、大地を揺るがす足音が高速で俺たちに近づいてきた。
強まる威圧感にシロが身を低くして唸り、ノルフィナが冷や汗を流す。
「グルルッ……!」
「来ます……! 何か、巨大なものが!」
--バゴォッ!!
そして、巨木を小枝のようにまとめて薙ぎ倒しながら、森の奥からそれが姿を現した。
「ゴルルルルッ……」
そいつは、以前何かで見たティラノサウルスそっくりの姿をしていた。
直立した体高は十メートル、体長は尻尾も含めてその倍以上はある。とにかく巨大で、さらに体表は岩石のような甲殻で鎧われていた。
巨体を支える両脚は大木の幹のように太く、大きすぎる頭部には刀剣のような牙が林立した大顎……
そんな怪物が、発狂したかのような血走った目で俺たちを傲然と見下ろしていた。
”でけぇ……! なんだコイツ!?”
”完全にティラノサウルスやんけ。おててちっちゃい”
”ここダンジョンじゃなくてジュラシックパークだったのか?”
”なんつー迫力…… 画面越しでも震えが来ちまう……!”
”や、やっぱりダンジョン暴走中にボスに挑むのは無謀なんじゃ……”
『ま、まずいわ! あの魔物って……!』
奴の登場にスマートグラス上のコメント欄が加速し、ドローンカメラから斉藤さんの悲鳴のような声が響く。
あの姿、この強烈な気配…… 間違いない。
「クェイクティラノ……! 最強の亜竜と呼ばれるA級の魔物だ! みんな注意しろ! コイツの地魔法は--」
「グォォォォォッ!!」
「「……!?」」
突然、クェイクティラノが重低音の凄まじい咆吼を発し、俺の声はあっさりかき消された。
みんながその爆音に耳を塞ぎ、体を竦ませる。
そしてその隙を突くかのように、奴がゆっくりと片足をあげ、その体を黄金に発光させた。
「まずい……! 上に跳べ!」
咄嗟に背後を振り返って叫ぶ。しかし、みんなはまだ奴の咆吼に悶えていて、俺の声は届いていないようだった。
絶望的な気持ちで前に向き直ると、ちょうど奴が脚を踏み鳴らす所だった。
ズガァンッ!
爆音のような音と共に、踏みしめた足を中心に大地がうねり、その振動波が高速で俺たちに迫った。
俺は咄嗟に拳を振り上げると、それの到達に合わせて全力で大地を殴った。
「おぉっ!!」
ドガァッ!
奴の踏み鳴らしと同等の爆音が鳴り、地面が大きく抉れる。
俺の拳によって振動波は大きく減衰したように見えたが、それでも完全には殺しきれなかった。
小さくなった波が俺の足にふれた瞬間--
ドンッ!
「うぐっ……!」
両足から内臓、頭までを強烈な衝撃が貫いた。
これが奴の振動波魔法だ。大地を踏み鳴らした衝撃を地魔法で増幅。振動波を波及させ、波にふれた敵を粉砕する…… 強力無比な対軍攻撃魔法である。
以前見た上級パーティーのダンジョン配信では、新進気鋭だった強力なハンター達がこの魔法一発で全滅していた。
S級並みの身体強度を持つ俺には、地面を殴って威力を殺した事もあって大きなダメージは無い。けれどB級やC級水準のみんなには、減衰した振動波でも致命的なはず……!
再び背後を振り返ると、俺が地面を殴った事で察してくれたのか、シロとノルフィナは上に跳んで振動波を飛び越えていた。
その事に安堵するも、奴の咆吼に耳だけでなく目まで閉じてしまっていた彼女は……
「トモミン!」
悲鳴のような声で再び叫んだけれど、やはり俺の言葉は届かなかった。
無防備な彼女の足元に振動波が到達した。
ドンッ!
分厚いタイヤを思い切り殴ったような音が響き、彼女の体が大きく震えた。
「痛っ!? コフッ……!」
驚愕に見開いた両目から、両耳から、鼻から血を流し、さらに吐血しながら、彼女は仰向けに倒れ込んだ。




