第21話 ハンター、ジャングルに挑む(2)
「トモミン上だ!」
『亜竜の大密林』に潜って三日目、位置はダンジョンの中層。シザーラプトルの群れを相手に戦っている最中、俺は上空から感じた気配に咄嗟に声をあげていた。
「へっ……? わっ……!? うわぁぁぁ〜〜〜っ!?」
しかしその警告は間に合わなかった。突然巨大な翼影が飛来し、トモミンを鉤爪で掴んで上空へ飛び上がってしまったのだ。
「くそっ! 羽音がしなかった…… サイレントプテラか!」
トモミンを攫ったのは、文字通り音もなく飛行するプテラノドンのような魔物だ。
死角である上空から無音で襲いかかってくるので、この魔物の犠牲になるハンターは結構多い。
「トモミン!?」
「キャゥン!」
ラプトル達を蹴散らしていたノルフィナとシロが咄嗟に上空を見上げ、コメント欄が高速で流れる。
”嘘だろ!?”
”やばい…… もうあんな高さに……!”
”でもなんか悲鳴に余裕がねぇか……?”
”狩山師匠、出番ですよ!”
「分かってる! ノルフィナとシロはラプトル達を! トモミンは俺が助ける!」
「わ、分かりました!」
「ワンワン!」
俺は手持ちのダガーを鎖に変形させ、頭上で振り回して勢いをつけると……
「せぇ、のっ!」
視界の中で段々と小さくなるサイレントプテラに向かって投擲した。
ジャララララッ……!
鎖の先端が遠ざかる翼影に追いすがり、その尻尾にしっかりと巻き付いた。
よし! ウィングタイガー戦ではこのまま地面に叩きつけたが、今回はそれだとトモミンが危ない。なら……
「う…… うおぉぉぉぉぉっ……!」
俺は上空に伸びる鎖をしっかりと握りしめながら、それを高速で巻き取り始めた。
少し間抜けな絵面だが、弛んでいた鎖は途中からピンと張り、巨大な翼影が見る見る内に近づいてくる。
「し、ししょ〜! 助けて〜!」
上空でジタバタと暴れるトモミンの泣き顔までよく見える。よし、この高度ならもう大丈夫だろう。
「トモミン準備しろ! 今切り離す!」
今なら間合いの内だ。俺は刀を抜き放つと、刀身を伸長させながらコンパクトに振るった。
ザン!
「グェッ!?」
サイレントプテラの両脚が切断され、トモミンは無事地面に着地する。
ほっと安堵の息を吐きながら見ていると、彼女はキッと上空を睨みながら足を撓め……
「この馬鹿鳥……! 潰れちゃえ!」
ドッ!
強靭な脚力で高く飛び上がり、モーニングスターをサイレントプテラの脳天に打ち下ろした。
「ギュベッ!?」
上空で踏ん張っていた翼影が力なく地面に墜落し、トモミンは再び着地した。
「こ、怖かったよぉ…… あっ……!?」
涙を拭いていた彼女が、急に焦った様子で自分のスカートを確認し始めた。どうしたんだ? あ……
”トモミン、無事でよかった……!”
”狩山師匠、今日も最高に師匠してるぜ!”
”ん……? トモミンどうした? あ……”
”やっちゃったか? まぁ、急にあんな高さに連れ去られたら仕方ないでしょ”
”そうそう。俺だってあの状況なら盛大に漏らす自信があるし”
”そんなに誇られても……”
「ち、違うよ! 今回は漏らしてないよ!」
変な盛り上がりを見せるコメント欄に彼女が怒鳴り返す。が、それは完全に失言だった。
”今回は……?”
”自供しとるwww”
”つまり、前科持ちって事か”
”TSKR”
”おいお前ら止めておけ、女子になんて事を聞くんだ。トモミン、俺は味方だ。だからその前回とやらについて詳しく教えてくれ”
”↑いや、一番の敵だろ”
「こ、こらー! 変な話題で盛り上がるなぁー!」
「トモミン、今は戦闘に集中しろ!」
「ぅぐっ…… もー、八つ当たりしてやるー!」
そのまま鬼の形相で突貫した彼女は、獅子奮迅の活躍で立ち回り、ラプトルの大群をほとんど一人叩き潰してしまった。
その後は魔物の襲撃もなく、野営の時間となった。つまりは夕食の時間だ。
俺たちは今回も異様い硬い保存食を持ってきていたのだけれど、今日はトモミンがいいものをゲットしてくれた。
調理を終えた俺は、ソワソワと待っていたみんなの前に大皿をドンと置いた。
「待たせたな。サイレントプテラの串焼きと、フルーツの盛り合わせだ」
「「わぁ……!」」
瞬間、焚き火を囲むみんなから歓声が上がった。
皿に乗っている山盛りの肉串の材料は、トモミンが倒したサイレントプテラのドロップ品だ。
巨大なもも肉を大ぶりに切り、塩と香草を揉み込んで串に刺し、遠火でじっくりこんがり焼いたものである。しかし、トモミンが魔物を倒すと何故かドロップ率がいい気がする……
フルーツの方はジャングルで見つけて採集したものだ。いい感じにカットして、ノルフィナの魔法で冷やしてもらっている。このダンジョンは食べられるものが豊富でありがたい。
「ワンワン!」
「おっと、シロにはこっちだ。串から外してちょっと冷ましてあるぞ」
「美味しそうですねぇ……! カリヤマさん、は、早く食べましょうよ!」
「うんうん! 僕、もう我慢できないよぉ……!」
「ああ、そうしよう……! 頂きます!」
揃って手を合わせると、俺達は示し合わせたかのように肉串を手に取った。
カリリッ…… ジュワッ……!
「「……!」」
そして肉串を口にした瞬間、全員が目を見開いた。そしてすぐに二口目、三口目を口に運ぶ。
美味い……! 味は以前食べたヤマドリに似た印象だ。鳥の強烈な旨味がガツンと舌に乗ってくる……!
食感はかなりしっかりしてるけど、筋張った感じは全く無い。噛めば噛むほど肉汁が洪水のように溢れてくる…… 皮もカリッと香ばしくて最高だ!
”うんまそー! 焼き鳥屋行ってくる!”
”全員一言も喋らんけど、美味いのだけは伝わってくる”
”噛む瞬間の、カリッって音が暴力的すぎる……!”
”もうそのフルーツだけでもいいから食わしてくれ……”
”狩山シェフ、店開く気ない? 俺出資するよ?”
『クスクスッ…… 静カニナルヨ……』
荒ぶるコメント欄に続き、脳内に大精霊の声が響いた。恐らくサイレントプテラの『静音』スキルを習得できのだろう。
かなり有益なスキルなので、獲得できて嬉しいのだが、今はそれに反応する間も惜しい。
揺らめく焚き火の炎に照らされながら、俺たちは一心不乱に肉串を喰らい続けた。




