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【1章終了】逃げ癖ハンターは立ち向かう 〜狩人の大精霊に憑依された底辺ハンターは魔物に溢れた現代で無双する〜  作者: 藤枝止木
1章 ハンター、大精霊に気に入られる

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第23話 ハンター、ジャングルに挑む(4)

『亜竜の大密林』に潜り始めて一週間が経過した頃、俺達は最下層手前の第二九層に到達していた。

 そこまで攻略は予定通りに進み、レベル上げも順調だったのだけれど、ここに来て見過ごせない異常が生じ始めていた。魔物の数が激増したのである。


千刃乱舞(ブレイズ・ストーム)!』


千連氷柱(スーサンド・イースラ)!』


 俺が操る数十のダガーが、ノルフィナが生成した(きら)めく氷柱(つらら)の群れが、俺達を取り囲む魔物の群れに殺到する。


 ドガガガガガガッ!!


「「ギャァァァァッ!?」」


 血飛沫を上げて絶叫したのは、数百にも及ぶ羽毛恐竜のような魔物の大群だった。

 狂ったように突進してきたそいつらが、ダガーと氷柱(つらら)に貫かれて見るみるうちに数を減らしていく。

 そしてその弾幕を掻い潜って肉薄して来た魔物の前には、頼りになる前衛が立ち塞がった。


「えいっ!」


「グルルッ!」


 トモミンが振るうモーニングスターが魔物を叩き潰し、シロが咥えた両刃剣が魔物の首や脚を切断する。

 誰か一人でも欠けたら戦線が崩壊する。そんなギリギリの全力戦闘を暫く数続けた結果、無限にも思えた魔物の群れは魔石の山へと変わっていた。


「よし、乗り切った……! みんな、よくやってくれた」


 追加の敵影がない事を確認してダガーをコートの下に収納すると、トモミンとシロが崩れ落ちるように膝を突いた。

 流石に無傷という訳には行かず、その体には大小の傷が刻まれている。


「ゼェーッ、ゼェーッ……! や、やっと終わったぁ……!」


「へッ、へッ、へッ…… ワフーン……」


 魔法の連続使用に息を荒げていたノルフィナは、そんな二人を見てポーチから二つの小瓶を取り出した。


「はぁっ、はぁっ…… ふ、二人ともこれを。狩山(かりやま)さん、いいですよね?」


「ああ。今回持って来たのはその二つで最後だが、二人の傷は浅く無い。ここで使おう」


 俺が頷くと、ノルフィナはトモミンとシロの傷に小瓶の中身を振りかけた。

 すると二人の体が僅かに発光し、見るみるうちに傷が塞がった。


「ふー…… ノルフィナちゃんありがと! 楽になったよー!」


「ワンワン!」


「ふふっ、良かったです」


 ノルフィナが二人に使ったのは、ポーションと呼ばれるいわゆる回復薬だ。

 非常に高価で希少な代物で、今のように一瞬で傷を治すことが出来る高性能なアイテムである。

 今回は念の為いくつか持って来ていたのだけれど、今ので全て消費してしまった。


“お…… お疲れ様ー!! 見てるこっちも冷や汗ものだった”

“いや、魔物の数多すぎ。これ普通のD級パーティーだったら詰んでただろ……”

“このダンジョン、C級の中では難易度高くない筈なのに…… やっぱりこれ、ダンジョン暴走の予兆なのでは?”

“最下層手前で魔物や強さが上昇するのは普通にある事だけど、さっきの群れは規模がおかしい”


 ドローンカメラが映すバテバテの俺達に、スマートグラスに表示されるコメント欄も心配げだ。

 最下層で魔物が激増して負傷者が出始めた段階で、俺たちはすでに撤退を検討し始めていた。

 そこへ追い討ちのように先ほどの大群に襲われてしまったのだ。これはもう……


「--みんな聞いてくれ。残念だけど今回はここで撤退しよう」


 この異常状態で、しかもポーション無しでボス戦に挑むのは危険すぎる。俺の呟きに、支援局のカメラ越しに見ていた斉藤(さいとう)さんからも緊張気味な声が響いた。


『支援局もその判断を支持するわ。まだダンジョン暴走が生じたという情報は確認できていないけど、今の大群はそれに準じる異常事態と判断できます。

 すぐに管理局と連携してダンジョンの一時封鎖に動くから、狩山(かりやま)君達も直ぐに脱出を開始してちょうだい』


「えーーー!? せっかくここまで来たのにぃ!? そんなぁ……」


「クゥーン……」


 俺と斉藤(さいとう)さんの言葉に、トモミンとシロがガックリと肩を落とす。


「今回は仕方ありませんよ。こっちでは、命あっての物種という言葉があると聞きます。生きていればまた挑戦できますよ!」

「ああ、ノルフィナの言う通りだ。しかし君、いつの間にそんなことわざまで--」


 ズズンッ……!


 その時、地震など起こらないはずのダンジョンが大きく揺れた。


「「……!?」」


 明らかな異常事態に俺達が警戒を強めると、周囲を取り囲むジャングルのそこら中に新しい気配が生まれ、辺りは魔物達の声でにわかに騒がしくなった。

 空気が張り詰め、まるでダンジョンそのものが俺たちに殺気を向けてきているようだった。


「これは…… まさか!?」


『大変……! 今、そのダンジョンの入り口が青色から赤色に変わったと連絡が入ったわ! つまり…… ダンジョン暴走よ!』


 斎藤(さいとう)さんの悲鳴のような声が、俺の予想の的中を告げていた。

 ダンジョン暴走。それは世界凶変(せかいきょうへん)以降の地球において、地震や台風以上に恐れられている大災害である。


 通常状態のダンジョンでは、魔物はその大半が中に留まっていて、外に出てくるのは全体の数%程度だ。

 しかし暴走状態なると内部の魔物の数は激増し、その多くが凶暴化してダンジョンの外に飛び出してくる。

 加えて異常等級個体も多く出現するので、ダンジョン周辺の都市には壊滅的な被害が出てしまうのだ。

 世界凶変(せかいきょうへん)直後の世界では、これによって地球人口の二割程度が失われたそうだ。


 そしてさらに厄介なのが、このダンジョン暴走の発生条件が今だに解明されていない事だ。

 直前に魔物の数の増加や異常等級個体の発生などが起こることもあれば、何の前兆もなく突然暴走を引き起こすこともある。

 ダンジョンの魔物を間引いておくと発生を抑制できるというデータもあるけれど、それも絶対じゃない。

 予想不能で回避困難かつ被害は甚大…… それがダンジョン暴走なのだ。


“嘘だろ…… 最下層間近でダンジョン暴走に巻き込まれるってなんて……! そんなのありかよ!?”

“ヤバイヤバイヤバイ……! 狩山(かりやま)氏、急いでみんなと脱出してくれ!”

“トモミンちゃん死なないで! トモミンちゃんが居なくなったらあたし生きていけない”

“ノルフィナちゃんも早く逃げて! まだおすすめしたいアニメがいっぱいあるんだ……!”

“シロちゃん頼むから無事に帰ってきてくれ。俺、犬が酷い目に遭うの駄目なんだよ……”


 コメント欄が悲痛な声で埋まる。確かに、普通なら即時撤退を決断すべき状況だろう。けれどそんな中、俺は別の事を考えていた。


「--みんな。撤退案は取り下げさせてくれ。代案として、最下層に降りてダンジョン暴走を止める事を提案したい」


「「え……!?」」


 俺の言葉に全員が目を見開いた。俺の発言にコメント欄も荒れ始める。


 ダンジョン暴走への対応は二つに大きく分けられる。一つは、ダンジョンから湧き出る魔物をひたすら倒し続けて鎮静化を待つ方法。

 そしてもう一つは、肥大化したダンジョン核の外殻を砕き、暴走を強制的に止めてしまう方法だ。

 俺が提案したのは後者で、実行には当然大きな危険を伴う。ダンジョン核は必ずボスに守られているし、暴走状態にあるダンジョンではボスも強化、凶暴化されているからだ。


『ちょっ…… 狩山(かりやま)君、何を言っているの!? そんな危険行為は認められません! 今すぐ撤退するのよ!』


「聞いてください斎藤(サイトウ)さん。先ほどとは状況が変わったんです。

 ここは最下層手前の第二九層…… ダンジョン暴走で凶暴な魔物が溢れかえる中で、遠い地上を目指して進む事こそ危険です。

 一方ダンジョン暴走を止められれば、魔物の増産と凶暴化も止みます。今から撤退するより、遥かに安全に地上を目指すことができるはずです」


『……! それは…… でも……!』


 斎藤(さいとう)さん苦しげな声で喉を詰まらせた。進むか戻るか。支援局としても、どちらの方が生存確率が高いか判断できないようだ。

 ならば…… 俺は事体を見守っていたみんなへと向き直った。


「みんな。今の俺の提案は賭けの要素がデカい。けれど、こっちの方が全員が生還できる可能性は高いと思うんだ。どうだろう……?」


 これは大きな危険を伴う方法だ。俺のこんな判断を信頼してもらえるかとても不安だったけど、みんな俺の目を真っ直ぐに見て大きく頷いてくれた。


「りょーかいだよ、師匠! 僕は元々先に進みたかったし!」


「確かに大きな危険は伴いますが、ポーションも尽きた今の状況では…… 分かりました。私も賛成です……!」


「ワンワン!」


「……! みんな、ありがとう! 斎藤(さいとう)さん……!」


 数秒の沈黙の後、彼女は観念したかのように応えてくれた。


『--分かったわ。私は所詮安全圏から口出ししているだけですもの。現場の君達の判断を信じるわ。でも、からなず生きて帰ってくるのよ……?』


「勿論です……! よし、みんな行こう!」


「「応!!」」


 増え続ける魔物の気配と咆哮の中、俺達は最下層へと足を踏み入れた。

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